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2023年12月28日

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気候変動に伴う暑熱関連死亡の将来予測
エアコン利用の重要性と人工排熱低減対策の必要性が明らかに

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、経済産業記者会、経済産業省ペンクラブ、中小企業庁ペンクラブ、資源記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)

2023年12月28日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
国立研究開発法人産業技術総合研究所

 

 東京大学、産業技術総合研究所、国立環境研究所からなる研究チームは、関西7都市を対象に、エアコン利用が将来の暑熱関連死亡数注釈1 にもたらす効果を評価しました。この評価に際し、エアコン利用による暑熱関連死亡リスクを抑えるメリット及びエアコンからの人工排熱による外気温上昇のデメリットの両方を初めて考慮しました。評価は現在・過去気候条件下に加え、気候変動により気温が0.5℃から3.0℃上昇する将来の気候変動シナリオを対象に実施しました。評価の結果、エアコン保有率が0%である場合に予測される暑熱関連死亡数に対し、エアコン利用により現在・過去気候条件下では36%、+3.0℃の気候変動が生じる将来シナリオ(以下「+3.0℃シナリオ」という。)では47%の暑熱関連死亡数の減少が予測された一方で、人工排熱がもたらす都市気温の追加的な上昇により、現在・過去気候条件下では3.1%、+3.0℃シナリオでは3.5%の暑熱関連死亡数の増加が見込まれました。本研究により、気候変動への対策としてのエアコン利用の重要性についての理解を深めるとともに、将来の対策検討に向けて重要な知見を得ることができました。
 本研究の成果は、2023年11月7日付けでエルゼビア社から刊行される国際学術誌『Environment International』に掲載されました。

1. 研究の背景と目的

エアコン利用は、暑さから身を守るための有効な手段となっています。その一方で、エアコン利用に伴う屋外への人工排熱により都市部の気温が上昇し、ヒトの健康に影響を及ぼす可能性も指摘されています。気候変動による気温上昇に伴い、エアコン利用がますます重要となるなか、適切なエアコン利用がヒトの健康にもたらすメリット及びエアコンからの人工排熱による外気温上昇がヒトの健康にもたらすデメリットのどちらも考慮した上で、その効果を把握することが必要となっています。しかし現状では、人工排熱の寄与までを考慮して、エアコン利用がヒトの健康にもたらす効果を評価した研究はありませんでした。そこで本研究では、ヒトの健康として暑熱関連死亡数に注目し、エアコン利用がもたらすリスクへの影響を評価しました。

2. 研究手法

本研究では、一年の中で最も暑い8月を対象に、エアコン利用が暑熱関連死亡数にもたらす効果を評価しました。対象地域は、大阪市、堺市、神戸市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市の関西7都市としました。また、現在・過去気候条件下(2000年から2010年まで)に加え、気候変動により日本付近の気温上昇が0.5℃から0.5℃刻みで3.0℃までの6通りの将来シナリオ(+0.5–3.0℃シナリオ注釈2)を対象に評価を実施しました。
各都市の気温は、本研究の著者の一人が先行研究(Takane et al. 2019 注釈3)で改良した都市気候モデルを搭載した地域気候モデル(WRF [Weather Research and Forecasting] )を用いて推定しました。この都市気候モデルと地域気候モデルの組み合わせにより、「都市の気温上昇⇒エアコンの使用⇒人工排熱の増加⇒都市の更なる気温上昇」という、実際の都市に存在する悪循環もコンピュータ上で再現することが出来ます。
気温と暑熱関連死亡数の関係(リスク関数)は、1976年から2009年までの52都市における気象観測データ注釈4と全死因死亡数データ注釈5を用いて推定しました。この推定は、この期間においてエアコン保有率が一定ではないことから5年(最初のサブ期間のみ4年)ごとに7つのサブ期間に分けて実施しました注釈6。こうすることで、サブ期間ごとのエアコン保有率の違いを考慮に入れた気温と暑熱関連死亡数の関係を推定することが可能となります。
上記の都市気候モデルとリスク関数を用いて、現在・過去気候条件下及び+0.5–3.0℃シナリオ下における暑熱関連死亡数を評価しました。評価に際して以下の3つの想定を設定しました。  ① エアコン保有率が100%で、エアコン利用による人工排熱も考慮した場合の暑熱関連死亡数  ② エアコン保有率が100%であるが、エアコン利用による人工排熱をゼロとした場合の暑熱関連死亡数  ③ エアコン保有率が0%で、エアコン利用による人工排熱がゼロである場合の暑熱関連死亡数 ①と②の比較により、人工排熱により暑熱関連死亡数がどの程度増加するか、①と③の比較により、エアコン利用により暑熱関連死亡数がどの程度減少するかを評価することが可能になります。なお、本研究では将来に渡って人口は一定としました。

3. 研究結果

ここでは関西7都市の日平均気温の結果を平均した値を示します。エアコン利用による屋外への人工排熱により、8月平均の都市気温は、現在・過去気候条件下で0.046℃、+3.0℃シナリオで0.181 ℃上昇することが予測されました(図1参照)。エアコン保有率が0%である場合に予測される暑熱関連死亡数に対して、エアコン利用により現在・過去気候条件下では36%、+3.0℃シナリオでは47%の暑熱関連死亡数の減少が予測されました(①と③より算定、図2参照)。その一方で、人工排熱に伴う都市気温の上昇に伴い、現在・過去気候条件下では3.1%、+3.0℃シナリオでは3.5%の暑熱関連死亡数の増加が予測されました(①と②より算定、図2参照)。エアコン利用は暑さから身を守る大きな効果がある一方で、エアコン利用に伴う都市気温の追加的な上昇により、一定の暑熱関連死亡数は避けられないことが明らかになりました。このことから人工排熱を低減するための対策等の必要性が示唆されます。なお、気温による死亡リスクの推定には不確実性が大きいことから、エアコン利用に関連する暑熱関連死亡数にも不確実性があることに留意が必要です。

図1の画像
図1 現在・過去気候条件下(+0.0℃)及び+0.5–3.0℃シナリオ毎の人工排熱の有無による8月平均気温。

図2の画像
図2 現在・過去気候条件下(+0.0℃)及び+0.5–3.0℃シナリオ毎の暑熱関連死亡数。水色はエアコン利用に伴い減少した暑熱関連死亡数を、赤色はエアコン利用に伴う人工排熱がもたらす暑熱関連死亡数を示す。灰色のエラーバーは95%信頼区間(不確実性の指標)を示す。括弧内のパーセンテージは、それぞれのシナリオにおいて、エアコン保有率が0%の場合に予測される暑熱関連死亡数に対する割合を示す。

4. 今後の展望

エアコン利用に伴うヒトの健康への影響として、本研究で対象とした人工排熱の他、エネルギー使用に際して生じる大気汚染の影響も懸念されます。また、化石燃料を用いた発電に伴う温室効果ガスの排出が地球温暖化をさらに助長することも懸念されます。このような影響も考慮した上で、より包括的なヒトの健康に対するエアコンの正味の有効性を明らかにする研究が必要と考えています。

5. 注釈

注釈1 暑熱関連死亡数として暑さに起因する超過死亡者数を算定した。 注釈2 気候変動により日本付近の気温が+0.5℃、+1.0℃、+1.5℃、+2.0℃、+2.5℃、+3.0℃となる6つの将来気候シナリオを設定。図1及び図2の+0.0℃は現在・過去気候条件下に該当。 注釈3 Takane, Y. et al. (2019). Urban warming and future air-conditioning use in an Asian megacity: importance of positive feedback. Npj Clim Atmos Sci. 2, 39. 注釈4 県庁所在地点の気温データを用いた。 注釈5 厚生労働省・人口動態統計より52都市の全死因死亡数データを用いた。 注釈6 1976年から1979年まで、1980年から1984年まで、1985年から1989年まで、1990年から1994年まで、1995年から1999年まで、2000年から2004年まで、2005年から2009年までのサブ期間毎に実施しました。

6. 研究助成

本研究は科学技術振興機構SICORP(JPMSC20E4)、(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費課題SII-11-2(2) 都市居住者の健康影響評価(JPMEERF23S21120)及び1-2307 極端高温等が暑熱健康に及ぼす影響と適応策に関する研究(JPMEERF20231007)の支援を受けて実施されました。

7. 発表論文

【タイトル】Net impact of air conditioning on heat-related mortality in Japanese cities 【著者】Paul L.C. Chua, Yuya Takane, Chris Fook Sheng Ng, Kazutaka Oka, Yasushi Honda, Yoonhee Kim, Masahiro Hashizume 【掲載誌】Environment International 【URL】https://doi.org/10.1016/j.envint.2023.108310(外部サイトに接続します) 【DOI】10.1016/j.envint.2023.108310(外部サイトに接続します)

8. 研究チーム

本研究の研究チームは以下のとおりです。
国立大学法人東京大学大学院医学研究科
 国際保健学専攻 国際保健政策学
  教授 橋爪 真弘
  准教授 ウン クリス・フック・シェン
  助教 チュア ポール・レスター・カルロス
 公共健康医学専攻 国際環境保健学
  准教授 キム・ヨンヒ

国立研究開発法人産業技術総合研究所
 環境創生研究部門 環境動態評価研究グループ
  主任研究員 髙根 雄也

国立研究開発法人国立環境研究所
気候変動適応センター 気候変動適応戦略研究室
主幹研究員 岡 和孝
客員研究員 本田 靖

9. 問合せ先

国立研究開発法人国立環境研究所
研究担当者:気候変動適応センター 気候変動適応戦略研究室 主幹研究員 岡 和孝
広報担当者:企画部広報室
      kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

国立研究開発法人産業技術総合研究所
研究担当者:環境創生研究部門 環境動態評価研究グループ 主任研究員 髙根 雄也
広報担当者:ブランディング・広報部報道室
      hodo-ml (末尾に”@ aist.go.jp”をつけてください)

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