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2011年4月28日

大震災と国立環境研究所の新しい組織体制

【巻頭言】

理事長 大垣 眞一郎

 この2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震は、激しい震動ならびに大津波により、多くの命を奪い、また甚大な被害を日本列島に及ぼしました。亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表します。また、厳しい生活を強いられている多くの被災者の方々にお見舞い申し上げます。被災地の救援、支援、復旧に携わっている方々、被災した原子力発電所への対応とその復旧に努力されている方々に心より敬意を表します。国立環境研究所自体も実験設備などが被災しました。4月1日時点でも通常の研究活動がすべての研究室で回復したわけではありません。そのような中で、研究所職員は被災地域の復興のため、専門知識を生かすべく貢献を続けています。なお、国立環境研究所のホームページに東日本大震災に関する環境の情報をとりまとめて示しています。

 ちょうど一年前の「国立環境研究所ニュース」2010年4月号に、「元禄の津波と平成の津波、そして環境の研究」と題する巻頭言を書きました。2004年12月のインド洋での地震は大きな津波被害を沿岸国にもたらしました。2010年2月27日にはチリ中部での地震により、日本沿岸に大津波警報が出され地球規模の伝播予測にテレビに釘付けになりました。300年ほど前になる江戸時代の1700年1月には「みなしご元禄津波」と呼ばれた地震を伴わない大津波が東北から関東の太平洋沿岸を襲いました。その原因がシアトル沖での大地震であったことは2005年になって解明されました。このような内容のその巻頭言の中で、私は科学と技術の力とその進歩、ならびに、地震対応への日本社会の意識の高さを賞賛しました。しかし誠に残念なことに今回の東日本大震災が生じました。私の発想に自然の力への謙虚な気持ちが欠けていることを糾弾されたような思いです。

 東日本大震災の現実を前に、国立環境研究所の活動はどうあるべきでしょうか。2年間の準備を経てこの4月より、国立環境研究所は組織を変更しました。環境省により定められた平成23年度からの中期目標に基づき、5ヶ年の新しい第3期中期計画が始まりました。新しい組織体制の下でこの中期計画を遂行します。組織を変更した理由を一言で述べれば次の通りです。新中期目標を達成するためには、幅広い環境の課題への展開を図らなければなりません。そのため、研究分野の重点化を中心にしたこの3月までの組織体制を発展、改組しました。統合的な環境研究を担う国際的中核機関として飛躍するためにも、より柔軟な組織形態にする必要があるためです。

 具体的な新しい組織体制は、未来の環境についての長期的研究を担う8つのセンター(地球環境研究、資源循環・廃棄物研究、環境リスク研究、地域環境研究、生物・生態系環境研究、環境健康研究、社会環境システム研究、環境計測研究の各センター)を基本構造としています。一方、社会的にあるいは科学技術的に取り組みが急がれる研究課題に関しては、10の研究プログラムを立ち上げました。この研究プログラム群は、各センターの研究分野を超えて連携させながら推進します。このような新体制により、より長期の俯瞰的視点を持ちつつ、機動性のある柔軟な組織運営が可能になります。

 研究所の組織には、元々柔軟な発想を育む仕組みが必要です。新しい組織案を所内で議論している時(東日本大震災が起こる前ですが)、柔軟性が必要な理由として、次のような点を掲げていました。(1)分野横断的な新しい課題へ迅速な対応ができること、(2)新しい科学的な発見、発明に伴う新研究分野への挑戦が行えること、(3)社会的あるいは自然的な不測の事態(災害、事故など不連続変化の事態)に伴い発生した緊急の課題へ対応ができること、(4)所内の新しい優れた研究企画提案に対応できること、の4点です。

 今回の未曾有の大震災を目の当たりにして、まさに、この(3)の柔軟性が求められている、と研究所全体が緊張しています。自然への謙虚な気持ちを忘れずに、日本を復興し新しい社会を構築するために、環境の研究を力強く展開しなければなりません。皆様のご指導とご支援をお願いする次第です。

 

(おおがき しんいちろう)

執筆者プロフィール

理事長 大垣 眞一郎

 冬にすべての葉を落としていた木々の梢に若葉が戻ってきました。被災地の方々の街や社会が再生し復興することを願ってやみません。

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