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新しい人類文化の創造

論評

佐治 健治郎

 地球気候安定化総合戦略案並びに日本の行動5原則を拝読,感銘しました。地球環境問題は,すべての人と自然生態系の参加,文化・生活様式と主体性,エネルギー問題と南北問題,したがって各国の運命に直接かかわり,幾度か氷河期を乗り越えてきた人類の歴史を想起させます。

 人類の祖先は遠い昔,闇の世界に光がさしたように,「我と汝」の条件付きではあるが(関係原理),開かれた存在様式と,技術と信仰心(信頼とは違う)の種を与えられた。人間は「我と汝」の根源的人間(じんかん)関係においてのみ生き,行為し,人格形成が可能である。文化は汝にたいする応答であり,自由と責任は本来切り離せない。自分ひとりでものを所有するところに現実は成立せず,人格的主体の客体化が人権である。

 地球環境問題と先進国の教育の荒廃に象徴される現代文化の危機の原因は何か。大戦後自然科学—技術(文化のハード面)の進歩に比べて,人文科学—芸術(ソフト面)とくに核兵器廃絶を頂点とする政治・経済・法律・制度の遲々とした歩みは,文化の進化のハード・ソフト両面の著しい跛行性を示す。競走原理に優位する関係原理の認識,人格の概念・自由と責任の明確化,政策科学の進歩と合意促進の工夫が望まれる。教育環境は創造性と人間的共感を哺み,師・友と出会い,倫理的文化・価値形成への自主的基礎付けの場でありあってほしい。

 私は切に思う—“人口爆発を含む地球環境・教育・医療・文化の危機は,根源的人間関係に係わり,全ての個人にも国家にも固有の生長速度を認め合い,相手の自助を支え合う人格的交わりをもつ人間らしい行為こそ,東西の哲学・文化を超えて新しい人類文化を創造する原動力であろう”と。

 国立環境研究所の重大な御使命を思い,皆様の御健闘と全省庁・公共機関・民間の協力を祈ります。

漢詩  想人類歴史

(さじ けんじろう,元技術部長)