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2018年6月29日

自治体との協働による災害廃棄物に係る研修手法の開発

特集 福島で進めている社会協働型研究
【研究ノート】

多島 良

はじめに:災害廃棄物に関する人材育成の必要性

 災害が起きると、被災者による片づけや被災建物の解体等に伴い、大量の災害廃棄物(図1)が出ます。例えば、平成28年熊本地震では、益城町において約30年分に相当する量の廃棄物が発生し、これを約2年間で処理することが目標とされました。また、選別が困難な混合状態で排出されたり、有害物質を含んでいたりと、質の面からも処理に課題があります。こうした災害廃棄物が円滑・適切に処理されないと、公衆衛生・環境の状態が悪化したり、復興が遅れたりします。そうならないためにも、普段から災害時を想定した計画(災害廃棄物処理計画)を策定するとともに、その実効性を担保するために人材育成を行うなどの災害廃棄物対策を進めることが重要です。

廃棄物の写真
図1 災害廃棄物の山

 平成30年3月末時点での全国の災害廃棄物処理計画策定率は都道府県で85%と高い数値を示していますが、市町村は33%に留まっています。今後は、市町村における計画策定の促進とともに、計画を策定した都道府県における人材育成を進めることが求められています。本稿では、上記の背景に基づき進めてきた災害廃棄物に関する研修手法の開発についてご紹介します。

兵庫県との協働による研修手法の実践的開発

 阪神・淡路大震災から20年以上が経過する中で、兵庫県では災害廃棄物処理のノウハウが十分に引き継がれておらず、災害廃棄物処理に関する人材を育成することが課題と認識されていました。廃棄物分野では人材育成手法に関する知見の蓄積が少なかったことから、県庁および県内市町の災害廃棄物対応力を向上させるために、平成26年度より兵庫県と国立環境研究所は協働で災害廃棄物対策に係る参加型研修を実施・開発してきました。兵庫県は災害廃棄物対応力を向上させることを、国立環境研究所としてはそれに加えて効果的な参加型研修手法に関する普遍的な知見を得ることを目指しています。研修の目的、テーマ設定、手法の選定、研修の詳細設計(当日の段取りや参加者のグループ分けなど)、資料作成、当日運営といった諸々の準備を協力し合いながら進めるとともに、参加者・事務局関係者へのアンケート調査やヒアリング調査、研修における討論内容の記録などから研修の効果とその要因を分析し、実践と研究を並行して進めてきました。

 まず、平成26年度には市町の担当者を主な対象とし、災害廃棄物対策に対する意欲を高めつつ事前対策の検討を進めることを狙いとして、「災害廃棄物処理にむけて今から準備すべきこと」をテーマに「ワークショップ型研修」を開催しました(図2)。具体的には、座学形式で近年の災害事例における課題や全国的な災害廃棄物対策の状況について説明があったのちに、参加者は小グループに分かれ、災害時に起こり得る廃棄物処理に関する課題とその対応策をグループ討議で抽出・分類・体系化しました。この結果、災害廃棄物処理に係る幅広い課題・対策について討論され、知識・意欲の向上も見られましたが、被災経験のない職員は災害時の具体的イメージをもって災害廃棄物対策を検討することが難しい等の課題も分かりました1

ワークショップの様子の写真
図2 平成26年度に実施したワークショップ型研修の様子

 このため、平成27年度から平成29年度にかけては、よりリアリティのある災害イメージを得られるようにするため、仮想災害状況を設定してその中で様々な課題(例えば、被災住民から「今回の地震でダメになってしまった家財を処分したい。どのように分別し、いつ、どこに持っていけばよいのか。全く情報が伝わっていない」という問い合わせが来る、という状況)を参加者に付与し、グループ毎に机上で対応する「図上演習型研修」を実施してきました2。平成27年度に実施した研修では、多くの課題を付与することで災害時の混乱した状況を疑似的に体験していただき、災害時廃棄物処理業務のイメージを持つことや事前対策の重要性を認識していただけましたが、時間的制約が厳しかったことなどから一つ一つの課題への対応について各グループで深く議論がされず、現実の災害を想定すると不十分な対応も散見されました。また、対応方法の妥当性を確認することができず、参加者としては「正解」が分からないままになってしまったという課題がありました。これを受け、平成28年度には付与する課題数を減らし、じっくりと各グループで議論したうえで処理フロー(廃棄物種類ごとに発生から処理処分までの(物の)流れを示したフロー図)を作成する演習を実施しました。さらに、平成29年度には仮置場の設置・運営にテーマを絞り、座学とワークショップによる事前学習の機会を図上演習と別の日に設けてさらに時間的な余裕をもたせたり、事後の振り返りを導入することで「正解」について討論する時間を設けたりするなど、より効果的な研修となるよう改善を図ってきました(図3)。

対応型図上演習の写真
図3 平成29年度に実施した対応型図上演習の様子

これまでの成果と課題

 このように研修手法を毎年改善してきたことが、より効果的な研修手法の開発につながっているか、様々なデータから検討しています。例えば、参加者へのアンケート調査の結果からは、平成26年度のワークショップ型研修とそれ以降の図上演習型研修との間でより積極的に事前対策に取り組もうという態度を醸成する効果に違いがみられ、後者の方が効果的ということが示唆されています。他にも、定性的なデータからは参加者同士の人的ネットワークが醸成されたり、事務局である兵庫県職員の能力が向上したりといった別の観点からの効果も示唆されており、様々な切り口から、定量データと定性データを複合的に活用して分析を進めているところです。

 本研究のように、実社会の取り組みの中で研究を行うことの利点も見えてきています。研究者が描く理想像と現場のニーズや実状との間のギャップに気付くことができ、社会の実情に則した成果が得られやすいという点です。例えば、兵庫県での研修を継続する中で、人事異動などの理由から同じ職員が継続的に研修に参加することが難しい実態が明らかとなりました。平成29年度に実施した図上演習型研修の参加者35名のうち、4年間(平成26年度から)参加した職員はおらず、3年連続は3%、2年連続は17%、初参加が80%でした。このため、当初は基本から応用へと年を追うごとにステップアップすることを想定して研修を設計していましたが、これを変更し、毎年基本的なことをカバーすることと、研修以外の場における人材育成(処理計画の策定や災害対応支援を通した能力向上など)と連携することを念頭に設計することとなりました。一方で、自治体側からの視点からは(成果だけではなく)研究者を実践の中に巻き込むことの利点もあるのではないかと感じています。行政担当職員が他の様々な業務との兼ね合いの中で実践後の検証まで手が及ばない実態を目にすると、実践後の(科学的な)検証を研究者が支援することは、研究者が重要な役割を果たす一つのチャンスであると考えています。

おわりに

 本稿で紹介した成果は、当研究所の災害環境マネジメント戦略推進オフィスにおける人材育成支援事業において活用されています。同時に、本成果を活用して様々な自治体で実践される人材育成事業にかかわる中で、研究成果の妥当性を確認しています。実験による研究と異なり、研修の方法や内容のレベルをグループごとに変えることなどによって研修効果を検証するといったことが実務的・倫理的に難しいことから、実践を積み重ねる中で継続的・漸進的に成果の妥当性を高めていく姿勢が求められるのです。

 これからも、自治体の職員の方々とともに実践・研究を協働する中で成果や課題を共通体験し、相互に理解を深めながら人材育成の手法の発展に貢献したいと考えています。

(たじま りょう、福島支部 災害環境管理戦略研究室 主任研究員)

参考文献
1. 多島 良, 平山修久, 森 朋子, 川畑隆常, 高田光康, 大迫政浩 (2015) ワークショップ型研修による災害廃棄物対策に係る意識・態度の醸成. 自然災害科学, 34 (特別号), 99-110
2. 多島 良,高田光康,森 朋子,夏目吉行,菅範昭(2017)災害廃棄物処理フローの図上演習—兵庫県における実践—. 都市清掃,70 (337),255-261

執筆者プロフィール

筆者の多島良の写真

もうすぐ2歳の次男は、アンパンマンが大好きです。キャラクターが沢山載っている本を見ながら、「パパはどれ?」と聞くと、なぜか必ずパイナップルマンを指さします。彼の中では、共通項を見出しているようです。

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