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環境に対する負荷が少ない社会の形成に向けた 環境研修センターのあり方の検討

ネットワーク

前環境研修センター教官 細野 豊樹

 環境研修センターの前身である公害研修所が昭和48年に設立されて以来,20年以上が経過した。その間環境行政をめぐる情勢は大きく変化している。環境政策の対象領域は拡大し,環境と開発に関する国連会議(UNCED)でうたわれている持続可能な開発や,環境基本法が目指す環境に対する負荷が少ない社会の構築等が新たな課題として浮上している。こうした中で21世紀に向けて中長期的視野に立って環境研修センターのあり方を検討すべく,環境庁企画調整局長の諮問機関として「環境研修センターのあり方検討会」が平成6年2月に設置された。そして同年8月には中間報告が,本年3月には検討会報告がまとめられた。

 本検討会は,環境研修センターの主たる研修対象である地方公共団体の環境部局出身の有識者(行政と研究所)国の研究者,ジャーナリスト等により構成されている。座長は(財)国立公園協会会長の大井道夫氏(元公害研修所所長)である。

 環境研修センターのあり方検討会報告の概要は,概ね次のとおりである。まず,冒頭で本検討会の設立経緯,目的等が記述されている。次いで環境政策の対象領域拡大を指摘するとともに,環境に対する負荷が少ない社会の構築の必要性につき分析している。そして,こうした環境行政の潮流から導かれる人材ニーズを明らかにしている。具体的には,まず従来型の規制的手法の一層の充実と新たな展開(例えば環境リスクの評価と管理)のための能力が必要なこと,そして環境に対する負荷が少ない社会の構築に向けた新たな行政手法(経済的手法,環境教育等)に関する能力が必要なことである。規制的手法の新たな展開に関する能力及び新たな行政に関する能力には,3つの共通項があるとしている。第一は国際的(international)な視点,第二には学際的(interdisciplinary)な視点,そして第三には政策領域横断的(intersectoral)な視点の必要性である。こうした3つの“i”に関する視点に立脚した政策立案の中核となりうる人材の育成等を今後の課題としている。

 次に以上のような人材ニーズに応えていくために,環境研修センターが果たしていくべき役割につき,論じられている。環境研修センターは環境行政を担当する国及び地方公共団体の職員に対する研修の拠点(ナショナル・センター)としての役割を強化することが,うたわれている。そして持続的可能な社会づくりの基礎は地域の環境保全という視点に立ち,地方公共団体の職員等に対する研修を一層強力に推進することが提言されている。

 こうした役割を環境研修センターが果たしていくためには,設立以来推進してきた行政研修と分析研修を,環境行政の新たな潮流を踏まえつつ,一層充実させるべき旨述べられている。次いで新規の主なセンター業務として以下の2点が提言されている。

 第一は環境行政の新たな課題につき,地方公共団体等の職員が一定期間調査研究を行い成果をまとめるという課題研究型の研究過程の創設である。こうした課題研究型の研修過程は,地域レベルの取組みに関する政策立案の中核となる人材の育成に貢献することが期待されている。

 第二は支援・交流事業の積極的推進である。環境問題に対する国民の関心の高まり等を背景に,地方公共団体における環境保全に関する研修業務が近年急増している。地方公共団体の負担は重く,研修支援データ・ベースによる情報提供や,標準テキストの提供を通じた研修支援を推進する必要がある。また,例えば国際強力事業団のように国際協力その他の分野で環境保全に貢献していると認められる特殊法人,公益法人等に対する支援も必要である。さらに内外の研修機関との情報交換や学識経験者の助言の活用等からなる交流事業も重要であるとしている。

 環境研修センターが設立されてから20年以上が経過し環境問題が多様化する中,地方公共団体に対して国の方針を徹底するだけでは,到底済まされない時代となっている。環境に対する負荷が少ない社会構築に向けた,地域レベルの創意と工夫を支援することが求められてきている。環境研修センターのあり方検討会が今回提示した中長期な取組みの方向は,こうしたニーズに応えたものであり,これを踏まえた具体的施策の事業化が次の課題である。

(ほその とよき,現在:東京大学教養学部助手)