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観測とモデルから成層圏オゾン層変動を解明する

重点特別研究プロジェクト:成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明プロジェクト

笹野 泰弘

 21世紀初頭は,フロン等の生産使用に関するオゾン層保護対策の効果が現れ,成層圏ではオゾン層破壊物質濃度がピークに達し,その後は緩やかな減少傾向に転ずる時期と考えられている。したがって,オゾン層の破壊についても,これまで観測されてきたようなオゾン破壊の年々の進行は止まり,回復に向かうものと予想されてきた。しかしながら,いまだ年々のオゾン層破壊に回復の兆しは見えず,またオゾン破壊量の正確な将来予測は困難な状況にある。

 極域(高緯度域)の成層圏はとりわけ,種々の要因の影響を最も顕著に受ける領域と考えられることから,高緯度域を対象にした人工衛星搭載センサー(衛星観測),地上設置遠隔計測機器等によるオゾン層の観測を継続的かつ総合的に行い,オゾン層変動の監視とオゾン層変動機構の解明に資するデータを国内外に提供していくことは,そのような意味でも重要であろう。さらに,これらの観測データの解析に基づき,大気大循環モデル等の数値シミュレーションモデルをも活用して,オゾン層変動機構に係る科学的知見の蓄積を図り,将来のオゾン層変動の予測や,その検証に貢献することが喫緊の課題であると考えている。

 このような背景のもとに,本プロジェクトでは次の3つの課題により,人工衛星を利用したオゾン層観測,地上設置遠隔計測機器によるオゾン層モニタリング,さらにこれらの観測データを利用した調査研究を行うこととしている。

 (1)環境省が進める衛星観測(平成13年度打ち上げ予定の改良型大気周縁赤外分光計II型:ILAS-II,及び平成17年頃の打ち上げ予定の傾斜軌道衛星搭載太陽法フーリエ変換赤外分光計:SOFIS)事業の地上部分として,データ処理運用システムの開発・改訂(ILAS-II及びSOFIS),並びに運用(ILAS-IIセンサー運用,データ処理,検証解析,利用実証,提供)を行う。ILAS-II運用開始後1年以内を目途に国内外の登録研究者に対してデータ提供を開始するとともに,検証解析,利用実証研究を開始する。また,SOFISデータ処理運用システムの開発を進め,衛星打ち上げに備える。

 (2)オゾン層に係る地上設置遠隔計測機器(つくばにおけるミリ波オゾン分光計等,陸別成層圏総合観測室におけるミリ波オゾン分光計)による観測を継続して行う。さらに,校正・検証,データ再解析,データ質評価のほか科学的な解析を行い,データの有効性を実証した上で順次,データセットとして国内外に提供する。

 (3)これらの観測データ,あるいはその他の種々の観測データを活用した解析的研究,数値モデルを活用したシミュレーション研究を進め,極域オゾン層変動に係る物理・化学的な主要な要素プロセスについて,変動機構及びオゾン変動に対する寄与の解明を行う。シミュレーション研究では,成層圏化学プロセスを含む化学-放射結合3次元モデルを開発し,特に温室効果ガス等の増加に対する成層圏オゾン層の応答に関する化学及び輸送過程の寄与の解明を行う。また,オゾン層保護対策の根拠となったオゾン層変動予測,最新のオゾン層変動予測の検証を行う。

 なお,衛星及び地上設置遠隔計測機器によるオゾン層観測については,地球環境研究センターの地球環境モニタリング・データベース事業との連携のもとに実施する。また調査研究の推進に当たり,環境省が米国航空宇宙局(NASA),仏国立宇宙センター(CNES),宇宙開発事業団(NASDA)との共同研究公募で採択した国内外の研究者の参加を得るとともに,成層圏変化の早期検出のためのネットワーク(NDSC)参加機関・研究者との連携,国内外の研究機関や大学の研究者との共同研究を進めることとしている。

 この研究プロジェクトを進めることで,成層圏オゾン層変動に係る知見の充実を図るだけでなく,国内外に向けて我が国独自の観測データを発信することにより,世界の科学研究コミュニティに対する貢献をも果たして行きたい。

(ささの やすひろ,成層圏オゾン層変動研究プロジェクトリーダー)

執筆者プロフィール

風景写真の撮影を趣味にしたいと思い,地域の趣味サークルに入ったものの,なかなか思うように撮影に出かけられないので,腕も上がらない。実は,素質・感性の問題か。

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