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2023年8月24日

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物質フロー指標の改善と温室効果ガス排出削減が両立しないサプライチェーンの要因を特定

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2023年8月24日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
 

 循環型社会とは、天然資源の消費の抑制によって環境負荷の低減を図る社会です。日本では循環型社会の進展状況を4つの物質フロー指標注釈1(資源生産性、最終処分量、入口側循環利用率及び出口側循環利用率)の改善によって評価しています。一方、脱炭素社会の構築においては、温室効果ガス(GHG)の排出量を実質的にゼロとすることが目標となっています。両社会を一体的に実現するには、物質フロー指標の改善がGHGの削減につながることが重要です。
 国立環境研究所物質フロー革新研究プログラムの研究チームは、物質フロー指標とGHG排出量に作用する経済的要因と技術的要因に着目し、各要因が物質フロー指標とGHG排出量の変化に与えた影響を分析しました。
 その結果、2011年から2015年にかけて物質フロー指標の資源生産性や循環利用率を改善した要因は、GHGの排出量削減には必ずしも寄与していないことが分かりました。この要因を更に産業部門別に細分化したところ、3割から7割の産業部門において、各部門の上流のサプライチェーン(原材料や部品の調達、輸送などを通じてもたらす間接的な産業活動)が物質フロー指標を改善したことが、逆にGHG排出量の増加を招いた要因であることを特定しました。
 上記の結果は、物質フロー指標の改善とGHG排出量の削減を同時に達成するには、各企業が物質利用とそれに伴うサプライチェーンを通じたGHG排出量との関係を理解することが肝要であることを示唆します。
 本研究の成果は、2023年8月17日付で国際学術誌『Environmental Science & Technology』に掲載されました。

結果1 4つの物質フロー指標のサプライチェーンから見た変動要因

まず、経済的要因や技術的要因が物質フロー指標の変化にどのように寄与したかを明らかにするため、2011年から2015年にかけての物質フロー指標の変化要因の分析を行いました(図1)。

図1の画像
図1 4つの物質フロー指標の変化(2011年から2015年)に対する経済的要因及び技術的要因の変化。各指標の改善要因(青色)と悪化要因(赤色)の寄与の合計(グレー)が物質フロー指標の改善または悪化を示す。改善要因(青色)の合計が悪化要因(赤色)の合計より大きい場合に、物質フロー指標が改善されたことを示す。
L, サプライチェーン構造; v, 付加価値率; O, 直接資源利用量; w, 産業廃棄物発生率; wO, 一般廃棄物発生率; Wother, その他の廃棄物発生量; q, 産業廃棄物の最終処分率; qO, 一般廃棄物の最終処分率; Qother, その他の最終処分量. R; 天然資源の利用強度(単位生産あたりの資源利用量); RBIO, バイオマス; RFOS, 化石燃料; RMET, 金属; RMIN, 非金属鉱物; RIMP, 輸入製品; U, 循環資源の利用強度; UCS, 燃え殻、ばいじん; UOAP, 廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック; UPW, 紙くず; UMET, 金属類; UGCW, ガラス陶磁器くず; UMWS, 鉱さい、スラグ; UOCU, その他の循環利用; y, 最終需要; yhouse, 家計消費; yother, その他の国内需要; yexport, 輸出.

2011年から2015年にかけて、4つの物質フロー指標がすべて改善しましたが、それは経済的要因や技術的要因の変化が複雑に作用した結果であることが分かりました。例えば、図1の「a.資源生産性」においては、単位生産あたりの化石燃料の投入量(RFOS)や家計消費(yhouse)、サプライチェーン構造(L)の変化が指標の改善(青色)に貢献した一方で、付加価値率(v)の変化は指標の悪化(赤色)を招きました。また、すべての物質フロー指標に共通する経済的要因であるサプライチェーン構造(L)や、家計消費や輸出などの各最終需要(y)は、ある指標では改善に寄与した一方で、他の指標では悪化をもたらすことから、各物質フロー指標に与える影響の特性に注視する必要があります。具体的には、サプライチェーン構造(L)の変化は、「a.資源生産性」と「b.最終処分量」を改善した一方で、「c.入口側循環利用率」や「d.出口側循環利用率」を悪化させています。他方で、輸出需要(yexport)はすべての指標を悪化させています。日本は、自動車をはじめとする物質依存度の高い(物質を大量に必要とする)工業製品が輸出の大部分を占めるため、製品の軽量化や材料の代替を通じて物質依存度の低い工業製品の輸出へ転換することが、物質フロー指標改善の鍵となることも示唆されました。

結果2 物質フローの改善とGHGの排出削減が両立しない要因

結果1で示された経済的要因は、日本のGHG排出量を変化させる要因でもあります。物質フロー指標の改善とGHGの排出量削減をどのように両立可能かを考える上で、経済的要因の両者に対する貢献に整合性があるかを確認することが有益です。2011年から2015年の間に日本全体のGHG排出量は減少しており、一見すると結果1で示された物質フロー指標の改善と整合的に見えます。しかし、産業レベルでその整合性を検証した事例はありません。本研究では、すべての物質フロー指標に共通する経済的要因(サプライチェーン構造と最終需要)をさらに産業部門別に分解し、各産業部門の要因が物質フロー指標の変化とGHG排出量の変化にどのように影響したかを分析しました。

図2
図2 物質フロー指標とGHG排出に対して不整合な寄与をした産業部門の割合。RPは資源生産性、FDは最終処分量、CUinは入口側循環利用率、CUoutは出口側循環利用率を示す。

図2は、経済的要因の変化が物質フロー指標を改善させたがGHG排出量の増加を招いた、または、物質フロー指標を悪化させたがGHG排出量の低減に寄与した(いずれも「不整合」という)産業部門の割合を示したものです。なお、図2ではサプライチェーン構造(L)はGHGプロトコル注釈2の定義を参照し、D1:電力を含むエネルギーの直接利用(Scope1 and 2)、D2:商品・サービスの生産(Scope3 生産関連)、D3:固定資本の利用(Scope3:固定資本関連)の3つのサプライチェーンの断面に分解しています。
全体的に、不整合(図2の青色と黄色)の割合が大きい指標は、資源生産性(RP)や循環利用率(CUin,CUout)であることが確認できます。黄色の不整合の割合は、経済的要因の変化が物質フローを改善させたがGHG排出量の増加を招いた産業の割合であり、資源生産性(RP)では最大で50%を超えています。つまり、これらの物質フロー指標を向上させる各産業の経済的要因の変化が必ずしもGHG排出の削減を同時にもたらすとは限りません。この資源生産性(RP)と循環利用率(CUin,CUout)における不整合性の割合は、Scope1 and 2では比較的小さく、すべての指標で30%未満です。一方で、Scope3は、「D2:生産関連」と「D3:固定資本関連」の2種類ともに不整合の比率が高く、30%から70%の産業部門が該当します。特に、循環利用率(CUin、CUout)の不整合性は50%を超えています。中でも、Scope3のD3は不整合性が高く、固定資本形成に伴う物質消費の抑制とGHGの排出削減を同時に達成することが、将来の脱炭素社会に向けた物質フロー管理において優先すべき課題であると言えます。例えば、既存の機器や設備、建造物等を最大限に活用し、固定資本形成に必要となる鉄鋼やセメント、ガラス等の製造時に多くのGHGを排出する物質の消費を抑えることが重要になります。

結果は何を意味するのか?

本研究から得られる結論は、各産業部門が物質フロー指標の改善とGHG排出削減を同時に実現するためには、各企業における物質利用とGHG排出の相互関係への理解を深めることが必要、ということです。すなわち、循環型社会と脱炭素社会とを両立して促進させるためには、産業部門レベルで物質利用とGHG排出の不整合を解消する取り組みが求められます。具体的には、各産業部門が自身の産業活動における物質利用が、サプライチェーンを介して社会全体のGHG排出にどのように影響しているかを把握できる仕組みの導入が有効と考えます。例えば、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などの企業の炭素排出開示において、同時に物質利用に関する情報も開示するようなルール化が望まれます。物質フロー管理にも企業の資金調達に対するインセンティブを発生させることで、企業が物質フローと炭素排出の情報開示を自発的に行う体制の構築を促すことが重要と考えます。

注釈

注釈1:物質フロー指標とは、第四次循環型社会形成推進基本計画において、どの資源を採取、消費、廃棄しているのかその全体像を的確に把握し、その向上を図るために物質フロー(物の流れ)の異なる断面である「入口」、「循環」、「出口」に関して設定された指標です。各指標の定義は以下のとおりです。
1)資源生産性 = GDP / 天然資源等投入量
2)最終処分量 = 廃棄物の埋め立て量
3)入口側の循環利用率 = 循環利用量 /(循環利用量+天然資源等投入量)
4)出口側の循環利用率 = 循環利用量 / 廃棄物等発生量

注釈2:GHGプロトコルとは、事業活動におけるサプライチェーン全体のGHG排出量を、事業者が算定し開示するために定められたガイドラインです。GHGプロトコルでは、サプライチェーンのGHG排出量=Scope1(燃料の燃焼)+ Scope2(電力の使用)+ Scope3(Scope1, 2を除く全ての間接排出)と定義されています。Scope3の領域は複雑かつ範囲が広く、さらに15のカテゴリーに細分化されています。本研究では、カテゴリー2に属する固定資本に関連するサプライチェーンをその他の生産全般に関連するサプライチェーンから分離し、「生産関連」と「固定資本関連」のそれぞれのサプライチェーンの特性に注目した解析を行っています。

研究助成

本研究は、環境研究総合推進費(JPMEERF20223001)、JSPS科研費(JP22K18433)の支援を受けて実施されました。

発表論文

【タイトル】
Supply Chains Factors Contributing to Improved Material Flow Indicators but Increased Carbon Footprint
【著者】
Sho Hata, Keisuke Nansai, Kenichi Nakajima
【掲載誌】Environmental Science & Technology
【URL】https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.3c00859(外部サイトに接続します)
【DOI】10.1021/acs.est.3c00859(外部サイトに接続します)

発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立研究開発法人国立環境研究所
社会システム領域 脱炭素対策評価研究室
 研究員 畑 奬
資源循環領域 国際資源持続性研究室
 室長(物質フロー革新研究プログラム統括) 南齋 規介
 主幹研究員 中島 謙一

問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 社会システム領域
脱炭素対策評価研究室 研究員 畑 奬

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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