ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2021年10月29日

衛星リモートセンシングを用いた全球
およびオーストラリアの森林火災による二酸化炭素
放出量の研究の紹介

特集 温室効果ガスや大気汚染物質の排出実態を迅速に把握する


【研究ノート】

白石 知弘、平田 竜一

1. はじめに

 全球の森林火災による二酸化炭素放出量の研究を紹介します。森林火災は二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果ガスを排出し、地球規模での炭素循環に影響を与え、温暖化を促進させる原因の一つです。バイオマス燃焼は化石燃料起源を含む全世界の総炭素放出量の約6%から20%寄与していると報告されていますが、温室効果ガス放出量の推定値には不確実性が含まれます。本研究では、衛星リモートセンシングを用いた地球全域での森林火災と近年特に被害の大きかった2019/2020年のオーストラリアでのCO2放出量推定について紹介します。

 森林火災による温室効果ガス発生量を推定するためには、燃焼面積(m2)、バイオマス密度(kgm-2)、燃焼効率(0から1)、排出係数(gCO2kg-1)の積で算出されます。燃焼効率と排出係数は土地被覆により決定されます。従来の手法では、土地被覆はカテゴリごとにバイオマス密度に定数が割り当てられていましたが、本研究では最新の全球地上バイオマス図を用いることにより、バイオマス燃焼の発生場所に応じた燃焼面積を割り当てます。本研究では、不確実性を考慮し、2種類の土地被覆図(GLC2000とMCD12Q1)と2種類の地上バイオマス図 (GlobbiomassとGEOCARBON)を使用し、次に示す4組の入力データセットの組み合わせを用いて、それぞれ2001年から2018年までを推定しました。燃焼面積はアメリカの観測衛星MODIS から得られたMOD14A1というデータを使用しています。
 1.GEL:GLC2000/Globbiomass
 2.GWL:GLC2000/GEOCARBON
 3.MEL:MCD12Q1/Globbiomass
 4.MWL:MCD12Q1/GEOCARBON
(以下では、先頭のアルファベット3文字(GEL、GWL、MEL、MWL) を入力データセットの呼称として用います。)

2. 森林火災による全球のCO2放出量

 推定された森林火災によるCO2放出量の世界分布図を図1に示します。これは、2001年から2018年にかけて4組の入力データセットから推定されたCO2放出量の平均値をマップ化した結果です。アフリカでの森林火災によるCO2放出量は、世界全体の約半分に相当します。続いて、豊富な炭素貯蔵量を持つアマゾンが分布する南アメリカが15%、熱帯泥炭林が広がる赤道アジアが10%、近年大規模火災の報告が多いシベリアを含む寒帯地域が9%、オーストラリアが7%を占めていました。

バイオマス燃焼によるCO2放出量の世界図
 図1 バイオマス燃焼によるCO2放出量(TgCO2year-1)の世界図。図は2001年から2018年における4組の入力データセットから得られた年次放出量の平均分布

 図2に4組の入力データセットから推定された2001年から2018年の世界の年間CO2放出量(PgCO2year-1)の年次変動を示します。MELがGWLに対し約4倍の放出量となり、入力データセットの違いにより、非常に大きなバラツキがあることが分かりました。他の火災放出量のデータ(GFED4.1s、GFASv1.2、FINN1.5)と2003年から2018年の平均年間放出量を比較すると、MWLが6.55P(ペタ:1015)gCO2year-1、4組の入力データセットの平均が8.43PgCO2year-1、GFED4.1sが6.88PgCO2year-1、GFASv1.2が6.51PgCO2year-1、FINN1.5が6.13PgCO2year-1であり、MWLは他のデータセットと近い値を示し、4組の入力データセットの平均は他のデータセットより大きい傾向がありました。

4組の入力データセットから推定された2001年から2018年の世界の年間CO2放出量の図
図2 4組の入力データセットから推定された2001年から2018年の世界の年間CO2放出量(PgCO2year-1)の比較。

3. 2019〜2020年にオーストラリアで発生した大規模火災によるCO2放出量

 2019~2020年にオーストラリアで発生した大規模火災によるCO2放出量の定量的な解析研究を行いました。オーストラリアではしばしば大規模な森林火災に見舞われています。2019/2020年にも大規模な森林火災が発生しました。本研究ではこの大規模森林火災によるCO2放出量に着目し、その定量評価、空間変動、原因について解析を行いました。

 2019年11月から2020年1月にかけて、オーストラリア東部に位置するニューサウスウェールズ州東部およびビクトリア州東部において深刻な森林火災が発生しました ( 図3)。この時期に森林火災によるCO2放出量は最大を記録し、その後2020年2月に森林火災は収束しました。2019年3月から2020年2月におけるオーストラリア全域からの森林火災によるCO2放出量は806±69.7TgCO2year-1に達し、そのうち、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州からの二酸化炭素放出量はそれぞれ約55%と約15%を占めていました。このオーストラリア全域からの森林火災によるCO2 放出量は2001年から2018年の年平均値の2.8倍になります。また、この値は2017年のオーストラリアの人為起源による温室効果ガス総放出量の1.5倍に相当します。

森林火災による二酸化炭素放出量が最も大きかった2019年12月の二酸化炭素放出量の空間分布図
図3 森林火災による二酸化炭素放出量が最も大きかった2019年12月の二酸化炭素放出量の空間分布。単位は(TgCO2grid-1month-1

 2019年12月の森林火災による月次CO2放出量は過去20年間で最大でしたが、森林火災面積も最大というわけではありませんでした。過去20年間で2019年12月より森林火災面積が多かった月は12回あり、年間で見た場合でも2012年は、2020年より森林火災面積が広いものの、二酸化炭素放出量は小さいことがわかります(図4)。これは、今回深刻な森林火災が発生したニューサウスウェールズ州東部およびビクトリア州東部( 図3で示した緑の楕円の地域) では森林が広がり、300Mgha-1を超えるほどバイオマスが大きい地域であったためです。

 森林火災の原因の一つは降水量が極端に低く、極度に乾燥したことだと考えられます。2019年の降水量は2001年から2018年の年平均降水量の53%しかありませんでした。特に森林火災が深刻だった2019年10月から12月までのニューサウスウェールズ州およびビクトリア州における降水量は、2001年から2018年の同じ時期の平均降水量の29%および57%でした(図5)。月毎の森林火災によるCO2放出量は降水量の減少に伴い増加する傾向がありました。

オーストラリア全土における月毎の森林火災による二酸化炭素放出量と森林火災面積の図
図4 オーストラリア全土における月毎の森林火災による二酸化炭素放出量(黒の折れ線グラフ:左の軸)と森林火災面積(赤の棒グラフ:右の軸)
ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の月毎の森林火災面積と降水量の図
図5 ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の月毎の森林火災面積(左軸)、降水量(各領域の積算)(右軸)

4. おわりに

 森林火災による二酸化炭素の放出量の推定は衛星からの面積推定、土地被覆図、バイオマス、燃焼効率などそれぞれ不確定要素があり、それらが推定結果に大きなバラツキを生むことが分かりました。本研究の推定方法は全球から地域レベルまでの、火災放出量を推定可能であることを示しました。我々は複数のデータセットを用いて推定を行いましたが、今後も不確実性を低減し、推定精度の向上を目指すことが重要と考えています。

(しらいし ともひろ、地球システム領域 地球環境研究センター
陸域モニタリング推進室 高度技能専門員)

(ひらた りゅういち、地球システム領域 地球環境研究センター
陸域モニタリング推進室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の平田竜一の写真
平田 竜一

白石 知弘
プログラム一筋20年やっています。

平田 竜一
去年はコロナ禍で20年ぶりに海外に行きませんでした。

関連新着情報

関連記事