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2015年6月30日

双方向環境情報ネットワークを活用した省エネ・低炭素な復興まちづくり

特集 災害環境研究-被災地の環境回復と創生に向けて-
【環境創生研究プログラム(PG2)の紹介】

五味 馨、中村 省吾

1.はじめに

 福島県相馬郡新地町と国立環境研究所が協力して取り組んでいる「スマート・ハイブリッドタウン」構想から、情報通信技術を活用した省エネルギーと地域づくりを目指す「くらしアシストタブレット」の研究をご紹介します。

2.福島県新地町の紹介

 新地町は福島県沿岸部の最北端にある、人口8千人程度の小さな町です。仙台から南へ約50kmに位置し、この地域の他の自治体と同様に東日本大震災では津波による甚大な被害を受けました。以前から高齢化と人口減少の傾向があり、震災によりそれらが加速されるのではないかという危機感があります。そのような中、新地町は2011年に内閣府から震災前からの取組みを復興計画の中で更に前進させる提案を評価され、他の5ヶ所の被災地域とともに環境未来都市の指定を受け、特に低炭素化と高齢化対策の取組を進めています。私たち国立環境研究所は、町の先進的な取組をお手伝いすべく、2013年に新地町と協定を結び、新地町に適した情報・エネルギーシステムの構築を目指して研究を開始しました。

3.スマート・ハイブリッドタウン構想

 町は国立環境研究所と協力して、住宅、公共施設、工場、エネルギー施設を情報システムでつなぎ、地域のエネルギー資源を高度かつ効率的に活用すること、高齢化に対応した健康・福祉分野の活動を支援すること、そして町のコミュニティ機能を高めることを目標として「スマート・ハイブリッドタウン構想」を策定しました。

4.くらしアシストタブレットシステム

 スマート・ハイブリッドタウン構想を実現するため、現在実証実験を行っているのが「くらしアシストタブレット」システムです。行政と住民が双方向かつ即時的な情報のやりとりができるネットワーク機能を持ち、タブレット端末を通じて地域コミュニティでの生活や環境行動を支援するための技術です。これまでに約60世帯のご家庭にモニターとして応募して頂き、設置してきました。

 くらしアシストタブレットには以下の3つのアシスト機能があります。

(1) 地域エネルギーアシスト
 タブレット端末を通じて各家庭のエネルギーの利用状況を「見える化」することで、省エネルギー行動を促します(図1)。エネルギーの利用パターンは世帯構成などの様々な特性によって異なるため、データの蓄積を通じて各特性を踏まえた省エネ処方箋を提供し、地域全体のエネルギー需給効率を高めるシステムの構築を目指します。

(2) 生活アシスト
 復興まちづくり情報や災害情報、イベント情報といった自治体からの情報を集約するとともに、住民が自治体にフィードバックできる機能を設けることで、効果的な情報提供の実現を目指します。今後は地域の公共交通や住民の健康福祉に関する機能も検討しています。

(3) 情報共有アシスト
 掲示板機能やアンケート機能、住民自身が地図上で地域の情報を書き込み共有できる地域情報マップ機能により、自治体が住民のニーズをきめ細かに把握できるとともに、住民同士のコミュニケーションを通じた地域コミュニティづくりに貢献します。

図1 タブレットによるエネルギーの「見える化」の例

5.省エネキャンペーン

 これまでは、このうち特に「地域エネルギーアシスト」機能を活用した省エネルギー研究に取り組んできました。各家庭で電力の系統(例えば「キッチン」「居間」「寝室」「浴室」など)別に15分毎の電力消費データを測定して可視化することで、省エネ行動を促すだけでなく、その日の天気や曜日、ご家庭の世帯属性(人数や年齢構成など)を合わせ、その家庭で無理なく効果的に節電する方法を分析・提案・実証することを目指しています。

 その一環として、2014年度は省エネキャンペーンの実証実験を行いました。本実験では、2週間のキャンペーン期間を設定し、キャンペーン期間前の1週間の平均消費電力量に対して期間中にどの程度節電できたのかを節電率として指標化します。指標をもとにランキングが算出され、節電率と合わせてタブレット端末で随時確認することができます。第1回の実証実験ではモニター50世帯中22世帯が参加し、全体平均で5%(1位の世帯は28%)の節電を達成したことから、本システムが一定の効果を持つ可能性が示唆されました。第2回は同じ仕組みで実施し、第1回と第2回の結果を受け、第3回のキャンペーン前には各家庭別のエネルギー消費パターンから省エネ診断を作成・配布しました。この記事を執筆している時点では第3回キャンペーンの実施中です。これらの結果を分析し、省エネ行動の促進に有効な可視化の方法や、タブレット端末に提示する情報の選択、さらに紙媒体による情報提示等も組み合わせて、省エネ行動を促進するコミュニケーション・デザインを明らかにしていきます。

6.アンケートを用いた電力消費・省エネルギー行動の分析

 また、タブレットシステムのアンケート機能を活用し、省エネへの意識と実際の電力消費・省エネルギー行動の関係の分析も行いました。一般に、省エネ意識の高い家庭ほど電力消費が少ないのではないか? と考えられますが、これまでの分析では省エネ意識の高さに関するアンケート回答と一人当たり電力消費の間には関係性がほとんど確認できませんでした。また、節電キャンペーンの際には、省エネ型の家電を多く保有している世帯ほど、むしろ節電率が低いという傾向がありました。これは既に機器が省エネ型であり、またそのような家庭では既に実行可能な省エネ行動が行われているため、これ以上の節電の余地があまりなかった可能性が考えられます。

7.おわりに

 新地町では今も仮設住宅で暮らしている住民の方々がいらっしゃいます。2014年後半から防災集団移転団地と災害公営住宅が徐々に完成、入居が始まりました。また2017年春にはJR常磐線の新地駅が営業を再開し、これから本格的に震災後の復興まちづくりが進んでいきます。タブレットシステムではただ電力消費量を可視化するだけでなく、コミュニティや生活アシスト機能を組み合わせることで利用を促進し、その相乗効果を検証することで、近い将来に低炭素・効率的な地域エネルギーシステムの設計に繋がるよう、これからも研究を進めていきます。

(ごみ けい、社会環境システム研究センター持続可能社会システム研究室)
(なかむら しょうご、社会環境システム研究センター環境経済・政策研究室)

執筆者プロフィール

五味 馨

(五味)国内外16か国・都市で低炭素社会政策シミュレーションに取り組んだ後、2014年から震災復興支援のため環境・防災・地域振興の両立を目指して研究しています。研究室ではPCが相棒、昼休みには野球(捕手)、自宅では趣味の料理に励む日々。

中村 省吾

(中村)昨年5月に着任して早1年、専門の農学(農村計画)をいかに災害環境研究に活かすか模索する毎日です。クールビズの季節ということで、昨年と同様、地元沖縄のかりゆしウェアにそろそろ着替えたいと思います。  

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