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地球環境モニタリングのCOEと地球環境保全の世論形成を目指す

地球環境研究センター

井上 元

 地球環境研究センターは発足10年を経た。ここに至ってようやくモニタリングデータの長期データが蓄積され,幾つかの重要な情報が読みとれるようになり,成層圏オゾン観測衛星センサーのデータ解析は繰り返し改良され,共に信頼性の高いデータとして利用されている。この中には貨物船を利用して海洋への二酸化炭素の吸収を面的に高頻度で測定するモニタリング,航空機を用いた二酸化炭素の高度分布のモニタリング(図)など,地球環境研究センターが世界に先駆けて実施し,その成果に瞠目したEUやUSAが後追いを始めたものがあることを例記しておきたい。データベースとして整備されたものの中ではリクエストが多く増刷を繰り返したものも数ある。スーパーコンピュータの導入に伴い気候変動モデル研究の拠点ができ,その成果はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)にも反映されていることも特記すべきことである。地球環境研究に関する国内外の研究集会や検討会の開催により,研究交流にも貢献してきた。これらはセンターの職員(スタッフを含む)の献身的な努力,所内を中心とする研究者の結集とその能力の発揮の結果として誇れるものである。

二酸化炭素の高度別濃度の季節・経年変動のグラフ
図 西シベリア中央部にあるスルグート上空で得られた二酸化炭素の高度別濃度の季節・経年変動

 そうしたことから地球環境のモニタリングとデータベースの整備,地球環境研究の総合化,支援は正しい方針であったと総括しており,今後も当センターの三本柱として堅持する方針である。日本の環境研究推進の立場でその方針を実施する姿勢も変わりない。直接多くの研究者を抱えるのではなく,地球温暖化や成層圏オゾンに関する重点特別研究プロジェクトなどを担う研究者と連携し,長期のモニタリングや系統的なデータベース整備,その利用促進,研究支援のツール整備を分担する方針にも変わりない。特に近年の研究費は,競争的資金として3年程度の期間に限られ継続が認められにくいシステムに移行しつつあり,地球環境研究に必要な長期の継続的観測や定期的メンテが必要なデータベースの継続は困難になっており,地球環境研究センターがこれらを担うことは重要である。知的基盤としてのモニタリング・データベースを研究と一体になって整備するCOE(中核研究機関)を目指したい。

 今後の新たな方向として,地球環境の研究成果を効果的に外部発信することに,格段の努力を払う方針である。地球環境研究の予算は,原子力や宇宙に比べ2桁も小さいとはいえ,決して小さくはない。この成果を地球環境保全の政策決定や世論形成に生かすことが,われわれに課せられた責務である。この努力は研究業績として評価されないのが現状であり,専門家集団を育てる必要がある。

 もう一つ要請されていることは,内部的な厳しさである。センターの活動の中で地球環境研究に有効に生かされているとは言えないもの,努力の割には読まれていない出版物,過去には意義があったが現在はそれほどでもないものなどは,思い切って整理することが必要である。そこには大きなコンフリクトがあり決して楽な仕事ではないが,強い決意を持って実施し,その原資を新しいメディアによる広報や,戦略的に重要なモニタリング,データベースに振り向けることが,納税者に対する責務であると考えている。

 センターの客員研究官の方々や所内外の研究者からセンターに対して様々な助言や注文を頂き,その期待の大きさとわれわれの非力のギャップに悩むこのごろであるが,焦らず着実に実績を積み上げていくことが,その期待に応える道であろう。所内外の研究者・支援技術者のご協力をお願いする。

(いのうえ げん,地球環境研究センター長)

執筆者プロフィール

昔の「子供の科学」愛読者は現在も不評を買いながらも工作室や実験室で装置を作るのが生き甲斐。遊んでいると言われてきた「カイトプレーン(模型飛行機)」も実用化の一歩手前で面目をほどこしつつある。

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