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2015年9月30日

災害環境研究 これまでとこれから

Interview 研究者に聞く

国立環境研究所では、震災後、放射性物質に汚染された環境の回復をはじめとして、被災地の復興や再生に向けて、災害と環境に関する調査や研究(災害環境研究)を行ってきました。より地元に根ざした調査や研究を進めるために、2016年には福島県三春町に整備される環境創造センターの研究棟に国立環境研究所福島支部が開設される予定です。そこで、本号では放射性物質による環境汚染からの回復研究を取り上げ、福島支部準備室で研究を総括する大原利眞さん、放射能汚染廃棄物研究プロジェクトの大迫政浩さんと山田正人さん、動態解明研究プロジェクトの林誠二さん、生物・生態系影響研究プロジェクトの玉置雅紀さんに、これまでの取り組みを振り返ってもらうとともに福島支部開設に向けての展望をうかがいました。

写真:大原利眞
大原 利眞/企画部フェロー/福島支部準備室研究統括
写真:大迫 政浩
大迫 政浩/資源循環・廃棄物研究センター長/福島支部準備室プログラムリーダー
写真:山田 正人
山田 正人/資源循環・廃棄物研究センター室長/福島支部準備室プロジェクトリーダー
写真:林 誠二
林 誠二/地域環境研究センター室長/福島支部準備室プロジェクトリーダー
写真:玉置 雅紀
玉置 雅紀/生物・生態系環境センター主任研究員/福島支部準備室プロジェクトリーダー

3つのプログラムでとりくむ災害環境研究

Q:どのように研究を進めているのですか。

大原:災害環境研究は、環境回復研究、環境創生研究、災害環境マネジメント研究の3つのプログラムで進めており、私は災害環境研究全体の研究マネジメントをしています。今日は環境回復研究プログラムを牽引する研究者が集まっています。
大迫、山田:私たちは、放射性物質に汚染された廃棄物の処理処分に関する調査研究を行っています。
林:東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出され、陸域に沈着した放射性物質の移動と再集積の実態を、河川流域スケールで明らかにする調査や研究を行っています。
玉置:私たちの生物・生態系影響研究では低線量放射線などの生物や生態系への影響を調べています。また、放射性物質の生物への蓄積過程についての調査や研究も行っています。

Q:これまでの研究を振り返るといかがですか。

大原:紆余曲折の連続だったというのが実感です。通常の研究に加え、新たに災害環境研究を進めなければならない状況になったわけですが、初めは十分な予算も体制もありませんでした。放射性物質による環境汚染問題に取り組むのも初めての経験ですから、模索しながら進めてきました。

放射能汚染廃棄物にチャレンジ

Q:放射能汚染廃棄物の研究に取り組んでみてどうでしたか。

大迫:以前の廃棄物処理の法律では、放射性物質を含む廃棄物は想定されていませんでした。ところが、原発事故によって、それにチャレンジせざるを得なくなりました。
大原:このチャレンジ、国や社会への貢献は大きかったですね。
山田:今まで積み重ねてきた廃棄物処理研究をベースに進めたので、新しいことを始めた意識はあまりありませんでした。でも、とにかくやることが多すぎて大変だったんですね。
大迫:初めは、放射性物質の影響やリスクがわからず、所内でも不安や緊張がありました。科学的なことがわかってくるにつれて、これまでの技術で解決できるという確信に変わりました。そうなると、とてもやりがいがありました。今回、災害という大きなテーマを突き付けられましたが、そのおかげで所内では、難題に立ち向かうという意識が高まり、災害環境研究がメジャーな研究になりました。

写真:除染特別地域の調査状況
除染特別地域の調査状況
写真:除染仮置場の整備状況
除染仮置場の整備状況

Q:どんなことを行っているのですか。

写真:固型化実証試験
指定廃棄物(飛灰)のセメント固型化実証試験
写真:セシウム測定状況
アスファルトコンクリート工場における排ガス中セシウム測定状況

大迫:災害廃棄物や放射能汚染廃棄物が保管や処理されている現場などの現地調査を行うとともに、廃棄物を適正に処理する技術を開発しています。また、廃棄物処理施設の安全性を確保し、長期的に管理するための研究をしています。
山田:行政が、2011年の6月下旬に放射性セシウムが1kgあたり8,000ベクレル以下の飛灰(ごみなどを燃やして処理する時に発生する灰で、焼却廃ガス中に浮遊するくらいの細かなもの)は埋めていいと事務連絡を出しました。その後、台風のシーズンになり、その最中に処分場を見に行ったことがありました。
大迫:飛灰中の放射性セシウムは水にとけやすいので、そのまま埋めると土中の飛灰から放射性物質が雨水に漏れ出す危険があり、対策が必要だと考えていたところでした。そこで、あわてて山田さんに現場に行ってもらったのです。幸いにも、排水中の放射性セシウムの濃度は少なく、大事にはなりませんでしたが。
山田:豪雨の中、現地の様子を見て、一刻も早く飛灰を雨水に接触させないような対策をとらなければと強く感じました。現場から行政に関連する科学的な情報を提供して、結局そのことが法律上の基準に取り入れられました。
大迫:私たちが信念を持って働きかけることの重要さを感じました。

Q:震災では津波によるがれきなど大量の廃棄物が発生しましたね。

大迫:ええ、震災後2カ月間くらいは、24時間ずっと対応に追われました。災害廃棄物の量はとにかく膨大で、処理施設が圧倒的に不足していました。そこで、新たに処理施設をつくるとともに、処理しきれない廃棄物の保管をどこか別の都道府県にお願いしなければなりませんが、住民のみなさんの同意を得るのは大変です。
 情報化社会だったことが余計に苦労を生みました。というのは、ネット上であまりにもさまざまな情報が流れていたので、かえって廃棄物処理の正しい理解を難しくしたようです。行政への信頼も失われ、「環境回復のために廃棄物の処理施設をつくります」と住民説明会で話してもなかなか通じませんでした。今では、無事に処理施設がつくられ、安全に処理を終えたり、現在も新たな施設建設が進んでいるので、施設や廃棄物に対する理解が少しずつ深まっていると感じています。

Q:今後の課題は?

大迫:廃棄物処理施設の立地問題の難しさを改めて突き付けられました。放射能汚染廃棄物の問題だけでなく、通常の廃棄物処理施設も含めて、社会として合理的な意思決定ができるような仕組みを作っていく必要があると考えています。技術的観点からは、今回行ってきた現場対応技術の調査や研究によって、これまでの通常の廃棄物処理技術への理解も大きく深化したと思います。そのことを、新たな廃棄物処理での前向きなチャレンジに活かしたいと思います。
山田:保管されている放射性物質に汚染された廃棄物を今後どうするかが大きな課題です。廃棄物を処理する施設の立地の問題は、今回、始まったことではありません。昔から廃棄物を処理・処分する施設はやっかいもので、風評被害もたくさんありました。相当の時間をかけて場所を決めてきました。ですから今回も、短期間で汚染廃棄物の処分の問題をすべて解決するのは無理でしょう。今後は、この問題をどうやって、できるだけ速やかに解決するかを考えていかなくてはなりません。そのためには、技術だけではなく、立場の違う人と人の対峙のあり方を考える必要があります。

研究者としての使命感

Q:環境影響の研究を振り返ってみていかがですか。

玉置:事故直後は環境中の放射性物質をなんとかしなければと強く感じました。そのころ、ヒマワリを植えれば土地の除染ができると話題になっていたのでこれについて検証したところ、放射性セシウムは植物中で濃縮されないため、除染には向かないことがわかりました。次に気になったのは生物への影響です。環境からの放射線によって動物や植物に変異が生じているという写真が出まわり、またヤマトシジミというチョウに突然変異がみられたという論文が話題になりました。しかし、本当に放射線による突然変異なら遺伝子にも影響が出ているはずなので、野生生物に対する放射線の影響を遺伝子レベルで調べているところです。
林:国立環境研究所に所属する研究者としての使命感から、元々、森林における窒素の動態を把握することを目的として設置していた観測システムで筑波山を調査したのをきっかけに、河川流域における放射性物質の動態研究に本腰をいれることになりました。
大原:筑波山のフィールド調査のデータは、森林除染対策の根拠になっています。
林:森林や河川等における放射性物質の動態の解明を目的とした研究は多くの人が行っていますから、ある種の競争関係も生じます。また、住民にとっても切実な問題ですから、しっかりとした調査を行い、着実にかつ速やかに成果を公表していくことに対する責任の重さを感じています。

写真:定期河川水質調査
福島県浜通り地方河川を対象とした定期河川水質調査
写真:湖底泥の採取
福島県真野川上流のはやま湖における船上からの底泥コアサンプラーを用いた湖底泥の採取

Q:他の研究機関と共同研究は行っていますか。

大原:放射性物質の環境動態研究は、大学や日本原子力研究開発機構などの研究機関と連携したり、関連する研究機関が集まって会議をしたりして進めています。
玉置:生態系への影響研究はそうはいきませんね。研究者によって対象生物がばらばらなので。特定の生物だけ調べても生態系への影響は言えません。今後、当所が中心になって、哺乳類・鳥類・昆虫類などを網羅的に調べることで、放射性物質の生態系への影響を調べていこうと思っています。
大原:放射性物質による汚染の問題は、いろいろな研究分野が関わっており、分野連携が必要です。オールジャパン体制で進めることが大事でしょうね。

Q:今後どのように研究を進めたいですか。

玉置:生物に対する放射線の影響を調べるのに、いちばん困ったのは事故前の生物データが少ないことです。残念ながら福島県のデータは特に少なく、これでは事故前と事故後を比べられないので、放射線の影響があったのかどうかは検証できません。そこで、今後、同様なケースが起きることを想定し、将来にわたる遺伝子への影響をみるために、例えば県ごとに指標動植物を決めて、対象となる試料をストックしようと計画しています。
林:今後、汚染された場所の除染が進み、安全と判断されて帰還が認められたとき、住民の方達が安心して帰れるかどうかを懸念しています。安全と安心は別もので、安全だといわれても不安を抱えている人がたくさんいます。安心を担保するためにも、まずは帰還して生活することのリスクを評価するしくみをつくることが必要です。
 環境中の放射性物質の動きについてはたくさん研究されてきましたが、特に事故直後の動きを中心として、いまだに不明な点があります。もしもまた同じような事故が起こった時に、できるだけ汚染の拡大や長期化、放射性廃棄物の増大などを防げるように、今回の経験を活かせるよう整理しておく必要があります。

信頼される研究所に

Q:福島支部ではどのように研究を進めていきたいですか。

写真:アサガオへの被ばく線量の測定
帰還困難区域内の中学校に実験用に植えたアサガオへの被ばく線量の測定
写真:流量観測装置作業
福島県宇多川上流の森林渓流における流量観測装置作業

大原:来年2016年に福島県三春町にできる環境創造センターに国立環境研究所福島支部を作り(コラム7参照)、環境回復研究、環境創生研究、災害環境マネジメント研究の3つのプログラムからなる災害環境研究を進める予定で、現在、その準備に取り組んでいるところです(コラム1参照)。
玉置:実際に福島県に行けば、研究所のあるつくばではわからなかった状況も明らかになり、研究に対する考えが変わるかもしれません。できるだけ地元の人の要望に応えながら、放射線の生物・生態系への影響を明らかにしていきたいです。
林:科学的な研究を進めるのはもちろんのこと、地元の人と腹を割って話ができる、信頼される研究者になりたいです。私たちがいくら情報を発信しても、信頼がなければ話を聞いてもらえないですから。これまでのネットワークを活用し、さらに広げていきたいです。そのためにも、一致団結して研究を進められるよう、所内のチームワークもより強めていきたいですね。
山田:まずやらなくてはならないのは、仮置場にある除染土壌・廃棄物の中間貯蔵施設での保管に関する研究です。その中では、中間貯蔵施設の安全な管理も重要です。また、この経験を世界に伝えることに力を入れ、福島支部を災害廃棄物や災害対応の世界の中心施設にしたいです。
大迫:災害や事故の処理に必要な緊急の仕事は一段落し、残りは、長く付き合わなければならない課題です。山田さんが言ったように、今回学んだ知識や経験を外部に発信してこそ、私たちの役割を果たせます。また、地元の人からも信頼される研究所にしたいです。
大原:福島県の地域の方々に信頼される研究所にしたいです。福島でのキーワードは生業(生活の営み)と生活環境です。生活環境は、実際に自分たちが住んでみないとわかりません。現地に根を下ろして研究し、地元の人の将来的な生業が見通せるところまで考えたいです。そのためにも、今日話題となっている環境回復研究と新たな地域環境を創る環境創生研究をうまくつなげていきたいですね。それから、福島支部に勤務する研究者が、環境問題の最前線で、環境研究者として成長できるような組織にしたいです。

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