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2014年12月31日

共生による都市の持続可能性の向上

Summary

 人口が集中する都市では、資源の枯渇、地球規模の環境影響など、私たちの暮らしや自然環境の持続可能性を脅かす問題が多発しています。これらの問題を解決するには、都市をどのように作り替えていけばよいのでしょうか。

都市の利点と課題

 世界の人口の増加や1人当たりの資源消費量の増大により、地球のキャパシティは限界にきています。都市の生産効率が改善されるよう、より持続可能な形に向けて都市も進化する必要があります。

 工場、自動車、住宅等からの排ガス、排水、廃棄物などが、都市の狭い地域に集中して発生することは、環境汚染につながりやすくなります。現実に国内では1960年代に公害が深刻化し、廃棄物の最終処分場が不足する問題も生じました。しかし、汚染の排出を防止してこのような問題に適切に対処できれば、都市にまとまって住むことで、製品やサービスの生産の効率を高めることにつながります。結果的に資源の消費や環境負荷、とりわけ地球全体の規模で問題となる温室効果ガス発生量の削減が可能な、新たな都市の姿を描くことができます。

産業と産業の共生

 生活に必要なものを生産する産業は、都市の重要な構成要素ですが、大量の資源を消費し、多くの環境負荷を発生させています。このしくみを改善し、より少ない資源、環境負荷でものを生産できるようにする取り組みが行われてきました。そのためには、個々の工場の中で省エネルギー化を進め、原材料を製品にする割合を高めて、廃棄物の発生を抑制する必要があります。また、工場間で連携して、さらに資源やエネルギーの無駄をなくす取り組みが重要になります。ある製品を製造する工場の廃棄物は、他の製品を製造する工場にとっては、原料や燃料となる場合があります。廃棄物を出す側は本来廃棄物の処理にかけるべきエネルギーや費用を節約できるだけでなく、利用する側は低コストで原料調達が行えます。さらに、天然資源の消費削減にもつながるので、お互いの工場にとってメリットが存在することになります。このように、異なる産業どうしが連携しあって生産活動を行っている状況は、産業共生と呼ばれています。

 デンマークの首都のコペンハーゲンから100kmほど西に行ったところに、カルンボーという人口5万人ほどの港町があります。ここは産業共生発祥の地として知られており、市内の複数の工場が互いに連携し合っています。例えば、石炭火力発電所で発生する脱硫石膏を石膏工場で利用したり、飛灰をセメント工場で原料として利用したり、石油精製プラントの副産物を肥料として利用したりしています。また、発電所で発生する蒸気の一部を他の工場に送って利用する熱の融通も行われています。

 産業共生の取り組みは、海外だけでなく国内でも行われています。例えば、産業が集積している川崎市はその代表例で、物質フローの分析や、産業共生によりもたらされる効果の推計が行われてきました(図4)。これらの取り組みによって、天然資源の消費削減や、温室効果ガスである二酸化炭素の発生抑制の効果が得られています。

図4 川崎市の産業共生のフローチャート
 神奈川県川崎市は、鉄鋼、化学、セメント、製紙などの産業が集積している場所です。全国に26地域指定されているエコタウンの1つでもあり、環境と産業活動が調和した持続可能な都市をめざしています。ここでは、製鉄所で発生するスラグがセメント工場の原料として利用されたり、下水の処理水が製紙工場で利用されたりと、産業間で副産物や廃棄物の利用が進められています。また、住宅・商業地区と産業の共生もさかんで、廃プラスチックをアンモニア製造の原料として活用している工場もあります。
 図は私たちの研究成果の1つで、物質やエネルギーフローについて分析したものです。潜在的に可能な共生の組み合わせを評価して、さらなる都市の低炭素化について検討しています。なおこの図は、藤井が共著者の1人である論文(van Berkel et al., 2009)に掲載された図を和訳したものです。

住宅・商業地区と産業の共生

 産業間の連携に加えて、住宅・商業地区と産業とが連携を進めることによって、さらに省資源化や環境負荷の削減を行うことができます。例えば、家庭から出る廃棄物からは、プラスチック製容器包装や紙製容器包装が、容器包装リサイクル法の制度の下に分別回収されています。回収されたプラスチックの一部は鉄鋼産業や化学産業で原料として、紙の一部は工場の燃料として利用されています。このように、プラスチックや紙を原燃料として再利用すれば、廃棄物を焼却炉で燃やして発電するよりも高い資源の節約効果が得られるだけでなく(図5)、既存の産業炉を活用して廃棄物の一部を処理することもできます。そのため、焼却炉の設置数や設備能力を削減できるのです。焼却処理されている廃棄物の中には、まだ産業で利用できるものが含まれており、産業の側も、まだ受け入れる余地があります。再利用できる廃棄物を効率よく大量に集めるしくみを整えることが重要な課題となるため、その方法や効果の検討を進めています。

図5 リサイクル効率の比較グラフ
 グラフはプラスチック製容器包装を、産業の既存炉を活用してリサイクルする効率を発電効率に換算して示したものです。しかし、比較対象がないと、効率的と言えるのかどうかはよく分かりません。そこで、上記の効率を理論最大効率(どんなに頑張っても超えられない最大の効率)と比較し、さらに焼却発電という、廃棄物を焼却炉で焼却し、その燃焼熱を利用して電気を作るケースとも比較しました。
 容器包装プラスチックは、多種類のプラスチックが混在し、食品による汚れなど、異物も含まれるために、理想的なリサイクルを行うのは極めて困難です。その観点では、産業の既存炉を利用したリサイクルは、最大理論効率と比較して、それほど遜色ない効率だと言えます。また、国内の廃棄物焼却発電の平均的な効率は10%を少し超える程度であり、最新鋭の高効率な焼却発電施設でも発電効率は20%程度ですので、産業の既存炉を活用したリサイクルが有利なことが分かります。
(藤井ほか,2011より,一部修正)

 一方、住宅・商業地区が必要とする暖房や給湯などの熱は、100℃に満たない熱でよいため、産業の排熱を利用してエネルギー消費を削減することが可能です。ただし、熱の輸送にはパイプなどの設備が必要になり、輸送の間に温度が低下するので、どこでも実施できる訳ではありません。産業から住宅・商業地区への熱供給を可能にする経済条件についても検討を進めています。

自然と都市の共生

図6 機械化による森林の間伐

 都市に緑地が存在し、生態系の営みがあることは自然と都市の共生関係として重要です。また、都市にまとまって人が住むことは、自然の生態系に地球上の限られた土地をできるだけ多く残すという観点から重要です。一方、都市で必要な原料や燃料を、自然から供給してもらうことも必要です。国内では、安い輸入材に需要を奪われたり、働き手が不足したりという原因によって、高密度で植林したまま管理されなくなった森林が増大しています。植林地では適度な間伐を行わないと、生い茂る葉で日光が遮られ、下草が枯れてしまいます。

 研究では、木材の伐採や運搬工程を機械化して森林管理の効率を高めることで、どの程度の量の木材をどんな価格で供給できるのか、それによって森林の生態系の機能はどの程度回復するのかについて検討を行っています(図6)。

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