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光合成色素構成比による水界中の植物プランクトン綱別存在量の測定

研究ノート

木幡 邦男

 赤潮やアオコは,海や湖で富栄養化により特定の植物プランクトンが異常に増殖したために起こる。このような現象の解明を含め,水界生態系を研究する上で,一次生産者である植物プランクトンの存在量や構成種の変遷を知るのは重要である。

 従来,植物プランクトン種の存在量を知るためには,検鏡による同定・計数を行ってきたが,これは分類を専門とする研究者に頼るしかなく,また多大の労力と時間を必要とした。一方,クロロフィル(Chl a)量から現存量を測定する方法が通常とられてきた。しかし,これでは各植物プランクトンの種構成や変遷については何の情報も得られない。

 植物プランクトンは,大きく分類すると,日本で赤潮の原因となるラフィド藻(Chattonella,Heterosigma等),世界的に貝毒などで問題になる渦鞭毛藻,他に,緑藻,プラシノ藻,藍藻,普遍的に存在する珪藻等の綱のレベルで分けられる。生態学的には,種レベルでなくとも,綱のレベルでその存在量の変化が測定されれば有用なことが多い。

 綱別にみれば,例えば渦鞭毛藻のペリジニン,ラフィド藻のフコキサンチン,ビオラキサンチン等,各綱に特有のカロテノイドがある(図)。また,前記の藻類はChl aの他にChl cを持つが,緑藻やプラシノ藻はこれらと異なりChl bを持つ。近年の研究で,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の進歩により試料海水を分析し,十数種の光合成色素(クロロフィル・カロテノイド)量を定量的に測定できるようになった。さらに,得られた数種の色素量を多変量解析の手法で処理することで,試水中の植物プランクトン存在量を綱別に計算できる。このような光合成色素を用いる分類は,種による例外もあり,厳密には分類学上の物と一致しない場合もあるが,生態学的に有用といえよう。

 ここで紹介した方法は,機器分析であるため,分類学の専門的知識を必要とせずに,植物プランクトンについて有用な情報が得られる利点がある。この方法の普遍妥当性を検証するため,現在,国内数カ所の海域で異なる季節に得られた試料につき検討している。

(こはた くにお,地域環境研究グループ海域保全研究チーム)

図  様々な藻類の440nmにおけるクロマトグラム