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廃棄物の循環資源化技術,適正処理・処分技術およびシステムに関する研究

シリーズ政策対応型調査・研究:「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究」から

井上 雄三

 循環型社会形成推進・廃棄物研究センターが担う政策対応型調査・研究プロジェクトは,先の国立環境研究所ニュースVol.20 No.1で紹介された4つの柱-循環支援評価手法,循環処理処分技術,総合リスク制御手法,液状廃棄物処理技術-から構成されています。今回はその第二の柱,循環処理処分技術の研究概要について紹介します。

 21世紀の廃棄物管理は,資源保全を含む総合的な資源循環とリスク管理の2つの命題を両立する必要があります。分別(選別),収集・輸送,焼却,資源化,埋立処分から構成される循環・廃棄物管理システムにおけるモノの流れの制御を縦糸として,化学物質等のリスク管理のための横糸を隙間なく編み上げることが重要になります。本プロジェクトでは,このシステム構築の中で重要な役割を担っているプロセス工学のうち,焼却,資源化と埋立処分に関連する分野の技術開発やシステム評価に関する研究を進めています。主に適正処理技術研究開発室と最終処分技術研究開発室がこれらの研究分野を担当しており,次の4つの研究課題から構成されています(図)。

 第1は,環境負荷物質の低減技術およびそれらのシステム化を図る研究です。特に,大量に発生する都市ごみをはじめ廃家電製品,建設廃棄物など多種多様な廃棄物について,大きな環境負荷を与えることなく適正に処理を行うための要素技術開発やシステム開発が重要な研究対象です。熱的処理を主とした中間処理過程から発生する有害物質を対象とした吸着法や触媒分解法などの高度処理技術の開発および改良を行っています。従来の塩素化ダイオキシン類に加えて臭素化ダイオキシン類など新たに制御対象とすべき有害物質が顕在化しており,目標とされる制御レベルも高度化してきており,このような状況の変化に対応した取り組みが必要となっています。個別の有害物質の適切な測定・モニタリング方法だけでなく,それを補完する総括指標(トータル有機ハロゲン濃度など)を用いた簡易モニタリング技法の開発研究も手がけています。その他,廃棄物処理関連工程における化学物質挙動を物性推算モデルを適用して理解し,そこから最適な適正処理条件の検索を行う研究も行っています。

 第2は,資源化技術およびシステム設計に関する研究です。循環利用の促進が急務とされている有機汚泥,生ごみ,畜産および食品廃棄物などの有機性廃棄物(バイオマス)を資源化する技術として,バイオガス化(メタン,水素),乳酸化,炭化,および飼料化などの炭素回収技術,ならびにアンモニアやリン回収技術と精製技術の開発,さらに,それらを用いた資源化システムの地域への適用を試みます。適用に当たって地域における有機性廃棄物の排出構造やリサイクル製品の需要構造を明らかにし,地理情報および季節変動を組み込んだ有機性廃棄物の資源化データベースの構築を検討しています。また,資源化製品の利用促進に不可欠な品質・安全性確保を目的とした安全性評価手法の開発も行っています。さらに,プラスチック等廃棄物や廃木材等木質系廃棄物等の熱分解水素ガス回収に関する技術システム開発に着手しつつあります。

 第3は,廃棄物の最終処分に関する研究です。最終処分場はいま大変な時期を迎えています。地域住民の不安感や不信感を払拭できないために新たな処分場の建設がほとんどできなくなっています。そのために処分場の残余容量が逼迫してきています。しかし,処分場は,循環型社会においても,私たちが安心して生活できる環境を維持してゆく上で,社会に必要不可欠な施設です。そこで,私たちは次のような研究をしています。

 一つは,最終処分場の容量を増加させるための技術開発や適地選定に関する研究です。埋立廃棄物を質的に改善したり,覆土の材質や施工技術を改良したり,遮水システムを見直したり,また締め固めや掘り起こし・再生等の施工技術を施す等,埋立地の容量を増やすような新しい最終処分技術を開発しています。また,地域における社会・経済・環境的要因に配慮した安全で経済的な候補地を合理的に選定するための支援システム作りを進めています。特に海面処分場と立地が非常に困難になってきた陸上処分場について環境負荷量およびコストに関する比較評価手法を事例的に適用し,政策決定の支援ツールとしての有効性を明らかにする研究を進めています。これらの手法開発は,県~地方ブロック(関西,関東等)レベルの広域集中型処分場か,あるいは市町村レベルの小規模分散型処分場かを選ぶ場合の戦略的環境影響評価手法(SEA)による選定手法開発に繋がります。

 もう一つは,最終処分場の安定化促進やリスク削減に関する研究で,既存の処分場の安全性や適正な維持管理や維持管理終了の判定基準を明らかにすることを目指しています。廃棄物最終処分場の管理の適正さ,安定化の状態や環境汚染の可能性を地温,内部貯留水,埋立地ガス,浸出水の性状,生物試験結果等に基づき,できるだけ非破壊で診断するとともに,できるだけ少数の測定で総合評価できる指標や,現場での緊急点検や長期監視に対応した計測技術を開発しています。これらのツールに基づいて診断された処分場の安定化状況やリスクポテンシャルに応じた安定化促進技術や不適正処分場の修復法の開発・評価も実施しています。さらに,処分場に起因する化学物質リスクに対して予防的対策をとるため,サブスタンスフロー解析法による搬入化学物質の予測やリスク評価への生物学的指標の導入を目指した研究を行っています。後者については,処分場周辺の住民がより安心できるような現場監視に適合した生物試験系を開発あるいは選定し,周辺環境に与えるリスクを早期に検出・警戒するシステムとしての構築も目指しています。

(いのうえ ゆうぞう,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター最終処分技術研究開発室長)

概念図
図 廃業物の資源化技術,適正処理・処分技術及びシステムに関する研究〈研究概念図〉

執筆者プロフィール

専門はといえば,環境工学あるいは廃棄物工学というか,曖昧模糊。敢えて言うならば不均一系の工学とでも言うべきか。常にピュアとして扱うことができないものを対象として悪戦苦闘。趣味はテニス,スキー,ジョギング,演劇鑑賞,ベランダガーデニング,・・・とあるが,ただいま休眠状態。