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2016年3月31日

環境と調和した復興を支援する研究の取り組み

研究をめぐって

東日本大震災から5年が経過しました。被災地の復興や放射能汚染からの環境回復に加えて、地域社会をよりよくするためにはどんな「まちづくり」をすればよいかを問いかける声が大きくなっています。被災時とその後の復旧と復興の経験を活かしながら、地域のくらしと未来の環境が調和、共生する新しいまちづくりに向けて、自治体や住民、企業の皆さんの取り組みや関連する事業の計画と実現を支援する研究を行っています。この研究は、地域の皆さんと同じ視点に立ちつつ、全体を俯瞰しながら進めています。

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(写真提供:NPO 法人みらいと)

日本では

 震災からの復興に向けて、様々な分野での取り組みが行われてきました。国は復興庁を設置し、各地方公共団体は復興計画を策定して、津波被災地の復旧工事、新しい住宅の建設、道路・港湾・鉄道の整備などを行ってきました。また、福島県でも、原子力災害からの復旧とともに、除染などの環境回復が進み、避難していた方々の帰還も始まりつつあります。例えば、福島県浜通り地域の復興を目指し、エネルギーや農林業分野の研究や先端的な事業を集中して行う「イノベーション・コースト構想」が、国や福島県・自治体などによって検討されています。

 また、東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、エネルギーシステムのあり方を見直し、再生可能エネルギーや未利用エネルギーなどの地域資源を活用した分散型エネルギーシステムを導入する取り組みも、より活発になっています。特に、地域エネルギーや環境資源を活用して自律的な地域全体のエネルギーの仕組みを構築し、地方の創生に活用するための様々な技術が開発されています。例えば、熱と電力を同時に生産することでエネルギーを有効に活用する「コジェネレーション」システムに地域のエネルギー資源を結び付けて、さらに情報技術を併用し、より効果的なシステムにする試みが福島県で始まっています。この「イノベーション・コースト構想」では、再生可能エネルギーの大規模な建設だけではなく、地域のエネルギー資源や、産業施設と下水処理場、清掃工場などの環境施設を組み合わせ新しい自律的な地域エネルギーシステムを計画しています。そして、それを「社会システムイノベーション」として実現することを国と県、自治体、企業に研究機関が連携して検討しています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では、被災地の復興や再生に向けて災害と環境に関する「災害環境研究」を行ってきました。このうち「環境回復研究」では、放射性物質に汚染された廃棄物の処理処分技術の開発、放射性物質の環境中での動態解明や生態系への影響評価などの被災地の環境回復に取り組んでいます。本号で紹介している「環境創生研究」では、様々な技術や施策を組み合わせることで、環境に配慮しながら、地域の活力を高めて、暮らしの快適さが共生する研究によって復興を支援しています。本研究所では震災前より、収集した社会・環境の様々なデータを活用してコンピュータ・シミュレーションを行い、環境の課題を解決するための政策を提言してきました。災害環境研究では、これまでの研究を応用し、地域の特徴をデータで分析しています。また、情報技術を活用して地域の個性に合った将来像を住民の方々と一緒に考え、よりよい復興を支援するための研究を進めています。

 環境創生研究では、まず地域環境をデータで分析して「地域環境診断」を行います(図6)。地域の個性や特徴を活かしながら魅力と活力が持続する地域づくりのために、まずどのような資源がその地域にあるかを調べることが必要です。そこで自然環境の情報、道路や住宅、工場などの情報に加え、住宅のエネルギー消費量や工場の排熱利用などの地域の情報を収集し、「地理情報システム」で、活用できる資源を分析します。これによって再生可能エネルギーなどの地域のエネルギーをどれくらい活用できるかを、エネルギーの供給と需要の両方から調べることができます。例えば福島県浜通り地域では、新しく建設されるLNG基地と仙台を結ぶパイプラインや工場団地で地域エネルギーを利用するポテンシャルがあることがわかりました。

図:6 環境創生研究のフレームワーク
図6:環境創生研究のフレームワーク(福島県新地町の例)

 次に将来の姿とそこへの道筋を分析する「シミュレーション」を行います。将来も住みよい元気な地域であるために有効な方法を考えるため、統合モデルによって将来の人口や経済などをシミュレーションして、地域の総合計画づくりを支援します。また、住民の方々の意見をお聞きして、地域の将来像についての意見や要望をまとめ、計画づくりに反映する方法も開発しています。

 また環境と調和した復興まちづくりの中でも特に、拠点となる地区の具体的な計画を支援するため、地域資源を活用した空間計画、エネルギー計画がシミュレーション可能なシステムを開発しています。例えば「地域診断」のデータベースや「地域情報ネットワーク(後述)」のモニタリング結果を活用すると、地域に最も適したエネルギー源や機器の構成からなる分散エネルギーシステムの設計を支援することができます。福島県新地町が取り組んでいる津波で被災したJR新地駅前の整備では、低炭素で災害に強いまちづくりを目指したエネルギーシステムを検討し、施設農業や健康増進施設など施設立地計画を組み合わせたデザインに取り組んでいます(図7)。今後は地域循環や生態系再生のテーマを検討に加えることも検討しています。

図7 新地駅前事業を中心とした復興まちづくりデザインのイメージ
図7:新地駅前事業を中心とした復興まちづくりデザインのイメージ

 さらに地域の多様な問題に対応し、地域の活力を高めるまちづくりを実現するための、専門家と地域の自治体、企業、住民の情報ネットワークを、情報技術を活用しつつ醸成する研究を行っています。例えば、福島県新地町では人口が1万人程度の小規模な自治体でも導入できるスマートエネルギーシステムの機能を含む「くらしアシストタブレット」を自治体、企業とともに開発しています。このタブレットを通じて利用世帯のエネルギー消費や二酸化炭素排出の可視化とともにこれまで統計データでしかわからなかった福島県のエネルギー特性を知ることができます。

 この情報は浜通りのJR線復旧に伴う駅前開発事業の計画で地域エネルギーシステムを検討することに活用されています。この「地域エネルギーアシスト機能」とともに、復興に向けての地域の暮らしに役立つ情報をリアルタイムで双方向に「生活情報アシスト機能」を提供することで、環境にも配慮した地域コミュニティを支援しています。このような「地域情報ネットワーク」を活用した21世紀型の新しい地域の「絆」づくりを支援する研究を進めています。

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