ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2009年8月15日

研究最前線第12回「中国の水環境の現状と日本からの技術協力支援」

河川の状況

 わが国の環境白書に当たる2008年版中国環境状況公報によると七大水系(長江・黄河・珠江・松花江・淮河・遼河・海河)の200河川、409ヵ所における水質状況の割合は、Ⅰ~Ⅲ類が55%、Ⅳ~Ⅴ類が24.2%、Ⅴ類以下が20.8%でした。それぞれの河川における水質状況を下図に示します。

 ここで、水質状況を表しているⅠ類からⅤ類とは中国の河川や湖沼といった地表水の利水目的別の水質分類で、わが国の水質環境基準における「類型」と類似した考え方で決められています。中国で発表される水質状況は上記で示したように分類値のみが公表されることが多く、実際の汚染状況等がわかりにくい側面があります。Ⅰ類は源流および自然保護区に適用され、Ⅱ・Ⅲ類が水道利用用途であり、このあたりが水質の善しあしを判断する境界となっています。Ⅳ類は工業用水および人に直接接触しない娯楽用水、Ⅴ類は農業用水および一般の景観に必要な水域に適用となっています。それぞれの分類にはBOD(生物学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)などの複数の水質項目に対して基準が決められており、例えば有機汚濁の指標となるBODはⅠ~Ⅴ類について、それぞれ3以下、3、4、6、10mg/Lとなっています。なお、中国の水質基準の詳細については日中友好環境保全センターのホームページで確認できます。

 河川の水質状況に戻ると、約半分の水域で水道利用が難しい状況であることがわかります。水系別では、北京市と天津市の全域を流域に含み、天津市域で五つの河川が合流する海河や遼寧省中部を北から南へ縦貫する遼河の水質状況が厳しく、いずれの河川も閉鎖性の強い渤海に流入するため水質汚濁対策が急がれています。

図:七大水系別の水質状況

湖沼の状況

 同じく2008年版中国環境状況公報によると、中国の重点湖沼28ヵ所の水質状況はⅡ~Ⅲ類が6ヵ所、Ⅳ~Ⅴ類が11ヵ所、Ⅴ類以下が11ヵ所であり、河川と同様に厳しい水質状況が示されています。大部分の重点湖沼では富栄養化の進行が水質状況に影響しており、その対策が急がれています。とくに、中国では江蘇省と浙江省に挟まれた太湖、安徽省の巣湖および雲南省のデン池湖を「三湖」として、重点的な水環境改善に取り組んでいます。高い経済生産地域を流域に持つ太湖では2007年に大規模な藻類の異常増殖に見舞われ、太湖を水道水源とする無錫市の水道供給が停止するなど社会生活に少なからぬ影響が出ました。これらの経験を元に、太湖の流域では水質保全に対してさまざまな施策がとられていますが、浅い湖ということもあり、一朝一夕の水質改善は難しい状況です。しかし、極めて厳しい排水基準を制定し、湖畔や流入河川の両端に緑地帯を計画するなど、積極的な対応が見てとれます。

排水処理の状況

 2008年版中国環境状況公報によると2008年の中国のCOD排出総量は1,321万t(生活排水65%、工業排水35%)でした。CODの排出総量は90年代後半からほぼ横ばいの状況ですが、全体に占める生活排水の割合は2000年を境に工業排水を超えるようになりました。これらは、工業排水に対する厳しい対策による削減効果と近年の急激な経済成長により都市化が進み、用水需要量が増大したことに起因していると考えられます。また、水洗トイレの普及も大きな原因の一つではないかと思われます。このような状況を背景に、中国では大都市域の下水道整備を積極的に進め、2007年版都市・県城・村鎭建設統計公報によると大都市域の下水道普及率は60%を超えています。しかしながら全人口の半分近くが暮らす、農村部の中小都市では20%程度、村レベルでは2~3%程度の普及率となっています。旧来より農村部のし尿管理は農地利用を伝統としてきましたが、近年は農村の近代化により、トイレの水洗化が進み、農地利用が難しくなるとともに、化学肥料の使用量が増え、し尿が資源から廃棄物へ移行する様子が見られます。これらの状況は、今後の中国における排水対策の重点が工業および都市排水から、中小都市を含む村落地域の生活排水対策に向かうことが示唆されています。

中国との水環境パートナーシップ事業

 環境省ではこのような中国における水環境にかかる状況を踏まえ、また、中国環境保護部からの強い要請を受けて、2008年5月の胡錦涛主席来日時に両国大臣間で「農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力実施に関する覚書」を締結し、中国農村地域での生活排水対策に関する協力事業を開始しました。本事業では中国国内において気候および社会状況の違う複数のモデル地域を選定し、日中の関係者が双方の処理システムを比較検討し、それぞれに応じた分散型排水処理施設をモデル設置することを目的としています。さらにこれらのモデル事業を軸として、関連する環境政策研究の推進により、中国国内での定着および普及を目標とした検討を行っています。この中で国立環境研究所は処理技術の選定および適応性評価を行っています。

 昨年度は長江流域を対象として、経済成長で都市化傾向が見られる江蘇省泰州市および三峡ダムの上流に位置する重慶市忠県万州区を対象地域としました。泰州市では土地利用が集約され、処理施設が住居地域に隣接するため、臭気対策と維持管理の簡易さを考慮して埋設型の接触ばっき方式を採用しました。接触ばっき方式は生物処理方式の一つであり、わが国では分散型生活排水処理によく用いられています。重慶市忠県万州区ではモデル地域の経済状況から維持管理費を泰州市より低く抑える必要があるため、基本的に電力が不要な人工湿地方式を選定しました。ただし、山間地で泰州市ほどではないにしろ土地利用に制限があることや、人工湿地の安定した処理性能を維持するため、人工湿地の前段に短時間のばっき処理を組み合わせました。写真は重慶市忠県の処理施設の様子で、手前が人工湿地となります。

重慶市忠県に設置した分散型処理施設(2009年6月の竣工式時)

 このように、昨年度は各モデル地域の状況に応じた技術選択を行い、処理施設を建設しました。今後はモデル設置した処理施設の運用に関して日中双方が共同で検討を行うことにより、アジアを中心としたほかの開発途上国を視野に入れた汎用性の高いシステムとしての熟成を目指す予定です。

雑誌「グローバルネット」(地球・人間環境フォーラム発行)225号(2009年8月号)より引用

目次ページの写真は、技術協力で完成した生活排水処理施設(江蘇省泰州市興化市戴南鎭)他

関連新着情報

関連記事

関連研究者

表示する記事はありません