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2015年6月30日

国立環境研究所で進める災害環境研究の現状とこれから

特集 災害環境研究-被災地の環境回復と創生に向けて-

大原 利眞

 2011年3月に発生した東日本大震災から4年が過ぎました。福島県をはじめとする被災地では徐々に環境回復・復興が進みつつありますが、未だに、地震、津波、そして原子力発電所事故によって引き起こされた大きな問題・課題を抱えています。

 国立環境研究所では、長年にわたり培ってきた環境研究の蓄積をもとに、発災直後から、がれき等の災害廃棄物や放射能に汚染された廃棄物の処理処分、放射性物質の環境動態などの調査研究を開始し、また、生物・生態系影響や人被ばく評価、地震・津波による環境変化・影響に関する研究にも着手しました。2012年度からは全所的な取り組みとして災害環境研究を本格的に推進し、被災地の復興まちづくりを環境の視点から支援する環境創生研究も開始しました。翌2013年度には研究所の中期計画を変更して「災害と環境に関する研究」を明記するとともに、2016年春に福島県三春町に設置される環境創造センター(写真1;放射性物質により汚染された環境を早急に回復し、将来にわたり安心して暮らせる環境を創造することを目的として福島県が設置する施設)に国立環境研究所の支部を開設する準備を進めるための福島支部準備室を設置しました。そして、現在、以下の3つの研究プログラム(PG)において、環境省や福島県などの地元自治体、日本原子力研究開発機構(JAEA)などの研究機関や大学、民間機関などと連携して調査研究を進めているところです。

写真1 福島県三春町に整備される環境創造センターのイメージパース
研究棟の一部(○印に示す)に国立環境研究所 福島支部を開設します。
  • 環境回復研究プログラム(PG1)は依然として大きな社会課題となっている放射能汚染からの環境回復に貢献する研究であり、その中心は、様々な環境中での放射性物質の動きや生物・生態系影響などを把握する環境汚染研究、並びに放射性物質によって汚染された廃棄物の処理処分に関する汚染廃棄物研究です。
  • 環境創生研究プログラム(PG2)は、低炭素・自然共生・循環型社会を意識しつつ、被災地の持続可能な復興の道筋、更には、地域の将来像を提示することにより、被災地の復興まちづくりを支援する研究です。
  • 災害環境マネジメント研究プログラム(PG3)は、東日本大震災等の検証研究や災害環境研究で得られた知見を一般化・体系化することにより、将来発生が予想される災害への備えとして、環境影響の評価や対応できる社会づくりに貢献するための研究です。

 本特集では、PG1の環境汚染研究と汚染廃棄物研究、PG2の環境創生研究、PG3の災害環境マネジメント研究のそれぞれの代表的な研究について紹介しています。

 PG1の環境汚染研究では、森林、河川、湖沼、沿岸域などの様々な自然環境における放射性物質の動きを観測とモデルシミュレーションによって把握する研究を進めています。最初の「ダム湖における放射性セシウムの挙動」は、その代表的な研究として、福島県浜通り地方にあるダム湖を対象にした観測をもとに、原発事故由来の放射性セシウムが、ダム湖の底にどのように蓄積しているのか、ダムから下流河川へどのように放流されているのか、を紹介したものです。

 二番目の「焼却過程における放射性セシウムの挙動把握と化学形態の推定」は、PG1において実施している汚染廃棄物を対象とした研究です。放射性物質によって汚染された廃棄物を、いかに安全かつ効率的に処理処分するのかは非常に大きな社会的課題となっています。ここでは、都市ごみ焼却処理施設のごみ焼却時における放射性セシウムの振る舞いを理解・予測するため、焼却処理において生成される放射性セシウムのシミュレーション手法とその結果を紹介しています。

 三番目の「双方向環境情報ネットワークを活用した省エネ・低炭素な復興まちづくり」は、PG2において福島県新地町で実施している研究です。国立環境研究所は新地町と2013年に協定を結び、環境を考慮した復興まちづくりを支援するために、地域に適した情報・エネルギーシステムの構築を目指した研究を進めています。ここでは、情報通信技術を活用した省エネルギーと地域づくりを目指す研究について紹介しています。

 最後の「災害廃棄物の適切なマネジメントに向けた人材育成研究」はPG3の研究です。PG3では、東日本大震災等に関する検証研究を通して、将来の発生が予想される災害への備えとして、資源循環・廃棄物マネジメントの強靭化や環境・健康リスク管理戦略の確立など、社会の環境防災力・減災力を向上するための研究を実施しています。ここでは、災害廃棄物管理を対象とした「人材育成」の視点から進めている研究について紹介しています。

 災害環境研究は、2016年4月以降、環境創造センター内の福島支部とつくば本構とで一体的に実施します。福島支部には、つくば本構の経験豊富な研究員、本年度に新規採用されたフレッシュな研究員、総務や企画・広報などを担当する事務系職員、現地などで採用する予定の研究・事務補助員など併せて70~80名の職員が勤務する予定です。そして、環境創造センターで一緒に活動する福島県とJAEAをはじめとして、様々な行政・研究・民間機関と密接に連携して研究を進める予定です。

 私達は、これらの災害環境研究を進めることにより、被災地における環境回復と創生に貢献するとともに、得られた知見を一般化・体系化して今後の災害に備える「災害環境学」の構築を目指すという高い目標を掲げて中長期的に取り組みたいと考えています。また、得られた科学的な知見や情報を世界に発信することによって災害環境研究ネットワークの世界的拠点になることを目指します。本研究所で進める災害環境研究に引き続きご期待ください。

※災害環境研究のこれまでの成果については以下の資料をご覧ください。

(おおはら としまさ、企画部フェロー(福島支部準備室研究総括))

執筆者プロフィール

大原利眞

昨年3月の定年後、ジョギングを始め、毎週末、愛犬と一緒に近くの手賀沼遊歩道を20~30km走っています。今年は体力と精神力を鍛えて、来年の福島支部勤務に備えたいと思います。皆さん、来春は三春で一緒に花見しましょう。

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