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2010年2月15日

研究最前線第15回「気候変動枠組条約締約国会合に参加して~研究機関の役割を考える」

 2009年12月7~19日まで、デンマークのコペンハーゲンで気候変動枠組条約第15回締約国会議・京都議定書第5回締約国会合(COP15/CMP5、以下コペンハーゲン会議)が開催され、京都議定書以降の温暖化防止の国際約束の交渉が世界の注目を浴びました。コペンハーゲン会議には、各国の政府代表団だけでなく、国際機関、シンクタンク、環境保護団体、産業界、研究者等がオブザーバーとして参加します。今回は事務局の予想を超える数万人の関係者が集まり、後半はオブザーバーに対する会場への入場制限も行われました。

どのような情報が必要なのか~研究機関の役割~

 コペンハーゲン会議の目的は、急激な気候変動による悪影響を防ぐために世界の温室効果ガスの濃度を安定化することであり、それを達成するため各国が何をすべきかが話し合われますが、先進諸国と途上国の責任の相違を中心として、なかなか議論がまとまらないのが現状です。納得のいく議論のために、さらにどのような情報が必要なのでしょうか?

 気候変動枠組条約第4条(約束)には、「気候変動に関する教育、訓練及び啓発を促進・協力すること、気候変動の原因、影響、規模及び時期並びに種々の対応戦略の経済的及び社会的影響についての理解を増進し、残存する不確実性を減少・除去することを目的とする気候系に関する科学的、技術的、社会経済的研究、組織的観測及び資料の保管制度の整備を促進・協力すること」など締約国は、気候変動に関する科学的研究を進めることとされています。

 国立環境研究所(NIES)のような研究機関には、気候変動に関する観測結果等のデータの提供や将来予測、低炭素社会構築に関する研究成果が期待されていると考えられます。

国立環境研究所の情報発信

 コペンハーゲン会議会場内にNGO展示エリアが設けられており、世界規模で活動する団体が発表や資料配付等を行いました。映像的にインパクトのある展示物を前面に出す団体もあれば、独自データや映像、写真、シナリオなどを示す団体もあります。

 NIESは、2004年12月のCOP10(ブエノスアイレス会議)以来、研究成果のPRやサイドイベントの開催による研究交流などを通じ、COPでの情報発信・収集を行ってきました。近年、NIESサイドイベントでは低炭素社会の構築に焦点を当て、アジアの共同研究者たちと最新の研究成果をPRしてきました。今回も地球環境戦略研究機関(IGES)および全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)と共同し「低炭素アジア-ビジョンと行動-」と題するサイドイベントを開催しました(写真下)。これはNIESが開発した低炭素社会へのロードマップ検討手法をアジアに適用し、中国、インド(アーメダバード)、日本(滋賀および京都)の都市の研究成果を示して、具体的なロードマップ実現方策などを議論したものです。ポイントは、高い生活水準を保ちつつも大幅な温室効果ガス削減が可能であることが示せた点にあります。

 イベント参加者からはアジアだけでなく世界全体と協力して研究を進めて欲しいなど好意的な反応が数多くありました。一方、そんなにうまく行くのか、本当にそのように進むのかという厳しい意見もあります。しかしながら、このような議論は誰かが問いかけなければ理解が進みません。未知の領域に挑む研究所はこれからも先頭に立たなければならないと思います。また、NIES紹介ブースでは、温室効果ガス観測技術衛星いぶき(GOSAT)によって得られた最新のデータや持続可能な低炭素社会構築に関する研究成果を紹介し、研究所の研究成果である「新しい事実」に重点をおいたプレゼンテーションを心がけました。アフリカ諸国の政府代表団からは、「アフリカ諸国においても温室効果ガスのモニタリングを実施してほしい」「アジアだけでなく中南米やアフリカと共同研究することはできないのか」等の質問を受けるなど、NIESの活動に強い関心が示されました。

 NIES展示エリアには研究のドキュメンタリー写真映像(北海道のフラックス観測サイト)をアイキャッチとして使用しました。その写真を見て森林と二酸化炭素(CO2)の関係の説明を求める参加者が複数あり、コミュニケーションにおいて映像の力が大きな意味を持つことを感じました。しかしながら、NIESを含めた日本のNGO・政府ブースが四つ集まって一角を占めたにもかかわらず、展示としてのまとまりや情報共有の連携が不十分でした。日本政府は世界に注目された高い削減目標を掲げましたが、PRという点でさらなる工夫が必要であると考えられます。

写真:「低炭素アジア-ビジョンと行動-」と題するサイドイベントの様子

世界の研究機関のプレゼンテーション

 米国海洋大気庁(NOAA)の展示は米国政府のPRエリアに常設され、大きな地球儀型のスクリーンにリアルな観測データを投影して説明するプレゼンテーションが目を引きました。これは映画「不都合な真実」でのゴア氏のプレゼンテーションを彷彿させるもので、多くの人が足を止めて説明を聞き、質問なども多く好評でした。何をどのように訴えるべきかを考えると、研究機関のPR方法として、資料を配るだけではなく、双方向のコミュケーションによる理解と納得が重要です。これまで温暖化の国際約束に積極的ではなかった米国政府のブースで、データをわかりやすく示して語りかけるNOAAのプレゼンテーションには共感するところがありました。

 また、コペンハーゲン市内の広場では、CO2排出の少ない電気自動車の展示や、体験型のイベントでPRする企業等も多く見られました。とくに中心街のイベント会場には、クリスマスツリーの電飾を自転車発電で点灯させるイベントが行われていました(写真下)。日本でもこの様子がテレビ中継されましたが、これはNIESが国内公開イベントで展示するものと同じです。自転車発電はエネルギーの大切さを実感させる教育効果があり、自転車が主要な交通機関であるコペンハーゲンではとくに効果的です。写真・映像・体験型の展示は言葉の障壁がなく、世界共通に使えることも実感しました。

写真:コペンハーゲン市内の広場での体験型イベントの様子

科学の役割と温暖化問題

 今回、コペンハーゲン会議に研究機関として参加し、コミュニケーションや相互理解の重要性を改めて認識させられました。データを示すだけではなく、それをどのように理解してもらうかについて、研究所紹介ブースでのプレゼンテーションはまだまだ工夫が足りていません。

 しかし、世界気象機関(WMO)や世界資源研究所(WRI)など世界の著名機関に混じってNIESのPRができたことは意義深く、今後もNIESとしてCOPの場所で伝えたいことをはっきりとイメージして臨みたいと思います。

雑誌「グローバルネット」(財団法人地球・人間環境フォーラム)230号(2010年2月号)より引用

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