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2011年10月31日

国立環境研究所におけるアジア環境研究の方向性と国際連携

研究をめぐって

 環境問題の現状と解決の方向性や環境省の環境研究・環境技術開発の推進戦略を踏まえて作られた中期計画の中で、国環研のアジア環境研究の方向性が示されています。国環研では、地球環境問題の解決やアジアにおける持続可能な社会の構築に資する研究、アジアが抱える環境問題や国境を越えて広域にわたる環境問題の共同解決に資する研究、アジアをフィールドとした研究をアジアの研究者と共に行っています。

環境省「環境研究・環境技術開発の推進戦略」より

 2010年6月に発表された環境省「環境研究・環境技術開発の推進戦略」では、全体として「人間社会の持続に必要な地球全体の容量の把握、持続可能な人間活動への変革」が求められるとして、脱温暖化領域、資源循環領域、自然共生領域、安全領域の研究に求められる課題が挙げられています。

 そして、アジア等との連携の重要性を、下記のように強調しています。

 「気候変動等の地球レベルの環境問題に対応するためには、国際的な連携が不可欠である。とりわけ、地理的にも近接しており、経済関係がいっそう緊密化しているアジア諸国における協力関係を強化し、アジア圏全体での持続可能な社会づくりをリードしていくことは我が国の使命とも言える。」

 そして、国環研については、「既に多くの国際機関のフォーカルポイントとなっている(独)国立環境研究所を中核とした研究開発の強化など、国際間の連携をいっそう強化していくべき」とされています。

国環研で行われているアジア環境研究

 第3期中期計画(2011~2015年度)では、「1.環境研究に関する業務(1)環境研究の戦略的な推進③中核的研究機関としての連携機能の強化」の中で、「海外については、海外の研究者、研究機関及び国際研究プログラムとの連携を推進するとともに、国際的な研究活動、国際研究交流、国際研究協力等に取り組む。特に地球環境問題に関する研究や我が国と密接な関係にあるアジア地域において、国環研が中心となった戦略的な研究展開を図る」とされています。研究内容については8つの研究分野の研究と、特に研究プログラムとして行われる重点的な研究や先導的な研究についての説明の中で述べられています。そして、これらの研究につながりを持たせて効果的に推進するために、研究連携部門及び国際室(企画部)が2011年4月に発足しました。

 国環研のアジアに関連する研究や活動は、8つの研究分野に対応した8つの研究センターを中心に進められている重点研究プログラム、先導プログラム、モニタリング事業などの中で行なわれています。それらは下記のような性格を持っていると言えます。

 a. アジアにおける持続可能社会構築に資する研究
 b. アジアが抱える環境問題や国境を越えて広域にわたる環境問題の共同解決に資する研究
 c. アジアをフィールドとした研究
 d. アジア環境研究のためのネットワークやプラットフォーム構築など、共同研究・国際連携の推進

 a.とb.は「環境研究 for Asia」すなわち、アジアの環境問題を解決するための研究、c.は「環境研究 in Asia」、d.は「環境研究 with Asia」すなわち、アジアの研究者と手を携えて行う研究ということができます。もちろん、a.~c.の研究のほとんどは「環境研究 with Asia」でもあります。以下、重点・先導プログラムによる研究を中心にご紹介します。

(1)地球環境問題の解決やアジアにおける持続可能社会構築に資する研究
 地球温暖化研究プログラムでは、アジア主要国の低炭素社会に向けたビジョン・シナリオの構築と対策評価について、それぞれの国の研究者と共に、その国の現状と政策を踏まえて研究が進められています。

(2)アジアが抱える環境問題の共同解決に資する研究
 アジアが抱える重要な環境問題として、廃棄物があります。循環型社会研究プログラムでは、フィリピンやベトナムでの現地調査を含めて、国際的に流通する資源・材料・製品の流れ(フロー)を把握・分析し、管理の方法を提言するための研究が行われています。また、アジア地域に適した都市廃棄物の埋め立て技術や、浄化槽などの分散型の有機性廃棄物・排水処理技術の開発を行っています。
 都市環境システム研究プログラムでは、中国瀋陽市を対象に、地域循環、低炭素産業、自立エネルギー等の環境技術・施策システムの計画・評価手法を開発しています。また、タイなどで廃棄物処理、水質浄化と温暖化対策を両立させるコベネフィット型環境技術システムについての研究を行っています。「コベネフィット」とは、温暖化対策と他の環境問題を同時に解決することです。

(3)国境を越えて広域にわたる環境問題の共同解決に資する研究
 この問題の解決は、アジアが抱える環境問題の解決と共に行われるものですが、そのための研究は主に東アジア広域環境研究プログラムによって行われています。そこでは、地上・船舶・航空機による野外観測、宇宙からの衛星観測、全球・領域化学輸送モデルを統合的に使用して、半球/東アジア/日本域というマルチスケールの大気汚染の実態と発生機構を解明するとともに、将来予測と対策シナリオ・影響の評価を行っています。また、長江流域の陸域起源の汚濁負荷の増大が、東シナ海陸棚域での赤潮発生をはじめとする広域海洋環境劣化を引き起こしている問題に取り組んでいます。

(4)アジアをフィールドとした研究
 アジアが抱える環境問題の共同解決に資する研究の多くがアジアをフィールドとして行われていますが、ここでは先ず、アジアで行われている地球観測についてご紹介します。地球温暖化研究プログラムでは、これまで作り上げてきた観測ネットワーク(地上ステーション、定期船舶、航空機、衛星など)を継承し、長寿命の温室効果ガス(GHG)の観測項目に加え、短寿命のガスやエアロゾル成分へ観測対象を広げ、アジア—太平洋地域およびグローバルな濃度増加や変動・分布の特性についての研究を実施しています。このプロジェクトでは、「いぶき」(GOSAT)によるGHG観測データも活用されています。
 メコン河をフィールドにした研究も継続されます。流域圏生態系研究プログラムでは、回遊魚の耳石サンプルをレーザーアブレーションICP質量分析計(LA-ICPMS)で分析し、そのデータから回遊経路を推定する研究に加え、メコン河流域の下流4カ国において重点研究サイト(ダム貯水池)を選定し、地域ごとに定期的な水および底泥のサンプリングを行う予定です。

アジア環境研究のためのネットワークやプラットフォーム構築など、共同研究・国際連携の推進

 国環研は、共同研究の実施を支援するため、中国と13件、韓国と6件の二国間協定を結んでいる他、外国研究機関との間で独自に覚書を結んで共同研究を行っています。また、アジア工科大学院大学(AIT)とは包括協定を結んでいます。さらに、日中韓3カ国環境研究機関長会合(TPM)を定期的に開催しています。

 研究ネットワークについては、陸上生態系の温室効果ガスのフラックス観測に係わるネットワークであるAsiaFluxネットワークの事務局、アジアエアロゾルライダー観測ネットワークの運用などを担っています。

 人材育成では、各国の研究者が、自ら低炭素社会のシナリオ作りを行えるようにするためのAIMトレーニングワークショップ、温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)によるアジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia)、持続可能な最終処分場に関する若手研究者のためのトレーニングワークショップなどを開催しています。

 国環研は海外研究者の受け入れにも力を入れており、2011年3月31日現在、42名の契約職員が在籍している他、客員研究員、共同研究員、研究生合わせて38名を受け入れていました。

 このようなアジアをはじめとする国際連携の輪を更に広げ、持続可能なアジアの実現に向け、共に歩んでいきます。

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