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2011年6月15日

国連環境計画(UNEP)の「サステナブル・ライフスタイルに関するグローバル調査報告書 〜変化へのビジョン〜」和訳版公開について(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、 環境省記者クラブ同時配付 )

平成23年6月15日(水)
独立行政法人 国立環境研究所
社会環境システム研究センター
環境計画研究室長 青柳みどり(029-850-2392)
株式会社 電通 サステナビリティ・プロジェクト
吉澤庸子(03-6216-8823)

 独立行政法人国立環境研究所と株式会社電通は、2008年より参画していた国連環境計画(United Nations Environmental Programme)「サステナブル・ライフスタイルに関するグローバル調査(Global Survey on Sustainable Lifestyles)」が完了し、5月12日に調査報告書を発表したことを受けて、その和訳版である「変化へのビジョン(Vision for Change)」をリリースしました。

 この調査は、世界20カ国、8000人以上の若者を対象としたもので、調査からは、彼らが貧困と環境の悪化を世界の2大課題と考えており、その解決のための情報や、環境、社会、経済の3課題の包括的理解のための手掛かりを求めていること、「持続可能な発展」に向けた変革の力となりたいと考えていること等が明らかになりました。

 この調査報告書は、自由回答で得られた若者のリアルな声をそのまま収録していることが特徴で、今後の各国の国や地域づくりへの活用が期待されます。 また、調査結果については、更なる持続可能なライフスタイル研究の推進と、マーケティング・コミュニケーションを通じたサステナブルな社会づくりに活用していく予定です。

 独立行政法人国立環境研究所と株式会社電通は、2008 年より参画していた国連環境計画(United Nations Environmental Programme,UNEP)「サステナブル・ライフスタイルに関するグローバル調査(Global Survey on Sustainable Lifestyles)」プロジェクトが完了し、5月12日に調査報告書を公表したことを受けて、その和訳版である「変化へのビジョン(Vision for Change)」を発表しました。

 本調査は政策立案者などに対して、サステナブル・ライフスタイルを実現するために有効な政策や、コミュニケーション施策、各種イニシアティブを示唆することを目的に実施されたものです。質的調査の手法を用いて、世界20カ国、8000人以上の若者が自分たちの日々の生活や活動をどう考え、将来にどのようなビジョンを抱き、「変化」のためにどのような役割を果たすことができると考えているか、を探り、彼らの声をそのまま収録していることが特徴です。

 調査からは、世界の若者が貧困と環境の悪化を世界の2大課題と考えているが、①環境問題については重要度の認識が国によって異なること、②持続可能な発展の3つの柱である環境、社会、経済の課題を包括的に解決するための変革の力となり、主体的にそのビジョンをつくり上げたいと考えていること、③サステナブル・ライフスタイルの実現のためには誰もが取り入れられ、且つその実現を通じて更なる学びが期待できる地域レベルの解決策が望まれていること、そして、④そのような解決策が根付くための信頼構築が今後の課題であること、などが明らかになりました。

 この結果は、2009年9月に国立環境研究所と電通が、UNEPグローバル調査の速報版として日本国内の調査結果を分析して抽出した傾向と合致しており、世界共通の傾向と言えます。
(日本の調査結果速報は下記のURLをご覧ください)

 今後調査報告書は、同時にリリースされた国別調査報告書とともに各国の国や地域づくりに活用されることが期待されています。

 国立環境研究所と電通は、この調査結果を更なる持続可能なライフスタイル研究の推進と、マーケティング・コミュニケーションを通じたサステナブルな社会づくりにそれぞれ活用していく予定です。

 『変化へのビジョン』(和訳)全文は下記からダウンロード可能です。

オリジナル報告書(英語)は下記をご参照ください。

1. 調査概要

調査時期 2009年2月~7月
対象者 18歳から35歳までの若者 約8000人(男性46.6%、女性53.3% )
-18~23歳58.3%、24~29歳26.3%、30~35歳14.5%、
(残りの0.9%は、非対象の35歳以上)
-学生61%、社会人39%(勤労学生を含む)
-中都市・大都市居住者約63.2%
調査地域 世界20カ国 (アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、コロンビア、エジプト、エチオピア、インド、日本、レバノン、メキシコ、ニュージーランド、フィリピン、ポルトガル、南アフリカ、スウェーデン、トルコ、イギリス、アメリカ、ベトナム)
調査方法 インターネットによる自由記述を定性調査(ただし、インターネットが普及していない国については、質問票を電子ファイルで送信・回収する方法や対面インタビューを併用)
世界45団体の国際的なネットワーク、国際大学協会、28の大学・研究機関 を通じて回答の収集と分析を実施
調査内容 現在の暮らし方、社会関係資本、持続可能性に対するイメージ、持続可能なライフスタイルに関するシナリオ(動画イメージ)の選好とその理由(モビリティ、食、家事)、気候変動に対する対応など

2. 調査結果の抜粋

●最も重要な世界の課題は「貧困」と「環境悪化」。「環境悪化」の認識は国別に温度差  
【「貧困」「環境悪化」を最も優先すべき課題に挙げた割合(国別)】

図1【「貧困」「環境悪化」を最も優先すべき課題に挙げた割合(国別)】

 調査で提示した「貧困の削減・撲滅」「犯罪の撲滅や紛争の予防」「環境悪化や汚染との戦い」「経済状況の改善」「社会サービスの改善や発展」「民主主義と自由の普及」「男女間の不公平の是正」のうち、3位以内に貧困をあげた参加者は全体の71%、環境悪化は59%であった。また国別の傾向としては、最重要課題に貧困と環境を挙げたものが、各国とも圧倒的多数であった。

【世界の課題の3位以内に「環境」を挙げた参加者の割合】

図2【世界の課題の3位以内に「環境」を挙げた参加者の割合

 回答に大きな違いがみられるのは環境悪化に対する認識である。世界の課題の3位以内に「環境」を挙げた国はオーストラリア(82.3%)、ベトナム(73.8%)ニュージーランド(71.2%)、スウェーデン(71.0%)が上位だが、エジプト(42.4%)、ブラジル(38.0%)、アルゼンチン(34.2%)は低い結果である。日本は64%となり、比較的環境意識の高い結果となった。

●現在の生活満足度は高いが、安全欲求は高い
【現在の生活に対する満足度平均(10 点満点)】

図3【現在の生活に対する満足度平均(10 点満点)】

 若者は現在の生活に満足しており、贅沢な暮らしを夢見る者は少数である。日本においても生活満足度の傾向は世界と同様の傾向にあり、平均満足度は7.4点と極めて高い結果となった。

 しかし、望ましい暮らしのあり方に関する自由記述からは、経済、社会、環境、そして個人の安全への欲求が高いことが分かった。混沌として汚染された都市部ではなく、きれいな環境で自然とも近い場所で暮らしたいという意向は、特にブラジルやベトナム、レバノンなどの発展途上国/新興国で見られる。

●世界を良くすることに積極的な世界の若者
【Q地域の住民は集団として、地域の政策に影響を与えることができる】

図4【Q地域の住民は集団として、地域の政策に影響を与えることができる】

 世界の若者は、自分たちの住む世界を良くするために何かをしたいと考えており、また良くできるという自信を持っている。「自らは地域の政策について影響力がない」と考える若者は23.5%にとどまる。彼らを具体的な行動に導くガイダンスと機会が必要である。

 しかしながら日本は世界の回答傾向に反して「影響力がある」との回答が「影響力がない」との回答を下回り、意見のない者が4割を超えるなど、消極的な姿勢が見える。

●日々の暮らしに取り入られ地域レベルでの選択肢を
調査では、ライフスタイルの主要な側面である「モビリティ(移動性)」「食」「家事」について対策案をそれぞれについて3案ずつ動画で提示し、最も気に入った選択肢を尋ねた。3案はそれぞれ、手軽な「クイック」、学びながら進化する「スロー」、互いに助け合って解決する「共同」の3方向から設計した。参加者に提示された案は以下の通り。

図5参加者に提示された案

【最も支持を集めたシナリオ】

図6最も支持を集めたシナリオ

 最も世界の若者が支持したシナリオは、モビリティでは街中で必要な時にすぐに自転車が借りられる「自転車センター」、食では都市部の空き地に市民が協働で農園を作る「都市型農園」、そして家事では家庭の生ごみと地域緑化に役立つ堆肥づくりを両立する「都市型コンポスト」となり、いずれも「スロー」の選択肢が支持された。参加者から指摘されたのはこれらのシナリオの実現可能性が高いことと同時に、取り組みを通じて自身やコミュニティに気付きや学びが得られるという点であった。誰でも暮らしに取り入れることのでき、学習の効果が期待される地域レベルのシナリオの受容性が高いことが明らかとなった。

●信頼の構築と参加の必要
【Q.自分の住んでいる地域はほとんどの人が信頼し合っている】

図7【Q.自分の住んでいる地域はほとんどの人が信頼し合っている】 。

 「信頼」は若者にとって大きな問題であり、「近隣住民を信頼している」と回答した参加者は20カ国平均で30.3%、日本では24.9%弱にとどまった。しかしながら、他人と関わりを持つ何らかの活動に参加している者は少なくない。例えば、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、南アフリカの若者は 80%以上が、過去12カ月以内に何らかの組織の活動に参加したと回答している(エジプト、日本、インドではその割合が低い)。 サステナブル・ライフスタイルのソリューションが成功するためには、若者の間に信頼と社会的な絆を構築することが必要である。協力、団結、集団でのクリエイティビティの存在は、ソリューションが生まれる土壌づくりに欠かせない。NGOなどの団体は、若者とのパートナーシップを構築し、サステナブル・ライフスタイルの取り組みについて彼らに情報を提供し、参加を促すことが必要である。

●最後に:
サステナブル・ライフスタイルと消費のパターンに関する理解を深め、暮らしを持続可能なものへとシフトしていくためには、更なる調査と教育が必要である。そのためには、教育・研究機関が重要な役割を果たすことはもちろんのこと、生活者の日常生活の選択にとって大きな影響力を持つコミュニティや企業の役割も忘れてはならない。調査から見えてきた若者の前向きな展望と意欲をサステナブル・ライフスタイルの実現に向けて最大化するためには、政策立案者、研究者、教育者、企業など、あらゆる立場の関係者が連携し、若者の積極的な参加を促すことが、今後益々重要となってくる。

以上

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