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村上 正孝

 新たに設けられた環境健康部は,旧体制のいわば基礎医学的分野を担当していた環境生理部と,衛生学・公衆衛生学的分野を担当していた環境保健部を母体としたものである。部の構成は,生体機能研究室,病態機構研究室,保健指標研究室,環境疫学研究室の4研究室から成る。

 生体機能研究室は環境汚染が生体の恒常性維持機構に及ぼす影響を主として生理・生化学的に解明し,一般的法則を見いだそうとする研究を行う。病態機構研究室は,環境汚染によって生ずる生体の傷害・疾病等の異常な状態すなわち病態の機構を中毒学,病理・免疫学的手法を用いて解明する。保健指標研究室は,環境汚染による個人あるいは人口集団に対する健康影響事象を解明するために,その影響を表現する指標の開発や検診・診断手法の開発を行う。環境疫学研究室は現実の環境汚染と地域住民等人口集団の健康状態との関係を明らかにするための疫学的検討と解析手法の開発を行う。

 これまで,人への健康被害が見いだされてはじめて,環境の汚染が指摘されることが多くあった。しかし,現在の環境汚染暴露の形態は典型的な公害病をもたらした化学物質の高濃度単一物質の急性暴露は,非特異的な疾病あるいは病気と認識されない非健康な状態をもたらす低濃度複合物質の慢性暴露へと姿を変えてきている。このような変化に対応して,生体の恒常性維持機構に対する影響を察知する予防医学的観点からの基礎医学的研究と,これまで未知であった健康被害の発生を早期に発見,予防していくためのサーベイランスシステムの構築などの社会医学的研究を強化していく必要がある。

 各研究室は各々,専門分野別に創造性の高い基礎的研究に従事するとともに,社会ニーズに対応したプロジェクト研究を行う総合研究部門の調査,研究に対して学術的支援を行う。さらに基礎的研究により見いだした先見的なシーズの創出を行い,社会的ニーズに対応するプロジェクトの企画をも行う。

 環境保健研究において,これまでその成果は,行政と司法に用いられ,環境政策決定の鍵となってきた。現在の環境保健問題は次の3つのカテゴリーに分けられる。第一は苦情として発生源の対象を特定できるもの。第二は沿道住民に呼吸器系の愁訴率が高いとか,都市の喘息,肺癌,鼻アレルギーの有病率が高いなど環境要因の関与が強く疑われるような問題。第三は化学物質の環境放出・拡散などのように将来,どの程度問題となるか分からぬものからなる。

 一方,環境保健研究を遂行するにあたり,5つの基本的理解が必要となる。まず第一は,昨今の公害苦情に示されるように疾病に至らぬ心理,感覚的なケースが環境保健問題の大部分を占めているということである。第二は,健康意識の向上に伴い市民には快適な生活環境への要求が強いことがあげられる。第三は,顕在化していない公害問題も住民サイドからの情報に,その手がかりがあることである。第四は,公害現象は多様な要因と多様な属性の人口集団の反応から構成されていることである。従って,その成果を対策に役立たせるには,環境も人口集団も類型化し,その関係を可能な限り整理し明らかにすべきである。最後に,その研究対象は漠然として把え難いようにみえるが,「問題に対して,どう対応すべきか」具体的に答えが求められており,これが,そもそも研究の出発点であり,ゴールであることの確認である。

 以上,環境汚染問題にかかわる質を認識し,その解決のために必要な知見を得るために研究・調査し、また方法論の開発に全研究者の英知とエネルギーを結集するものである。

(むらかみ まさたか,環境健康部長)