ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2013年8月30日

都市の持続可能な発展に向けた研究の取り組み
-資源・エネルギーの有効利用の観点から-

特集 環境都市研究の先端と未来
【研究ノート】

藤井 実

 都市は衣食住や交通、教育、医療、娯楽など、様々な製品やサービスを提供してくれるとても便利な空間です。しかし、このような都市での便利な生活を持続的に発展させていくには、解決しなければならない様々な問題もあります。その問題の範囲は非常に多岐に渡ると思われますが、ここでは資源やエネルギーの利用に関わる点に絞ってお話します。便利な製品やサービスを使う、あるいは提供するために、これまで我々は資源やエネルギーを大量消費し、それに伴う大気や水質の汚染や温室効果ガスの排出、限りある資源の枯渇や廃棄物の発生などが、解決すべき大きな課題となっています。一朝一夕にどうにかできる話ではありませんが、都市における製品の製造や、電力などのエネルギー供給を含むサービスの提供方法を、これらの問題を生じない環境にやさしい仕組みに、次第に作り変えていくことを考えなくてはなりません。

 環境にやさしい仕組みに近づけるには、大きく分けると2つの方法があります。1つ目は利用する資源やエネルギーを、再生可能なものに変えることです。最も身近な再生可能資源・エネルギーは太陽光ですが、一部では地熱や潮汐力なども利用可能です。太陽光を間接的に利用するものとして、風力やバイオマスなどもあります。太陽光を源とする再生可能資源・エネルギーは、一般的に面積当たりのエネルギー量が少ないため、多くのエネルギーを利用しようとすると、大掛かりな装置が必要で、広い土地を占有するために新たな環境問題を生じる場合もあり、更に費用も高額になりがちです。これらは克服すべき今後の課題です。

 2つ目は、資源やエネルギーを使う際の、無駄をなくしていくことです。無駄のない仕組みにすることは、高額になりがちな再生可能資源・エネルギーの導入を促進する上でも重要です。しかし、無駄を見つけることは一般の方にとっては難しい場合もあるかと思います。そこで、無駄をなくすための幾つかの研究についてご紹介します。

 無駄をなくすには、資源やエネルギーの量だけではなく、質を考えることが重要です。質の高いエネルギーには、例えば電気や高温の熱があります。最も質が低いエネルギーの1つは、外気温よりも少しだけ暖かい、あるいは少しだけ温度の低い熱です。暖房や冷房が行われている部屋の空気や、お風呂のお湯などがこれに相当します。質の高いエネルギーであれば、電気で自動車を走らせたり、高温の熱で化学反応を起こして有用な物質を作ったりと、様々なことができます。また、電気ストーブを使って簡単に暖房ができるように、質の高いエネルギーから、質の低いエネルギーに変えることもとても簡単です。しかし、逆は簡単ではありません。質の低い状態になってしまうと、色々な目的に利用することは難しく、もうそれ以上役に立たないエネルギーとなります。

 一方、石油や天然ガスなどの化石資源は、上手く利用すれば電気や非常に高温の熱を得ることができるので、質の高い資源です。ガスを燃やして直接お風呂のお湯をわかして、質の低いエネルギーに変えてしまうと、例え熱が空気などに逃げず、水に効率よく伝わったとしても、エネルギーの質の観点からは大きな無駄が生じていることになります。この無駄を減らすためには、質の高いエネルギーと質の低いエネルギーの利用を組み合わせることが、1つの解決策になります。例えば化石資源をまず電気を作るために利用し、その際に生じる廃熱を使って暖める仕組みにすれば、お湯を作る際の化石資源の無駄な利用を減らすことができて効率的です。

 実際の事例としては、家庭くらいのサイズでは、燃料電池という発電と熱の供給を同時に行う仕組みが一部で導入され始めています。工場地帯のサイズでは、神奈川県の川崎スチームネットのように、火力発電所で発電する際に得られる熱を、パイプを通して周辺の工場に供給している事例や、韓国の蔚山市のように、高温の熱を利用する工場から、低温の熱を利用する工場へと熱を供給している事例があります。また、都市のサイズでは、デンマークのカルンボー市のように、配管を通して火力発電所から周辺の工場だけでなく、住宅にも熱を供給している事例もあります(図1)。このような国内外の事例を調査し、これらの仕組みが無駄をなくす効果について検討を行い、例えば東日本大震災の被災都市の復興過程において、どのような仕組みを導入するのが環境や経済の観点から効果的であるかについて計画・評価を行っています。

配管の写真
図1 デンマーク・カルンボー市内で蒸気・温水を供給する配管

 資源の質を活かすという観点では、廃棄物をその質に合わせて利用することも重要です。リサイクル率と呼ばれる、リサイクルに回った廃棄物の割合さえ高ければよいのではなく、廃棄物を高度に利用できる仕組みが必要です。廃棄物を燃やす焼却炉は、廃棄物の衛生的な処理には欠かせないものとなっています。焼却炉にはボイラーで熱を回収して蒸気を発生させ、タービンで発電する装置が付いている場合も多く、質の高いエネルギーである電気を作ることが可能です。しかし焼却炉には制約があり、蒸気の温度は300~400℃と、発電用としては低い温度に抑える必要があります。そのため発電量は限定的です。家庭の廃棄物の中でも、もっと高温で燃やせるプラスチックや紙などを、低い温度の蒸気に変えてしまうと、そこには無駄が生じていることになるのです。

 廃棄物は発生時にできるだけ分別し、異種の素材や異物の混合の少ない廃棄物は、再び素材にリサイクルして利用することで、その特性を活かせます。また、水分や塩素分などの少ない廃棄物は、工場で化石資源の代わりに利用することで、効率的に利用することができます。現在でも、家庭から出る廃棄物の一部はこのような方法で効率的に利用されていますが、まだまだ不十分です。シミュレーションによると、現在焼却されている廃棄物から、雑多なプラスチックや紙類を分別してリサイクル拠点に集めて前処理を行い、工場等で利用することで、図2左側のグラフに示すように、一人当たり年間で80kg程度のCO2を削減できることが推定されました。分別率を高めれば、最大で100kg程度まで削減可能です。また、リサイクルは人口密度の高い地域ほど効率的に行えますが、図2右側のグラフに示すように、人口密度(廃棄物の発生量)に合わせた適切な空間規模にリサイクル拠点を建設すれば、それほど人口密度の高い地域でなくても、費用も削減され得ることも推定されました。

図2 焼却されている混合プラスチック・紙類をリサイクルすることによる変化

 このように再生可能資源の利用と、無駄をなくす仕組みの導入により、都市の持続可能な発展に資することが可能になります。

(ふじい みのる、社会環境システム研究センター環境都市システム研究室主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の藤井実の顔写真

我が家には0歳と2歳の子供達がいて、研究だけでなく子育ても楽しい今日この頃ですが、子供達の将来のためにも、持続可能で環境にやさしい都市の仕組み作りに貢献したいと思います。

関連新着情報

関連記事