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図解:国立環境研究所のファイティングポーズ

理事 西岡 秀三

 目の前の,あるいは長期でタフな,科学による究明がいるものあれば,社会経済的対応も要求される,地球規模から身の回りまでに広がった環境問題。国立環境研究所は4月,全力をあげて環境問題をノックアウトするための体勢を整えた。

 左手は2つの「政策対応型研究センター」である。緊急の問題に素早く対応する。待ったなしの2つの問題,ダイオキシンを含む環境ホルモンなど拡散する化学物質の問題には化学物質環境リスク研究センター,溢れかえるゴミの処理と減量化には循環型社会形成・廃棄物研究センターが機動的に対応する。小出しのジャブや正確なストレート,相手の出鼻を挫き,早期に問題をおさえこむ対策を,素早くこまめに提案する。

 手ごわい相手には,右腕のパワーが必要である。左手の繰り出すジャブにあわせて,相手のボデーを執拗に責めたて,最後にはアッパーカットで仕留めねばならない。地球温暖化,成層圏オゾン,生物多様性,アジア流域の持続的発展,都市大気,環境ホルモンの6つのテーマについての重点特別研究プロジェクトが研究所の太い右腕となって,タフで,長期で,強力な相手をせめたてる役目をする。プロジェクトには,各領域からの専門家がよりあつまって,問題ごとに対応する。これは,いってみれば研究所の中心的存在である。

 五臓六腑を入れたボデイ を形成するのが6つの「領域」である。社会環境システム,大気,水土壌,生物,化学,健康がある。それぞれの専門領域で片づく種々の問題にそれぞれに取り組むとともに,分野を越えた共同研究をすすめ,他のセンターに人材,知恵を供給する。研究と並行して,次から次に出てくる新たな環境問題に立ち向かう,次世代の研究者を育てる役目も持っている。内臓機能がしっかりしなければ,連続して闘うスタミナはつかない。

 足腰が弱くては12ラウンドは闘えない。2つの「知的研究基盤」が足となる。環境研究基盤技術ラボラトリーは,環境試料や標準物質などを揃え,環境変動計測の基礎を保つ機能で環境研究の軸足となる。地球環境研究センターは,スーパーコンピュータや観測ステーションを提供し,世界の地球環境研究者の知的共用プラットフォームとなり,内外環境研究を機動的に推進するためのフットワークをつくる。

 大切な機能が顔に集中している。相手の動きを見極める目,セコンドの指示をきく耳,(試合中に叫ぶことは無いけれど)観衆に自分の動きを的確に伝える口。表情全体が研究所の「顔」である。内外との交流窓口にあたるこの機能は,「環境情報センター」が受け持つ。世界の情報を集め,データベースを整え,Webをはりめぐらし,ニュースを発行し,納税者の声を聞き,みなさまが環境問題に取り組むためのお手伝いをする。

 頭はさらに大事である。先見性をもって問題を見極め,各部門に適切な資源配分を行う。どんなパンチが相手からとびだしてくるか,相手の動きから素早く先取りして,体勢を整えていかねばならない。情報収集,資金の確保,所全体の統制を企画総務部門が受け持つ。

 このように体勢はととのえたものの,まだ全部の部位が強靱にきたえられているわけではない。30年の歴史のなかで腹部の筋肉のゆるみが目立ったり,中身が十分には詰まってない部位もある。みなさまが研究所に取り組んで欲しいと思っておられる課題を十分につかんでいるかも不安である。ラウンド毎に外部専門家トレーナーの時宜を得たアドバイスがいる。出し尽くした汗に見合う十分な水の補給も欲しい。そしてなににもまして,みなさまの声援がファイトをかき立てる。

 宣誓!独立行政法人国立環境研究所は,国民と世界の人々の豊かな環境をつくり守り育てるために全力を尽くして闘います。

(にしおか しゅうぞう,研究担当理事)

執筆者プロフィール

1939年東京生まれ,すなわち原体験としては絶滅寸前の焼け跡闇市派。機械工学の出身であるが,いまは環境システム分析専攻と称している。趣味は,このところいつまでたってもゆけない山歩き,テレビでみるだけになってしまったラグビー,のめりこみすぎる危険を秘めたこの仕事。2年前に20年つとめた当研究所を卒業し,この3月まで慶應義塾大学藤沢キャンパスで,次の世代をまぶしく見つめてましたが,縁あって舞い戻りました。よろしく。