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2021年6月30日

気候変動適応を研究から支えるセンター

【気候変動適応センターの紹介】

向井 人史

1. 気候変動待った無し

 私たちが直面している気候変動の状況はここ数年で大きく変化してきています。日本では台風や豪雨による災害が毎年のように続いています。2018年に日本が気象による災害が世界で最も大きかった国として報告されています。気候変動はトレンドとして暖かくなることに加え、極端な気象現象として私たちの目の前に現れてくることが多く、日常生活や企業活動、産業活動に大きな影響を与えます。例えば、西日本を中心に降雪の減少が報告されているように、積雪量は少なくなりスキー場の継続などが問題になる一方で、ある瞬間には私たちの想定以上に雪がつもり、高速道路上にたくさんの車が立ち往生するといった状況を作り出したりします。自然環境に目を移すと、花の咲くタイミングが早くなったり、紅葉が遅くなったり、虫や魚がどんどん北に移動していたり、自然界の季節のリズムと共に全体が昔と変わってきたと感じることが多くなっています。

 これらの気候変動に対してどのように持続的に社会や自然を維持するのかという問題は、気候変動の適応という問題に属します。気候変動適応法のもとで2018年12月に設立した気候変動適応センターでは、気候変動影響や適応に関する科学的な情報を基にその対処法や備えをいろいろな方々と一緒に考えながら進んでいくという使命を持っています。

2.新たな組織

 第5期中長期計画からは、気候変動適応センターは一つのユニットとして機能するように組織が編成されました。その中に、図1のような研究室と推進室を作りました。

 4つの研究室はそれぞれ、観測、モデル予測、適応戦略に加えて、アジア太平洋の適応施策に展開するための研究室を配置して、気候変動の適応に関する研究を環境分野や健康分野、産業、国民生活などをターゲットに推進していくことを目指しています。またこれらの研究成果などを踏まえながら、地域や国、さらにはアジア諸国への適応の支援を目指した推進室を配置しています。

気候変動適応センターにおける研究室・推進室構成の図
図1 気候変動適応センターにおける研究室・推進室構成

3. 研究と支援の両輪で

 気候変動適応センターは、これまでの他の研究領域と大きく異なる点が「支援」と言われている部分が明確にあることです。支援と言っても行政的な機関ではなく、むしろ科学的な見地からに立脚している点が特徴的です。気候変動に対する適応施策を推進する各種のステークホルダーの方や組織に対して、科学的、技術的な情報をもとに支援をすることを通して、日本ならびに国際的な適応施策の推進に貢献していこうというもので、国立環境研究所の中でも、特に社会との広い結びつきを強く意識した、新たな研究領域への取り組みと言えるでしょう。

 研究プログラムは所内の広い領域から研究者が集まり、陸域生態系や海洋生態系をはじめとする生物の変化や内湾や湖沼、流域河川、大気の変化などを観測、将来予測する研究を行っていきます。また、近年の大きな行政的問題として暑熱環境が挙げられており、暑さなどの人間への健康や作業効率への影響などの問題も重点的に取り扱う予定です。将来を考える場合、どのような気候シナリオを使うべきなのか、その時の社会情勢をどのように加味するのかなど、実際の社会に対応した予測情報と言うものが現場の計画や施策に役立つと考えられますので、シナリオに対する研究を行う必要があります。その中でどのように適応策を打っていけば、より持続的な社会が実現できるのかなど、適応策の戦略に関しては今後大きな研究課題となると考えています。

気候変動適応センターの活動の3本柱の図
図2 気候変動適応センター(Center for Climate Change Adaptation)の活動の3本柱

 一方で、現状の気候変動影響観測結果の集約や将来影響のデータベース化、また適応策の技術体系などを整理していきながら、広く国内、国際的な情報を収集・分析して、そういった科学的知見を気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)やアジア太平洋のプラットフォーム(AP-PLAT)から提供するための基盤事業を行っていく予定です。

 こういった研究や基盤事業を背景とし、環境省とも協力しながら、適応施策推進のための支援活動として、各種研修会や意見交換会、さらには地域の適応センターなどとの共同研究や地域の支援を行っていきます。まだ国内では気候変動適応への動きは始まったばかりであり、地方公共団体や市民、事業者にとっても新しい考え方であることから、現場や状況に合わせてステークホルダーと共に適応の考え方を議論しながら、施策を一緒に推進していく必要があります。同時に、国内の国の研究所との連携やアジアの適応関連機関との連携などを通して、より広い気候変動影響・適応分野に対してもコミュニティーの形成などを行っていかなければならないと考えています。

(むかい ひとし、気候変動適応センター センター長)

執筆者プロフィール

筆者の向井人史の写真

徳島育ちなのですが、最近暑さに弱くなりました。というか、身の回りの気象の変化が大きくなったのかもしれません。寄る年波のせいばかりでもないだろうと思っています。

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