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Difference is important !?

海外からのたより

花崎 秀史

 私は現在,科学技術庁の長期在外研究員としてケンブリッジ大学に滞在しています。ケンブリッジはロンドンの北北東,約80kmのところに位置する13世紀からの大学町です。かつては,大学と住民との対立の歴史もあったようですが,現在は,カレッジの古い建物が市の主要な観光資源となっています。日の出が8時過ぎ,日の入りが3時台,さらに,毎日が曇りか冷たい雨という暗い冬が過ぎ,3月末に夏時間を迎える頃には,なぜか毎日よく晴れて,町のあちこちにクロッカスや水仙の花が咲き,夜は8時頃まで明るく,人々の表情にも明るさが戻ってきたかのようです。この大学が自然科学の基礎分野でこれまで世界に対して果たしてきた数々の貢献を考えるとき,研究は主として冬に家にこもってやったのだろうか,それとも明るい夏にやったのだろうかなどと変なことを考えたりもしましたが,まわりにいる研究者や学生を見ていると,特にいつ,というわけでもなさそうです。この,淡々と誰も騒がずにいるうちに,時として世界があっと驚くような成果がでているのが,ここの最大の特徴なのかもしれません。

 さて,私が現在所属している応用数学・理論物理学科では,大きく分けて2つの分野の研究が行われています。一つは,応用数学としての流体力学,もう一つが,理論物理としての相対性理論・量子力学です。後者の分野には素粒子論・宇宙論が含まれ,日本でお馴染みのS.W.Hawking教授もこの学科の一員です。午後のお茶の時間にはよく,音声用コンピュター付きの車椅子に座って現われ,若い研究者と議論している姿を見かけます。私が関係しているのは,前者の流体力学の分野ですが,(日本には残念ながら,応用数学科はないのですが,欧米では純粋数学と並ぶ一大勢力です)この学科の特徴は,応用数学という名前とは対照的に,実験(や観測結果)が重視されているということです。これは,「応用」である以上,実際に起こる現象を大切にしようという精神の現れです。時代を反映して,地球流体力学を中心テーマとする教授が多く,研究費も,環境関連の団体から得ている部分も多いようです。私が成層乱流について共同研究しているHunt教授は,現在の本務は,日本の気象庁にあたるMeteorological Officeの長官なのですが,現在もケンブリッジの大学院生を指導しています。

 個人指導が中心のこの国(オーストラリアなども)では,同じ教官の学生でも,お互い何をやっているのかあまり知らなかったりします。これは,セミナーなどの回数が比較的少なく,情報交換が主として個人の間で行われるためです。欠点のようにも思えますが,この「個人間の議論」は,その人に必要な情報のみが提供され,個人の長所を伸ばすには最適のような気がします。情報過多は,物知りな人を増やしますが,独創性という点ではどうなのだろうか?という疑問も湧いてきます。日本の研究者は人の論文をていねいに読んで真似をすることが多いのですが,最近,論文を書くにあたってHunt教授に言われたことは,“Agreement is important for Japanese, but difference is important for us.”とのことです。そして,ここでは“世界”に対して与えたインパクトだけが評価されるのです。

写真 キングス・カレッジの庭園からの眺め

(はなざき ひでし, 大気圏環境部大気物理研究室)