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退任のごあいさつ −つくばの20年−

論評

前地域環境研究グループ統括研究官 内藤 正明

 本年3月末日をもって20余年の長きに亘ってお世話になった国立環境研究所を退任することになりました。「国立公害研究所設立準備室」時代からの生き残りとして最長の在任期間を誇って(?)いましたが,とうとう年貢の納め時となりました。

 環境研究に携わる者にとって政策現場と直接的につながっていること,最新情報が手に入ること,施設や研究費に恵まれていることなどの本研究所の魅力は,他に代え難いものがあることは事実です。しかし,余り長く年寄りが居ついて新たな発展の可能性を阻んではいけないということはかなり以前から感じていたところ,今般,京都大学環境地球工学研究科から誘いを頂いたので,思い切ってお引き受けした次第です。

 20年余りもお世話になりながら,研究所にどんな貢献ができたかと思い返すと,とても忸怩たるものがあります。私の“貢献問題”については研究所設立の基本方針にいささか関係するところです。当時(70年代前半)は深刻な公害問題がピークを迎えていて,関連研究者は反公害運動のターゲットとして指弾を受けるか,運動側として告発側に立つしかないような状況にありました。その時期に国の公害研究の中心として当所がスタートすれば,どんなことになるか‥‥‥。設立準備に携わった人々がこのことを大いに心配したのは当然です。そこで,そのような危険を避ける解として個々の現場の公害問題に関わるのではなく,長期かつ基礎的な視点で問題の根本を探る研究を‥‥というのがその選択でした。このアカデミックな基礎科学重視という方針に沿って人事やテーマの選定がなされ,今日に至るまでほぼそのまま続いているわけです。この選択が正しかったかどうか,私にはよく分かりません。当時の船後次官は「10年間は現場の公害解決に役立つ成果は期待しません。しかし10年たっても何もでなければ潰します。」と言われたように記憶します。

 私自身は当所へ来る直前に“流域下水道システムの計画”などに関わり,反流域下水道運動の厳しい糾弾を受けていたので,もしこの火の粉を尻にくっつけて入所し,皆さんに迷惑をかけては申しわけないと心配しました。幸いそんなことはなくてほっとしたのですが,この時受けた厳しい批判がその後の仕事の原点になっています。つまり環境に関わる仕事は社会からの反応をいつも覚悟しなければならないこと,ある結果が正しいかどうかを判断する評価基準は余程適正に設定しなければならないこと,などであります。なお,このようなことは純粋に自然現象を解明する研究には不要のことでしょう。こんな点からも,現場寄りの私の仕事は,基礎科学を旨とする研究所の方針には相応しくなかったのかもしれません。

 ところで,新たな職場は土木や建築などの工学が集まって構成された,物を作ることを専門とするところです。いま私が関心を持っている循環・共生型社会づくりに興味ある人たちが沢山居てくれそうです。この人たちと協力して,新たな環境・社会づくりの研究ができ,その研究成果が「環境基本計画,エコビレッジ,環境指標,エコインダクトリアルパーク」など,行政や企業と一緒にいま進めているプロジェクトに反映させられれば‥‥と思っています。

 一方このような社会の新たな動きをフレッシュな学生たちに伝えることで,これからの社会の変革に応えてくれる人材育成にいささかでも役立てるかと,若い人たちに出会うのを楽しみにしているところです。

 最後に改めて,余り役に立てなかった私を長い間大事にして下さった研究所の皆さんに心からお礼を申し上げ,これからは,外から少しでもお返しができることがあれば努力したいと思っています。しかし,まだ今後もご支援頂くことのほうが多いように思いますので,どうかよろしくお願いします。

(ないとう まさあき, 現在:京都大学大学院工学研究科教授)