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東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理に関する研究

重点特別研究プロジェクト:東アジア流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクト

渡辺 正孝

 21世紀の地球規模環境問題における最重要課題として東アジア地域における気候変動に伴う水循環変動と水資源枯渇・水質汚染が挙げられている。このような問題が顕著に現れているのが中国であり,黄河断流,長江大洪水,砂漠化進行等環境資源の劣化が経済活動に大きな影響をもたらしている。

 日本及び東アジアにおける均衡ある発展をささえるための環境の基本ユニットである流域圏が持つ生態系機能を科学的に観測・把握し,そのモデル化を行うことにより生態系機能の劣化・修復の予測手法を開発するとともに,環境負荷の削減,開発計画の見直し,環境修復技術の適用等持続可能な環境管理計画を提言するために以下を目標として重点研究プロジェクトを行う。

 1 東アジアにおける生態系機能を科学的に解明し,環境の時系列変化を継続的に追跡・把握するために国立環境研究所と中国科学院が共同でEOS-TERRA衛星に搭載された高機能地球観測センサーMODISのデータ受信局を北京とウルムチに設置し,東アジアの環境観測ネットワークを構築する(図)平成13年12月の完成を目指す。

観測ネットワークの図
図 MODIS観測ネットワーク.

 衛星データ及び地上観測により,流域圏における水・物質循環にとって重要なパラメーターである植生分布,地表面温度,積雪量,降雨分布,土壌水分量等の計測手法を開発する。特に水・熱エネルギー収支の精度向上の鍵となる湿潤地域の森林,畑及び草地を対象としたモデル検証を行うとともに水動態フラックス及び陸域の生物生産量及び農業生産量の推定手法を開発する。

 東アジアにおける環境の変化が生物多様性と炭素収支に及ぼす影響を見積もることを目的として,土地利用・土地被覆変化の抽出方法,純一次生産量の推定方法,および温暖化影響の検出方法を開発する。

 2 中国における人為的な水循環変動が水資源保全能力,農業生産能力等の生態系機能に与える影響を予測するために陸域環境管理モデルの確立を行う。

 水循環の素過程領域である地表面被覆層-不飽和層-飽和層-地下水層を鉛直軸,流域斜面を平面とする3次元空間における水・熱エネルギーの循環系の分布型モデルの開発を進める。さらに,流域面を格子状に細分化したグリッドモデルの特性を活かし,地表面の地理・土質特性の詳細情報を考慮した水・土砂の動態モデルの開発を行い,降雨・土砂流出量及び洪水氾濫分布,土壌乾燥化・塩類集積の予測手法を開発する。陸域からの点源・非点源汚濁負荷発生量の推定手法を開発するとともに河川,ダム,湖沼生態系を対象とした物質循環予測手法を構築する。

 3 陸域から海域に負荷される汚染・汚濁物質の運命に関して,浮遊性生物を中心とする海洋生態系が果たす機能について明らかにすることを目的とする。現場海域における野外調査及び室内実験系において化学物質の生態系による取り込みを制御するパラメータの把握を行うとともに沿岸海域生態系の変動予測手法と海域環境管理モデルを開発する。

 沿岸域生態系の中で重要である水界生態系と底生生態系との相互関係や,底生生態系を中心とした物質循環,さらに,代表的な生物種の生活史や個体群動態に着目し,それらを用いて現在行われつつある環境修復技術の生態系に与える影響と修復効果を評価するための科学的な基礎を提供する。そのため,国内の代表的な閉鎖性海域から自然海岸と環境修復された海岸を選定して水質・底生生物等につき野外調査を行い,修復の影響や効果を解析する。

 4 陸域環境及び海域環境モデルを統合した流域圏環境管理モデルを用いてダム建設,長江・黄河流域間水輸送等の電力・水資源開発や,植林,節水型農業,工場・生活排水処理等の環境保全対策オプションが流域圏の生態系機能に与える影響評価を行い,流域圏の持続発展のための環境管理計画を提示する。

(わたなべ まさたか,流域圏環境管理研究プロジェクトリーダー)

執筆者プロフィール

1978(昭和53年)入所,1980(昭和55年)海洋環境研究室長,1991(平成3年)水土壌圏環境部長。

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