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2019年4月26日

低炭素技術の社会実装に向けた産官学連携の取組

特集 地域の持続可能性を高めるロードマップの開発

藤井 実

 人為起源による気候変動の影響を受けていると思われる自然災害の増加が実感されつつある今日、緩和策と適応策を迅速に推進することが、一層重要な課題となっています。また、国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を、社会の多様な主体が強く意識し始めているように、様々な環境問題や社会・経済的な問題の解決に取り組むことが、重要な課題となっています。国立環境研究所の統合研究プログラムでは、これらの課題に取り組むため、複数の学問分野の知見を結集し、世界規模から小さなコミュニティの規模まで、対象とする環境問題やエネルギーシステム等の空間規模に応じて問題の分析を行い、その解決に資する対策技術・政策の提案や、その効果の評価や対策の普及に資する研究活動を実施しています。統合研究プログラムの3つのプロジェクトのうちの1つである、プロジェクト「適応と緩和を中心とした地域環境社会統合的なロードマップ研究」では、大小複数の空間規模の土地利用モデルを核にして、地域の資源やエネルギーの供給、需要、ストック量の変化等の分析を行い、各地域の条件に適合する対策を詳細に検討するとともに、同様の対策を他の地域にも展開して普及を促進することとの両立を図っています。

 プロジェクトでは多様な研究が実施されていますが、本稿では工場や工業団地の低炭素化に資する研究を事例に、産官学の連携研究について紹介します。低炭素化を推進する上では、再生可能なエネルギー源や、廃棄物の持つエネルギーの利用を拡大するとともに、化石燃料を含めて総てのエネルギーを効率的に利用することが重要です。新たな技術が登場するために、将来どのような技術が普及しているのかを予測することはしばしば困難ですが、エネルギーの転換や利用の効率化については、熱力学によってその限界が規定されており、思いもよらない技術が登場することはありません。多数の選択肢がある中で、将来においてもその優位性を失わない技術や、技術を組み合わせたシステムを描いておくことは、ある程度可能です。研究では、まず選択すべき技術の方向性を示し、これを技術の社会実装に関わる企業や自治体などの関係者と共有して、導入を目指す技術・システムについて、共通の目標を持つことから始めます。例えば廃棄物やバイオマスのエネルギー利用については、単独で小規模な発電を行うよりも、大規模な発電所で化石燃料と混焼することや、工場の生産プロセスで必要な高温の熱需要を満たすために利用することが効率的です。これらは直接あるいは間接的に、前述の総てのエネルギーを効率的に利用することに繋がります。

 工業団地の低炭素化に向けて、北九州市の産業学術推進機構によって、エネルギーを効率的に共有して利用する、『産業スマートエネルギーシェアリング研究会』が立ち上げられており、国内外の先進事例等から、事業化に至る経緯や事業化後の安定的な運営に必要なノウハウ等を学びながら、対策の推進に向けて検討を始めています。一方、廃棄物分野における近年の労働力不足に対応するためには、IoT(モノのインターネット)などの情報技術を活用して、廃棄物の収集や処理のプロセスを効率化することが重要です。廃棄物の持つエネルギーを工場で利用する際に重要な、安定需給の仕組みを構築する上でも有効です。今後情報技術の活用を進めるべく、『廃棄物処理・リサイクルIoT導入促進協議会』の活動を、国内の企業、政府、地方自治体、大学等の約70機関と共に行っています。筆者は協議会の一部メンバーと共に、廃棄物の発生量や需要量の情報を共有する仕組み等の検討を行っています。その活動の一部は海外を視野に入れており、タイでは、政府の廃棄物分野のマスタープランの作成と、それに基づくプロジェクトの実現に向けて貢献するため、政府機関及び現地の研究機関であるアジア工科大学院との共同研究を開始しており、産業での廃棄物の持つエネルギーの活用や、IoTの適用を検討しています。また、研究プログラム紹介の記事にあるように、福島県新地町やインドネシアにおいて、工場のエネルギー消費のモニタリングとデータ解析を進めています。研究ノートの記事では、低炭素社会の構築に向けて関東地方のある都市の市民と開催したワークショップについて紹介しています。このような研究を継続、発展させることによって、低炭素化の推進に貢献したいと考えています。

(ふじい みのる、社会環境システム研究センター 環境社会イノベーション研究室 室長)

執筆者プロフィール

筆者の藤井実の写真

社会実装研究の重要性が増す中で、行政や企業の方々と協働する機会が増えています。世界を股にかけて活躍する国際企業のビジネスマンなど、その目まぐるしい働きぶりに刺激を受けつつも、慌てずじっくり研究を進めたいと思います。

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