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2021年11月3日

共同発表機関のロゴマーク
G20の消費はPM2.5の排出を通じて年200万人の早期死亡者を生む

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、京都大学記者クラブ、大阪科学・大学記者クラブ、九州大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)

2021年11月2日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
資源循環領域 国際資源持続性研究室
 室長(プログラム総括)南齋 規介
高度技能専門員(デザイナー) 高柳 航
地域環境保全領域 大気モデリング研究室
 主幹研究員 茶谷 聡
京都大学
 名誉教授 東野 達
総合地球環境学研究所
 准教授 金本 圭一朗
九州大学 大学院 経済学研究院
 主幹教授 加河 茂美
早稲田大学 政治経済学術院
 教授 近藤 康之
The University of Sydney, ISA
 Prof. Manfred Lenzen
 

   国立環境研究所(物質フロー革新研究プログラム)、京都大学、総合地球環境学研究所、九州大学、早稲田大学、豪州シドニー大学の研究チームは、G20諸国の消費者が購入する製品やサービスの生産によって生じるPM2.5(微小粒子状大気汚染物質)発生量を全球規模で推計し、その曝露により生じる世界各国の早期死亡者(平均死亡年齢よりも前に発生する死亡)は年間約200万人に上ることを解明しました。その中には、約8万人の乳幼児(5歳未満)が含まれます。
   解析はG20のEUを除く19カ国を対象に、2010年の各国の消費がグローバルなサプライチェーンを通じて誘発する大気中のPM2.5濃度を計算し、その曝露に起因する早期死亡者を推計しました。
   結果、G20の消費はPM2.5の排出を通じておおよそ200万人の早期死亡者を一年間で生じさせると推計されました。その中で日本の消費は年間約4万2千人の早期死亡者(死亡時平均年齢70歳)を国内外で引き起こし、死亡者の74%は中国やインドなどをはじめとする日本国外に住む人でした。一人当たりの消費でみると年間0.00033人の早期死亡者ですが、仮にこの消費が平均寿命まで続くと0.027人となるため、 換算すると約36人の生涯消費により一人の早期死亡が生じます。一方、日本国内の生産活動で生じるPM2.5による早期死亡者は約1万7千人(死亡時平均年齢76歳)と推計されました。すなわち日本の消費によるPM2.5の影響は生産よりも約2万5千人多く6歳若い(76歳と70歳の差)早期死亡者を生み出す状態にあります。これにより、日本は従来の生産側よりも消費側に対する大気汚染管理を推進することで早期死亡者を減らす機会を大きく拡大できることが明らかになりました。
   本研究の一連の成果の結論は次の通りです。G20はその消費がもたらすPM2.5の発生に対して責任を持つことで、G20が内外の多くの国と対策を協働する根拠を築き、特に乳幼児の早期死亡が多い途上国に対する支援を促進することが期待されます。
   本研究の成果は、2021年11月3日付で自然科学系の国際学術誌「Nature Communications」に掲載されます。
 

研究の背景

 大気汚染物質であるPM2.5(空気動力学径2.5マイクロメートル以下の粒子状物質)の曝露による人健康被害は深刻であり、世界保健機構(WHO)の報告では年間世界で約400万人の早期死亡者を生む生活習慣(高血圧、喫煙、高血糖、肥満、高コレステロール)に続く6 番目の死亡リスク要因です。WHOは人健康の観点から目指すべきPM2.5濃度を提示し、そのための対策として発電所、輸送機関、廃棄物処理などの燃焼技術の改善と脱煙、脱硝、脱硫装置の設置の必要性を明示しています。しかし、PM2.5の濃度が高い途上国の多くは、経済的技術的な制約から国際的支援がなければ早急な改善は見込めないのが実状です。一国のPM2.5の排出責任を生産側(生産基準)から消費側(消費基準)に向けることで、PM2.5による世界各国の早期死亡者に対する排出国の新たな関係性が顕在化することが知られています。つまり、途上国で発生している深刻なPM2.5の汚染は、その国の問題だけでなく、先進国などへの輸出のために発生していると考えることも可能です。そこで、国立環境研究所(物質フロー革新研究プログラム)、京都大学、総合地球環境学研究所、九州大学、早稲田大学、豪州シドニー大学の研究チームは、国際的ハイレベル政策会合を定例で持ち協働的対策の検討機会があるG20諸国に注目し、各国の消費が誘発するPM2.5の排出量とそれに起因する世界各国の早期死亡者(平均死亡年齢よりも前に発生する死亡)を推計することで、G20が消費基準の排出責任を持つ有益性を考察しました。

方法

 世界多地域間産業連関モデルと排出インベントリマップを接続し、G20の19カ国(議長権のないEUを除く)別に消費(国内最終需要)がグローバルサプライチェーンを通じて誘引するPM2.5の一次粒子(黒色炭素、有機炭素、その他成分)と二次粒子前駆物質(NOx、SO2、NH3、CO、NMVOC)の排出量を地図上に整備しました)。次に、この消費基準の排出分布が形成する大気中のPM2.5濃度を大気化学輸送モデルによって計算し、PM2.5曝露濃度と疾病リスクとの関係を示す統合曝露反応モデルと性別年齢別人口分布データを利用して発生する早期死亡者数を推計しました。分析対象年は2010年とし、5つの疾患(虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患、脳卒中、肺がん、下気道感染症)を考慮しました。

結果と考察

 G20の議長権を持つ19カ国の消費によって生じるPM2.5の暴露により年間約200万人の早期死亡者が世界で生じることが分かりました。その中には、約8万人の乳幼児(5歳未満)が含まれ、それが死亡時平均年齢を下げる要因となり67歳と推計されました。PM2.5の二次粒子による影響が消費基準の早期死亡者の半分以上を占める国が多く、二次粒子前駆物質の排出抑制の重要性が示唆されました。G20に住む人の一人当たり消費でみると、年間0.00046人の早期死亡者ですが、この消費がG20に住む人の平均寿命まで続くと仮定すると0.036人となります。逆数を取ると約28人の生涯消費により一人の早期死亡が生じると解釈することができます。
 国別では、人口の多い中国とインドの消費が突出して早期死亡の原因となり、それぞれ91万人と49万人に上ります。一方、両国の生産が誘発する早期死亡者は109万人と55万人であり、消費基準の方が生産基準より少ない特徴があり、他国の消費を支えるための早期死亡者が多く生じる構造です。しかし、日本、アメリカ、イギリス、イタリア、フランスなどの先進国は消費基準が生産基準を上回ります。先進国では国内の大気汚染対策と医療や公衆衛生の高さを反映して生産基準の影響が小さく抑えられています。輸入により途上国に与える影響の大きさとの乖離が顕著といえます。
 約8万人の乳幼児の早期死亡はG20内ではインド、中国、南アフリカの消費が主要因ですが、先進国の消費もこれらの国の乳幼児死亡に関与しています(図1参照)。例えば、アメリカと日本の消費はインドにおいてそれぞれ1300人と260人の乳幼児死亡を誘引します。またG20以外への影響も小さくなく、米国はアフリカ地域の550人、日本は同地域240人の乳幼児早期死亡と関係します。
 日本の消費は約4万2千人の早期死亡者(死亡時平均年齢70歳)を国内外で引き起こし(図2参照)ています。死亡者のうち74%は中国、インドなどをはじめとする日本国外に住む人でした。一人当たりの消費にすると年間0.00033人の早期死亡者ですが、仮にこの消費が平均寿命(約84歳)まで続くと0.027人となります。換算すると約36人の生涯消費により一人の早期死亡が起こります。一方、日本国内の生産活動で生じるPM2.5による早期死亡者は約1万7千人(死亡時平均年齢76歳)と推計されました。日本の消費によるPM2.5の影響は、生産よりも約2万5千人多く6歳若い(76歳と70歳の差)早期死亡者を生み出す状態にあります。これにより、日本は従来の生産側よりも消費側に対する大気汚染管理を推進することで早期死亡者を減らす機会を大きく拡大できることが明らかになりました。
 本研究の一連の成果の結論は次の通りです。G20は消費がもたらすPM2.5の発生に対して責任を持つことで、G20が内外の多くの国と対策を協働する根拠を築き、特に乳幼児の早期死亡が多い途上国に対する支援を促進することが期待されます。

G20各国の消費により発生するPM2.5に由来する乳幼児(5歳未満)早期死亡数を表した図
図1:G20各国の消費により発生するPM2.5に由来する乳幼児(5歳未満)早期死亡数;消費国と影響国("to")のネットワーク関係
G20各国の消費基準(Footprint)と生産基準(Production-based)によるPM2.5排出に起因する早期死亡者の平均死亡時年齢の比較(エラーバーは95%信頼区間)
図2:G20各国の消費基準(Footprint)と生産基準(Production-based)によるPM2.5排出に起因する早期死亡者の平均死亡時年齢の比較(エラーバーは95%信頼区間)

研究助成

 本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(16H01797、 18KK0322)の支援を受けて実施されました。

発表論文

【タイトル】
Consumption in the G20 nations causes particulate air pollution resulting in
two million premature deaths annually
【著者】
Keisuke Nansai, Susumu Tohno, Satoru Chatani, Keiichiro Kanemoto, Shigemi Kagawa, Yasushi Kondo, Wataru Takayanagi, Manfred Lenzen
【雑誌】
Nature Communications
【DOI】10.1038/s41467-021-26348-y
【URL】https://doi.org/10.1038/s41467-021-26348-y【外部サイトに接続します】(オープンアクセス)

問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
資源循環領域 国際資源持続性研究室 室長/物質フロー革新研究プログラム総括
南齋 規介

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jp) / 029-850-2308

京都大学 総務部広報課国際広報室
comms(末尾に@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp) / 075-753-5729

大学共同利用機関法人人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 広報室
kikaku(末尾に@chikyu.ac.jp) / 075-707-2450

九州大学 広報室
koho(末尾に@jimu.kyushu-u.ac.jp) / 092-802-2130

早稲田大学 広報室広報課
koho(末尾に@list.waseda.jp) / 03-3202-5454