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2011年6月30日

環境の計測を通して環境問題の理解と解決を目指して

【環境計測研究センターの紹介】

今村 隆史

 私たち環境計測研究センター(以下、計測センター)は、第2期中計画における化学環境研究領域に環境研究基盤技術ラボラトリー、大気圏環境研究領域ならびに地球環境研究センターに所属していた研究者が加わって、文字通り「環境の計測」に主眼を置いた研究を進めてまいります(図参照)。「環境の計測」は環境研究の基本的な研究手段であり、また研究の出発点でもあります。顕在化した環境問題の解決、環境問題の拡大の防止、更には新たな問題の発生の未然防止のためには、環境問題発生メカニズムの理解とそれに基づく将来予測、有効な対策の立案と対策効果の検証が必要であり、そのためには、環境の状態や変化とその影響を把握、追跡、評価することが不可欠だからです。

研究体制の図(クリックで拡大画像がポップアップします)
図 環境計測研究センターの研究体制

 計測センターで扱う「環境計測」の中には、環境の状態やその変化を把握したり追跡したりすることだけでなく、環境負荷やストレスに対する生体および生態系の応答の計測も含まれています。また環境負荷やストレスに対する応答を調べる上で必要となる、環境負荷などの質・量・強度の評価や、それらを制御するための計測についても視野に入れていきたいと考えています。当然のことですが、計測データの精度や確度の決定、精度や確度の維持、精度や確度の変化の把握、他の手法や他の機関による同種のデータとの相互比較によるデータの質の評価、ならびに、これらを可能にするための取り組み(計測データの質の保証や管理)も大切です。この取り組みは自分達の計測データの質の管理に留まらず、国内外の関係機関で計測されるデータの質を相互評価するための基盤的な活動においても必要です。更には、取得した計測データから、様々な情報をいかに抽出するか、どれだけ多くの情報を引き出せるか、と言ったことも、計測に関わる研究の重要な一分野だと考えています。

 計測センターでは、多岐にわたる環境計測研究の中でも特に集中して取り組む課題として、様々な環境研究をリードし支えるための先導的、基盤的な環境計測手法の開発に関わる研究プログラム「先端計測研究プログラム」を立ち上げ、その推進に努めます。その中では、1)国際条約の下で監視強化が求められている残留性有機汚染物質(POPs)をはじめとする環境中、生体中に存在する膨大な数の化学物質の監視、解析のための、多次元分離技術による網羅的分析手法の開発と体系化、2)特定の生物起源物質や人工物質、更には同位体比などを利用して環境動態解析を進めるための、環境トレーサーを用いた環境動態解析法の開発、3)気候変動や植生変化など全球的環境監視強化にむけた次世代環境観測衛星センサーに必要な計測手法並びにデータ解析手法の開発、の3つを主要な研究課題として取り上げ、様々な環境研究を支える先端的な環境計測手法の研究開発を進めます。

 また、上記の研究プログラムで行う研究以外にも、a.化学物質モニタリングの精度管理に資するために、要望の多い環境標準物質の再調製も含め、国際基準に合致した環境標準物質や共同分析用標準物質の作製と頒布、b.計測手法の自動化、計測の時間・空間分解能の向上、ならびに高感度化のための技術開発、c.環境試料の長期保存ならびに保存試料の活用のための手法開発、d.化学分析手法を用いた研究とも連携をとりつつ、MRI(磁気共鳴画像)計測手法や動物行動試験を柱とした、環境ストレスに鋭敏に応答する脳神経系への影響評価手法の開発、e.リモートセンシング(遠隔計測)技術の改良や適用範囲の拡大に関する研究を推進していきます。

 この他、他の研究センターと連携して、これまで実施してきたハロカーボン類などの人為起源物質モニタリング、黄砂監視ライダーネットワーク、摩周湖の環境モニタリングに継続して取り組んでいきます。また開発・改良を行ってきた計測手法の応用のケーススタディーとして、放射性炭素同位体を活用した炭素循環に対する土壌の役割解明や環境濃度の短時間変動を利用した環境汚染物質の発生源推定なども進めていきます。更には、大量の環境計測データを管理し、また効率的に様々な情報を抽出するための手法開発に関わる研究も進めます。

 環境の計測に関わる研究は極めて多岐にわたり、計測センターで実施する研究だけでその全てをカバーすることは到底できるものではありません。所内の他の研究センターはもちろんのこと、国内外の研究機関との連携や分担を意識して研究を進め、環境計測を通して、環境問題の理解と解決に貢献していきたいと考えています。

(いまむら たかし、環境計測研究センター長)

執筆者プロフィール:

筆者の今村隆史の顔写真

入所後20年まであと半年余りの時の大地震と原発事故。注意深く観察し、正確に記録し、正直に評価する。自分は愚直に真摯に向き合ってきたのか。多くの事を学ばせて頂く前に、せめて顔を洗わなくては。

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