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2021年6月30日

安全確保社会を目指した新たなスタート

【環境リスク・健康領域の紹介】

渡邉 英宏

 科学と技術の発達により、私達は様々な面で便利さ、快適さを享受できるようになっています。特に、大量生産、大量消費によって製品のコストダウンが進み、多くの人々がより便利で快適な物を手にすることができるようになりました。その面ではとても住み易い社会が構築されています。現代よりも以前の、科学・技術が未だ発達していなかった社会では、自然に対する負荷は人の力のみであり、自然の還元力により環境を保つことが可能でした。しかしながら、現在では、自然が浄化や還元できるレベルを超えた負荷を与え続け、環境問題となって私達に問いかけられています。

 この問題を解決するためには、第5次環境基本計画で提唱されている様に、今後、環境・経済・社会の全体のバランスを考え、統合的に物事をとらえ考えていく必要があります。化学物質に関して言えば、より良い暮らしを求めて多種多様な化学物質が製造され、利用されている現状で、化学物質が人や生態系に及ぼす影響を知り、化学物質と上手に付き合っていく社会の構築が一層必要となっていくでしょう。

 以上の背景の中、私達、環境リスク・健康領域では、環境研究を通して安全が確保された社会構築を目指すことを大きな目標として研究を進めています。本年度からスタートした第5期中長期計画では、化学物質の人や生態系に対する環境リスクを管理することで、安全確保社会の構築を目指します。このためには、大気、水、土壌といった自然環境の中での化学物質の状況、化学物質の人と生態系に対する曝露、そして人と生態系に対してどの様な影響が生ずるかについて知る必要があり、このために自然科学研究のアプローチを行います。この自然科学研究から得られた知見を通して人と生態系に対するリスク評価、管理を行い、社会実装を目指す政策対応研究のアプローチも必要となります。

 そこで、これらの研究を行うべく、図に示すように、環境リスク・健康領域では、人の健康、生態系に対する環境研究を行う10研究室、基盤となる環境計測を進める環境計測センター(2研究室)、そしてエコチル調査コアセンターの体制で、一体となって研究を進めていきます。

第5期中長期計画での環境リスク・健康領域の体制の図
図1 第5期中長期計画での環境リスク・健康領域の体制

 生態系に関する研究室は、生態毒性研究室、曝露影響計測研究室、生態系影響評価研究室、リスク管理戦略研究室で構成されます。ここでは、化学物質の生態影響を評価し、化学物質の環境を介した曝露・影響把握手法などを開発し、沿岸生態系の生物相回復を目指し、地球・地域規模でのリスク管理を目指した研究を進めます。人の健康に関する研究室は、統合化健康リスク研究室、病態分子解析研究室、生体影響評価研究室、曝露動態研究室、曝露疫学研究室で構成されます。ここでは、環境汚染物質の生殖発生、呼吸器系、次世代に対する影響、脳神経系などに対する影響、疾患発症と進展に対する影響などの評価法開発やメカニズム理解を目的として、動物実験などを通して研究を進めます。これに加えて、化学物質曝露後の体内動態を知り、疫学調査・研究を通して健康影響評価などを知る研究を進めます。環境リスク科学研究推進室では、得られた知見をベースとして政策に繋げることを目的として研究を進めます。第5期中長期計画より新しく加わった基盤計測センターは、環境標準研究室、計測化学研究室で構成され、環境標準物質の開発、環境試料の系統的な収集や長期保存、計測精度の維持・向上のため、観測・計測・解析手法の開発や応用を行います。エコチル調査コアセンターでは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」について、調査の中心機関として総括的な管理・運営を行います。

 第5期中長期計画では、この組織体制で、所内の連携で進める戦略的研究プログラムに関しては、包括環境リスク研究プログラムを中心的な役割を担って取り組みます。このプログラムでは、化学物質に起因する健康有害性(PJ1)と生態系有害性(PJ2)の研究を進め、包括的な化学物質の計測手法を開発し(PJ3)、化学物質の排出および環境動態の推計手法を開発し(PJ4)、これらのPJで得られた知見から包括健康リスク指標と包括生態リスク指標を示し、リスク評価、管理に繋げる(PJ5)ことを目指します。この構成によって、対象物質を製造・使用されている全懸念物質に広げることを目指し、これまで定量化が困難であった影響・リスク評価を行っていきます。

 このように、環境リスク・健康領域は、人の健康と生態系の安全確保という大きな目標を目指して、多分野の連携を進めながら前進していきたいと思います。今後とも、研究活動に対するご指導、ご支援を宜しくお願いいたします。

(わたなべ ひでひろ、環境リスク・健康領域 領域長)

執筆者プロフィール

筆者の渡邉英宏の写真

趣味は、水泳、ランニング、自転車など体を動かすことと、読書、音楽鑑賞、知ること、考えることなどなどです。フルマラソンには参加できなくなっている状況ですが、ランニングを続けていまして、昨年度は、年間2,000 km走ることができました。本年度も達成したいなと思っています。

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