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2015年12月28日

社会の持続可能性と個人の幸福

特集 社会の持続可能性と個人の幸福

松橋 啓介

 先導研究プログラムの一つである持続可能社会転換方策研究プログラムは、5 年間の研究期間の最終段階に入っています。プロジェクト1 では、「環境と経済と社会と個人」を持続可能な発展の目標に定め、主に生産面に着目しながら、日本の社会全体の複数の将来像を提示するとともに、将来の見通しを国内9 地域別に定量化する研究を進めています。プロジェクト2 では、将来推計を踏まえた主要な個人属性や世帯属性を対象とし、生活において直面しうるさまざまなリスクへの対処に着目して、ライフスタイルの将来像を提示しています。

 現在、二つのプロジェクトが描く将来像のとりまとめを進めています。その際に、社会の持続可能性と個人の幸福との調和が改めて課題になっています。個人の幸福を支えるためには、社会的、経済的な基盤が整っている必要があり、さらには環境的な基盤が全体を支えています。こうした、個人と社会と経済と環境の四つの分野を持続可能な発展の目標とする考え方がでてきています。しかし、個人の幸福の範囲を比較的狭くとる場合には、環境的な持続可能性が十分に考慮されないおそれがあります。

 たとえば、経済協力開発機構(OECD)の「より良い暮らし指標(Better Life Index)」では、環境を含む11の指標を挙げて国別の比較を可能としていますが、環境に含まれる内容が大気汚染や水質汚濁に限られます。持続可能性については、別に考えるとしており、より良い暮らしの目標に位置づけることができていません。一方で、国連が示す2030年までの新たな開発目標SDGs(持続可能な開発目標)には、気候変動や生物多様性、資源の有効活用や健康といった観点が含まれています。持続可能社会への転換を実現するためには、こうした持続可能性の観点を国や地域の政策目標や企業の活動方針に組み込むことで、個人の幸福の向上を求める日常的な選択に間接的に影響を与えていくことが鍵になると考えています。そこで、本プログラムでは、地域の持続発展指標を開発する大学等との共同研究に加えて、自治体の総合計画立案への参画や企業とのコンソーシアムを介した将来像の応用といった社会実装にも取り組んでいます。

 また、個人の幸福は一様ではなく、その個人属性や世帯属性に応じてきわめて多様です。そのため、社会の長期的な変化の方向と日常的なライフスタイルの変化の方向を一対一に対応する形で表現することができません。そこで、本プログラムでは、社会の将来像を定量化する際に、年齢構成や世帯構成といった類型ごとに考えるとともに、それぞれの構成割合の変化の方向性についても考えています。また、産業構造や雇用等が整合するように、消費や収入、従業人口についても考えています。

 こうした課題をクリアしつつ、持続可能な社会と幸福な個人が調和する将来像を提示することを目指しています。本特集では、その進捗報告として、プロジェクト2について、プログラム紹介「将来のライフスタイルを描く」と研究ノート「フォーカス・グループ・インタビュー調査から見える生活者像」で紹介します。また、関連研究の知見から、環境問題基礎知識で「持続可能な発展と衡平性」について解説します。

(まつはし けいすけ、社会環境システム研究センター 環境経済・政策研究室長)

執筆者プロフィール

松橋 啓介

近年、髪が白い、顔が焼けているとよく言われます。髪は加齢と仕事、顔は趣味のサッカーの影響です。そのうちに、髪より顔の方が濃い色になりそうです。でも、中身は変わらず、面白い研究を続けていきたいです。

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