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2021年12月28日

急増する草原への攪乱 
過放牧・都市化・鉱山開発

コラム2

 草原への人為的攪乱といえば、過放牧、農地化、都市化、鉱山開発および自動車による破壊などが挙げられます(写真3)。モンゴルでは、古来の伝統的遊牧を通じて放牧圧が空間的・時間的に分散され、広い地域の草原が適度に利用されていたことから、草原の生物多様性と高い生産性が維持されてきました。1920年代からの社会主義時代には遊牧民の定住化政策も進められましたが、一定地域内の放牧地の移動は認められており、さらに定住化政策自体があまり機能しなかったこともあって、草原への過度な圧力が生じることはありませんでした。

2005年と2017年に撮影したウランバートル(Улаанбаатар)の都市化の様子、2016年に撮影したアーガラント(Аргалант)と ナライハ(Налайх) で農地や道路によって草原が破壊された様子、2016年に撮影したモンゴル最大の炭田タバントルゴイ(Таван толгой)および周辺の草原・砂漠の様子の写真

写真3 左2枚は、2005年(上)と2017年(下)に撮影したウランバートル(Улаанбаатар)の都市化の様子です。中2枚は、2016年に撮影したアーガラント"(Аргалант)と ナライハ(Налайх) で農地や道路によって草原が破壊された様子です。右2枚は、2016年に撮影したモンゴル最大の炭田タバントルゴイ(Таван толгой)および周辺の草原・砂漠の様子です。

 しかし、1992年以降、市場経済への移行や家畜の私有化政策に伴い、家畜頭数の急増と家畜種構成の変化が起こりました。例えば、カシミヤ市場の拡大に伴い、ヤギの家畜頭数が急増した結果、ヤギが草を根こそぎ食べてしまうため、草原への圧力を増大させることにつながりました。また、遊牧民は、商品の流通・販売に適した都市周辺や幹線道路沿道の他、井戸や湖周辺などの水資源域に集中するようになっています。こうした場所では、放牧圧が高まり、裸地化や生物多様性の低下などの問題が起こっています。

 また、都市・農地・鉱山開発も急拡大しました。モンゴル国家統計局によると、1993年に約60万人だった首都ウランバートル市の人口(全国人口の約28%)は、2019年には約154万人に急増し、これは全国人口(約330万人)のおよそ半数近くが首都に集中したことを意味します。さらに、産業構造も大きく変わり、中でも最も急成長した産業は鉱業でした。鉱業生産額は、2005年に初めて農林畜産業を超え、第1の産業となり、その後も急上昇を続けており、2017年には農林畜産業の生産額の2倍超となっています。

 これらの人為的な攪乱は、これまでにない規模で草原に大きな影響を及ぼしています。裸地化した草原は、土壌のアルカリ化と砂漠化を招き、強風は表土を吹き飛ばしてしまうため、一度失われた植生の回復は困難になってしまいます。

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