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都市型環境騒音・大気汚染による環境ストレスと健康影響に関する環境保健研究

プロジェクト研究の紹介

兜 眞徳

 近年、環境騒音や大気汚染などの環境汚染状況は「都市型汚染」の傾向を強めており、とくに夜間の交通騒音による睡眠妨害をはじめとするストレスの問題や急増傾向を示す各種アレルギー疾患発症への大気汚染の影響の問題は緊急検討課題と考えられる。前者は、産業ストレスや通勤ストレスなどと呼ばれる都市生活に伴うストレス総体の一部として、都市環境のアメニティに深く関連していることも見逃せない。また、後者については、ディーゼル排出粒子抽出物や窒素酸化物が花粉症をはじめ各種アレルギー性疾患の発症に関与していることを示す動物実験結果も報告されており、実際に人の花粉症にどのように関与しているかを解明する必要性が指摘される。

 本特別研究は、上記の2種の課題について、疫学調査や人間を対象とした生理実験などを行うことを目的として本年度より開始された。初年度であり、基礎的な諸検討を行ってきている段階であるが、その概要を紹介しておくことにしたい。

(1)環境騒音とストレスに関する研究について

 強大な騒音が心理的あるいは精神的なストレスとなることは言うまでもないが、身体なレベルでの影響も無視し得ない。例えば、増大している交通騒音によって睡眠が妨害され、翌日の作業などに影響し、日常生活に伴うストレス総体に影響している可能性もあるからである。また、昼間の強大な騒音暴露による自律神経の緊張状態が、睡眠に影響しうる可能性も示唆されている。

 一方、我々の研究では音刺激に対する自律神経系の反応に個人差(例えば、末梢血管の収縮反応が優位なタイプと、心臓の拍出量増大反応が優位なタイプ)が認められるが、その差は、恒常的な自律神経緊張状態、すなわち慢性ストレス状態に由来することが示唆されている。この結果は、騒音が睡眠という行動生理学的現象に影響するとしても、それ自体に個人差が大きいと同時に、日常的なストレス状態によって影響が異なってくることを意味する。

 したがって、この課題に関して、1つには夜間の交通騒音暴露状況を考慮した睡眠の疫学的調査が必須であるが、職場の作業者で、産業ストレスに通勤ストレスや夜間騒音による睡眠影響が複合した場合のストレス調査なども必要と考えられる。さらに、これらの調査の前提となるストレス評価法について、上記の音刺激に対する自律神経系の反応検査を含めさらに吟味しておく必要がある。本年度は、実験的に上記ストレス評価法を検討したほか、いくつかの職域健診への応用を試み、来年度以後の本調査の準備を整えつつある。

(2)大気汚染と花粉症に関する研究について

 花粉症では、I型アレルギー反応の特徴として特異的IgE抗体が作られ、それがアレルゲンと反応することによって眼や鼻に症状が発現してくると考えられている。我々は、スギ花粉症に着目した疫学調査を方法論を含め検討している。同疾患の特徴として、年間を通してその他の花粉症より早く発症すること、自覚症状が明確であること、有症率が高いこと、特異的抗IgE抗体が開発されており、血清中の抗体価が測定可能であり、また同IgE抗体により暴露されるアレルゲン量を捉えられることなど、疫学的調査に好条件が揃っている。

 スギ花粉症は、中高年に多発し、高齢者や若年者では少ないが、近年急増しており、また、都市部に多い傾向があると指摘されている。しかし、一般人口を対象とした疫学的調査は乏しく、とくに大気汚染との関連性については新たな研究領域と考えられる。調査は、大気汚染の程度とスギ花粉の飛散状況の程度によりいくつかの地域を選定し、各地域での有症率と発症率を調査することが基本と考えられる。本年度は、その基礎検討として、外来患者で臨床診断と問診票(厚生省)による症状調査との関連を調べたほか、集団検診対象者について血清IgE抗体の陽性者を検査した。都内(大気汚染悪、スギ花粉少)、日立市及びつくば市近郊農村(大気汚染少、スギ花粉多)3か所の男女について、スギ花粉抗体陽性者率、有症率、アレルゲン暴露量、ディーゼル粒子暴露量などのデータが得られ、総合的に解析中である。

(かぶと みちのり、地域環境研究グループ都市環境影響評価研究チーム総合研究官)