ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2011年12月28日

今年は‘暑い’夏でした

【巻頭言】

木幡 邦男

 本稿が皆様のお手元に届くのは、寒さが肌にしみるころでしょうか。光陰矢のごとしといわれ、月日のたつのは速いものですが、ここでちょっと振り返ってみてください。今年の夏は特に‘暑さ’を感じたのではないでしょうか。

 本年3月11日に突然に襲ってきた東日本における震災、津波により多くの尊い命が奪われ、多くの方々が被災されたのは、記憶に新しいところです。心よりお悔やみ申し上げると共に、少しでも早い復旧・復興を願うばかりです。

 この地震と津波により原子力発電所を含む多くの発電所が被害をうけたため、電力不足が懸念されました。東京電力管内では、震災直後から3月末にかけて、電力不足から計画停電が実施され、産業や市民生活を大混乱に陥れました。さらに電力不足は日本の各地で深刻さの度合いを増し、特に夏のピーク時の不足が懸念されました。そこで政府は、電力需給緊急対策本部において5月13日に基本方針を決定し、東京電力管内ではピーク期間・時間帯(7月1日~9月22日の平日の9時から20時)において、昨年の同期間・時間帯における使用最大電力の値の15%削減値を使用電力の最大値とすることを、契約電力500kW以上の大口需要家に求めました。

 契約電力が5,600kWである国立環境研究所(以下、「国環研」)にとって、15%削減は電気事業法上の遵守義務でした。国環研では、この削減義務を確実に履行するため、また、「節電対策と地球温暖化防止対策の両立を前提としつつ、自ら率先して対策を実施する」とされた環境省節電実行計画に沿うためにも、より高い削減目標を検討しました。一方、国環研は、これまで既に地球温暖化防止及び省エネルギーの観点から積極的な節電対策に取り組んできており、そのため、研究活動に大きな支障を生じることなく削減できる電力が多くは見込めないことを勘案して、6月16日に作成した国環研節電実行計画では、「20%削減」、即ち契約電力5,600kWに対し20%減の4,480kWを目標として設定しました。

 この目標を達成するために、国環研では、理事長を本部長とし、理事、各研究センター長と総務・企画・情報の各部長を本部員とする国環研節電対策本部を設け、全所をあげて節電に取り組みました。節電対策本部は、上記の節電実行計画及びより具体的な内容を記載した国環研節電アクションプランを定め、また所員との連携を密にするためにセンター・部毎に節電リーダーを選定しました。具体的な節電の取り組みとして、スーパーコンピューターや大型実験施設の夏期一部休止及び利用の制限、大容量の蓄電ができるNAS電池を利用して夜間電力を貯めて昼間時のピーク時に用いるなどの大規模なトップダウン的に設定された対策だけでなく、研究計画の工夫・調整により研究上の支障が少ないとして各研究員から挙がった恒温実験室、サーバー類等の利用制限、さらに全所的に空調温度の設定変更、照明の50%削減や冷凍・冷蔵庫の25%削減などを実施しました。

 この夏の節電対策については、全所員が理解を示し、自ら創意工夫して臨むなど積極的に対応しました。この結果、目標期間中の電力使用量を、最大でも3,760kW(8月18日)に抑えることができ、目標とする4,480kWを大きく下回りました。この成果は、所員の努力だけでなく、本年の夏に異常に高い気温がなかったこと、国環研の施設も一部被災しており、停止中の機器があったことなどもその理由と考えられます。一方、研究にどの程度の支障があったのかは、今後、検証していく必要があるでしょう。

 研究所内は、いたるところが暗く暑い夏を過ごしましたが、これも慣れてしまえばそれほど苦痛ではなかったように思います。むしろ、いままで電気に頼りすぎ、あるいは高度な文化的水準を維持するためとして、幾ばくかの無駄があったのかもしれません。今回の震災では、犠牲が大きかっただけに、これから多くのことを学び、後世に役立たせなければなりません。節電や省エネルギーを皆で本気になって考えたことも、つらい思い出とするだけでなく、所員一丸となって目標達成したことを誇りに思い、今後の活力の一つへとつなげたいものです。

(こはた くにお、前 国立環境研究所審議役、
現 埼玉県環境科学国際センター研究所長)

執筆者プロフィール:

木幡 邦男

平成23年4月に組織改革に伴い審議役に就任しました。初代の審議役として、その仕事をデザインする立場であったと思いますが、震災からの復興と夏の節電対策に追われ、本来業務が十分に出来なかったのが心残りです。

関連新着情報

関連記事