ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2021年6月30日

人と社会と環境-社会システム領域の概要

【社会システム領域の紹介】

亀山 康子

 環境研究は、環境問題を解決するためにあります。環境問題を解決するためには、自然や生態系の変化や動態を調べることが重要ですが、それと同じくらい、人間社会や人間行動についても研究していくことが必要です。なぜなら、人間社会・人間行動は、多くの環境問題を生み出す原因であると同時に、その結果としての被害の受け手でもあるからです。

 社会システム領域では、人間社会や人間行動と環境との関係に焦点を当て、環境が良好な中で人間がゆたかで幸せな社会を構築する道筋を探ります。最近SDGs(持続可能な開発目標)でお馴染みの「持続可能性」という概念は、環境保全、経済的発展、社会的安定性が同時達成される状態を目指しているという点で、私たちの立ち位置と合致します。私たちは、日常生活において常に環境問題を最優先で考えて生きているとは限りません。それ以外にも自分たちにとって大切なことがたくさんあります。それらの大切なことも実現しつつ良好な環境を維持するためには、どのような行動が求められるのでしょうか。

 世の中のほぼすべての学問分野が環境研究と接点を持ちえますが、その中でも特に人間活動や社会に近い学問分野として、工学や経済学、その他社会科学があります。工学の中でも特に、コンピュータモデルの開発やそれを用いた分析、シミュレーション、システム解析といった研究分野が社会システム領域の中心を担っています。これらの学問を基盤として、地球規模の持続性に関する検討から、産業技術、地域計画、そして個人の認識まで幅広くカバーします。得られた研究の成果は、実際の環境政策実施と密接に関連していきます。環境問題の解決という明快な目的に向かって研究を進めているうちに獲得できた新たな手法や知見を学問分野にフィードバックすることも、研究者として重要な役割です。

 今年度から立ち上がる研究プログラムの中で、社会システム領域は主に脱炭素・持続社会研究プログラムを担います。温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す気候変動対策を、より広範な持続社会構築の中に位置づけて、包括的に検討するプログラムです。社会システム領域の構成員がこのプログラムに従事することで、地球規模での環境制約下(プラネタリーバウンダリー)で人類がエネルギーや土地、資源を利用する時の資源発掘から利用、再利用そして廃棄までの経路、環境破壊が人間社会に及ぼす影響、その中で日本をはじめとする国々が排出量を減らしていくための技術や対策、さらにはそのような社会転換に人々が合意できるための制度的検討を行います。

 そのほか、持続可能地域共創研究プログラムでは、地方自治体などの地域スケールで地域特性を考慮しつつ、大気や水質等の環境問題を包含した研究が実施されますが、その中で社会システム領域構成員は、産業工業地帯でのまとまったエネルギー・資源利活用や、都市部/非都市部の違いによる住まい方や人々の行動の違いなどについて検討します(図1)。

社会システム領域の見取り図
図1 社会システム領域の見取り図

 さらに新たな挑戦として、時間軸の観点も積極的に検討対象に織り込んでいく予定です。多くの環境問題は長期的展望が求められます。しかし、長期的にみれば全体として得をするはずなのに、短期的に見て対策費用ばかりがかかってしまうように受け止められてしまうことがあります。例えば、気候変動対策は、将来増加が予想されている異常気象等による損害を軽減することが目的の一つであるにもかかわらず、対策を実施するために現在必要となる費用の観点から議論されがちです。将来世代に何を残すのか。社会の構成員である皆様とともに考えていきたいと思っています。

(かめやま やすこ、社会システム領域 領域長)

執筆者プロフィール

筆者の亀山康子の写真

最近の脱炭素社会に向けた動きは、日本においては、より大きな社会転換の一部のように映ります。ジェンダー格差からPTA活動まで。これまでなんとなく違和感を持っていても、それを口に出すとやっかいな人と思われるのが嫌で黙っていた人々が、「やっぱりおかしいと思う」と声を上げ始めました。関係ないと思われていた人々が、ムーブメントを担っています。

関連新着情報

関連記事