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フロンによる成層圏オゾン破壊—光化学チャンバーによる模擬実験の結果—

研究ノート

坂東 博

 近年、社会的に大きな関心を集めている地球規模大気環境問題に対処するべく、光化学スモッグチャンバーの一部改修が行われ、ソーラー・シミュレーター(人工太陽光源)は成層圏の太陽光分布に対応するように変更された。その結果、光化学チャンバーで成層圏光化学反応のモデル実験を行うことが可能となった。

 チャンバー内の清浄空気に成層圏ソーラーからの光を照射するとオゾンが生成し、空気の圧力に応じ一定のオゾン濃度を示すようになる。これは、大気成分として窒素と酸素だけを考えたオゾン層生成の基礎理論(チャップマン理論)で説明される成層圏オゾンを、チャンバー内に実現したことに相当する。その状態の空気にフロン・ハロンを添加し、それにより引き起こされるオゾンの濃度変化を調べた。図に実験結果の一例を示す。高度20kmの成層圏大気に相当する0.07気圧下で、4.4ppmの光定常濃度となっていたオゾンが、フロン-11(CCl3F)の添加(図中、矢印)により急激に減少していくのがわかる。ここで添加したフロン-11の濃度は成層圏における現在の値に比べ約2万倍高いため、オゾンの減少はこのように急激となる。時間短縮のため実際よりも高いフロン濃度を用いたが、成層圏実大気に近い条件下で、フロンによるオゾン破壊が実際に確かめられたのはこれが初めてである。同様の実験をフロン-12(CCl2F2)、ハロン-1301(CBrF3)、-2402(C2Br2F4)についても行った結果、フロン-11のオゾン破壊能を1としたときの相対的な破壊能(重量当たり)は、各々1.1、1.6、1.5と見積もることができた。これらのデータは、フロン・ハロン類の放出により引き起こされるオゾン層変動を評価するための基礎データとなる。

 成層圏光化学チャンバーによる模擬実験は、今後、フロン代替品のオゾン破壊能の事前評価手法として、またオゾン層変動の将来予測に用いられる化学反応モデルの検証手段としての応用が考えられる。

(ばんどうひろし、大気環境部大気化学研究室)

図:オゾン濃度(ppm)-時間(分)