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INSTAC計画に参加して

海外出張報告等

酒巻 史郎

 現在、温暖化等の地球規模の環境問題が国際的な関心を集めているが、これは産業革命以来の人間活動の著しい拡大の結果、地球上の大気の組成、特に赤外線を吸収して気候形成に重要な役割を果たしている二酸化炭素等の微量成分が大きく変化をしているためである。しかしながら、これら微量成分に関する研究はこれまでほとんど北半球の人工密集地域に限られてしか行われておらず、より広域での分布や輸送・拡散の状況についての知見は非常に不十分な状態であり、これら大気微量成分の全球的な立体的把握が要望されている。このような背景のもとで大型航空機を移動する研究室として、太平洋上空の対流図・下部成層圏大気の化学分析により微量成分の動態を把握することを目的としたINSTAC(International Strato-Tropospheric Air Chemistry:気候変動に係わる対流圏・下部成層圏大気の化学的研究)計画が始められた。これは科学技術振興調整費の国際流動基礎研究として1988年度より3年計画で気象庁気象研究所を中心として進められている。その初年度の1989年3月に行われた飛行計画に参加する機会を得たのでこの場を借りて簡単にその紹介をしたい。

 このINSTAC-Iの飛行は、成田−硫黄島−サイパン−ヤップ−ビアク(ニューギニア)−ダバオ−マニラ−那覇−大阪(八尾)と西太平洋の赤道以北の地域を島伝いに周回する経路(高度約5km)で4日間かけて行われた。測定はCO2,メタン,ハロカーボン,オゾン(UV吸収法),エアロゾルを気象研究所が、NOとオゾン(KI法)を名古屋大学の近藤豊氏が、炭化水素を私が担当して実施した。NOやオゾン,エアロゾルは分析機器を機中に持ち込んで飛行中に連続測定を行ったが、その他は容器に間欠的に採気して持ち帰って分析する方法で行った。飛行機はフェアチャイルド社製のマリーンIVを使用したが、機内は各種の分析機器と数十本の大小4種類の採取容器,張り巡らされた採気用銅パイプで極めてたて込んだ状況となり、ただでも狭い機内で4日間搭乗して測定操作した方々の苦労がしのばれた。さて、炭化水素の分析であるが、持ち帰った容器から試料空気中の炭化水素を低温で濃縮補集した後にFID-ガスクロマトグラフでエタンからペンタンまでの14種類の炭化水素について定量を行った。その結果の例としてエタンの緯度分布を図に示した。北緯35度付近の高濃度は淡路島上空でのテスト飛行の際に採取した空気のものであり、都市大気の影響を強く受けた結果であろう。また洋上での測定結果でも人為的な発生源の緯度分布と対応して10度付近までは南下するにつれて低減する傾向が認められた。興味深いのは10度以南の熱帯域で濃度が高くなっている点である。この地域で何らかの大規模な炭化水素の発生源のあることを示唆しているのか、単に鉛直方向の混合が盛んになって地表付近の濃度に近い空気を採取しただけなのかまだわからないが、前者ならばおもしろいことになろう。今後、他の測定結果も公表されるであろうが、このINSTAC-I飛行計画が西太平洋地域での初めての大規模広域調査であり、それぞれ有意義な結果を提供してくれるであろう。更にこれらの各種の微量成分及び気象の測定結果からこの地域の大気微量成分の動態に関する総合的な知見が得られることを期待したい。また、今年2月末には南北65度までの両極域付近までを対象とした第2回の飛行計画が予定されており、その結果が楽しみである。

(さかまき ふみお、大気環境部大気化学研究室)

図  エタンの測定結果(緯度分布図)