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広域都市圏における交通公害防止計画策定のための環境総合評価手法に関する研究

特別研究活動の紹介

清水 浩

 広域都市圏における自動車交通公害は、旧来からの未解決の公害事象のうちで最も深刻な課題の1つとして残されている。また、今後も改善よりはむしろ悪化の方向に向うのではないかと懸念されている。
 
 このような状況を踏まえて、本研究では、広域都市圏を視点に捉え、交通公害を総合的に評価し、対策や対応に結びつけるための手法を開発することを目的としている。

 このような目的を達成するために、この研究は以下の課題で構成される。
〈課題1〉交通公害の個別事象の計測とモデル化に関する研究−自動車公害の主要な3つの事象(大気汚染、騒音、アメニティ要因)に関して現象解明と現象予測モデルの開発を行う。
〈課題2〉広域都市圏における自動車交通の環境影響の総合評価モデルの開発に関する研究−大気汚染、騒音、アメニティ要因を総合化する指標の開発を行うとともに、局所的環境指標を広域的に集約し、都市圏全体の環境評価を行うためのモデルを開発する。
〈課題3〉交通公害対策および交通計画の広域的にみた環境調和性の評価に関する研究−種々の交通公害対策や交通計画に関して、環境改善効果や経済効果等を評価する手法を開発する。
〈課題4〉交通公害に関わる環境総合評価手法開発支援のための情報システム構築に関する研究−環境総合評価手法の開発に必要なデ−タベ−スや、解析に必要な共通ソフトウエアを提供するシステムを開発する。

 本研究は平成元年度を初年度として3年計画で行われるものである。初年度は課題1のうちで、大気汚染サブモデルと、騒音サブモデルの開発に大きな効果があったので、これらについて紙面の許す限り紹介したい。

 まず、大気汚染サブモデルについては、道路近傍における大気汚染物質の拡散をあらゆる気象条件のもとで評価することを目指して、計算機による数値計算モデルを開発することを主眼としている。このモデルでは基礎式として風の流れに対して連続の式と運動量保存式を用い、汚染分子の拡散については拡散方程式を用いている。この研究では、まず道路に直交して風が吹いている状態での二次元と三次元の拡散モデルを開発した。これと並行して、風洞実験を行い、このモデルの検証を行った。その結果、各種の道路構造、沿道構造条件でこのモデルは実験結果とよく一致していることが確かめられた。

 開発された三次元の拡散モデルを用いて、道路からの大気汚染物質の拡散を計算した例を図1に示す。この例では一般道路の上を高架道路が走っており、その沿道に中層の建築物が建てられている場合を想定している。図1に示したのは高架道路の下を走る車による大気汚染物質の拡散の様子であるが、高架道路が蓋をする形となるため、風下側の建物の隙間を通して高濃度の汚染物質が拡散して行くのが明瞭に示されている。

 また、この拡散モデルを拡張し、道路に平行に風が吹いている場合のシミュレ−ションモデルの開発を行った。現在、この結果を風洞実験によって検証を行っているところである。

 本予測モデルは今後、接地逆転層が存在するような温度勾配がある場合や、NOxのように化学変化を伴なう場合に対応できるように改良を加え、あらゆる条件に適応可能なものとしていく計画である。

 次に騒音サブモデルにおいては、境界要素法を用いた局地騒音伝播予測モデルを開発した。境界要素法は、騒音の伝播のような開放領域の場の問題を解くのに適しており、従来の有限要素法に比べて次元を1つ落とすことができるので、計算機の容量制限を緩和することが可能である。ここで用いている基礎式は道路と沿道構造物を境界条件としたヘルムホルツ−キルヒホッフの積分方程式で、技術的にはこれを離散化して解くという方法を採っている。この騒音伝播予測モデルでは道路と沿道構造物の表面の吸音特性は任意に指定することができるため、吸音性防音壁等の評価にも有効に利用することが可能である。

 図2に、局地騒音伝播予測モデルによる道路騒音の計算結果を示す。同図(a)および(b)は一般道路上に作られた高架道路の、それぞれ上と下を車が通過する場合の騒音伝播を示しており、(c)と(d)はそれぞれ(a)と(b)の沿道に建物がある場合の計算結果である。これらは300Hzの単一周波数音の場合の結果であるので、音の干渉による縞が現われている。実際の道路交通騒音のような広帯域音の場合には、複数の周波数について計算した結果を加え合わせればよい。この図に示したように、開発されたモデルにより、複雑な道路構造においても騒音伝播の予測が可能である。

 今後はこのモデルを三次元に拡張する予定である。また、風向、風速などの気象条件を考慮したモデルの開発も進めたい。

(しみず ひろし,総合解析部地域計画研究室長)

図1  三次元の拡散モデルによる道路からの大気汚染物質の拡散のシミュレーション結果の例
図2  局地騒音伝播予測モデルによる道路騒音の伝播の計算結果の例