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有用微生物を活用した小規模排水処理技術の開発と高度化に関する研究

プロジェクト研究の紹介

稲森 悠平

 わが国の中小都市河川,湖沼,内湾等の公共用水域においては水質汚濁や富栄養化が依然として進行している。この主な原因は,日平均排水量50m3/ 日未満の個別家庭から排出される生活雑排水などの小規模排水の流入であり,これらに由来する負荷量は湖沼を始めとする公共用水域の汚濁負荷量の約70%を占めるに至っている。この小規模排水の多くは有機物を含むため,処理対策の手法として微生物の浄化力を活用することができる。こうした背景から,汚濁負荷源の高い割合を占める小規模排水に対して有用微生物を活用した排水の高度処理技術の開発を行い,水質改善に資することを目的とする特別研究「有用微生物を活用した小規模排水処理技術の開発と高度化に関する研究」を1990年度から3年間にわたり実施し,1992年度をもって終了した。

 ここで対象とした小規模排水は,1)下水道および合併処理浄化槽の普及が行われていない地域で垂れ流されている生活雑排水,2)し尿のみを処理している単独処理浄化槽放流水,3)全事業場の約90%を占める小規模事業場からの排水である。これらの小規模排水を処理する場合に重要なことは,敷地面積,建設費,維持管理費に制約を受ける場合が多いため,省エネ的でコンパクトであることが必要とされる。そのためには生物処理反応槽当たりの有用微生物濃度を可能な限り高める方式の開発が必要である。また水域の富栄養化防止のため,排水中の有機物だけでなく窒素等の栄養塩類を同時に除去できるプロセスの開発が必要である。そこで本研究では以下のサブテーマで研究を実施した。

 サブテーマ1「小規模排水の特性および生物処理の適用性に関する調査研究」では,最適小規模排水処理システムの開発と評価に必要な研究を効率的に遂行するための基礎的知見の集積を行った。その結果,BODへの影響度の高いのは油分,透視度,全リンであり,特に油分処理を効果的に行うことの重要性が確認された。

 サブテーマ2「小規模排水の栄養塩類除去システムの開発に関する研究」では,小規模排水中に含まれる窒素および有機物を分解する細菌,原生動物や微小後生動物などの有用微生物の組み込まれた小規模排水処理システムの開発を主として行った。得られた知見は以下に示すとおりである。

(1)小規模合併処理浄化槽を想定したベンチスケールの嫌気・好気循環生物膜法に着目して検討を加えたところ,好気生物膜反応槽の処理水を嫌気生物膜反応槽にポンプで戻すという循環を組み込むことによって処理の安定化,効率化,汚泥の減量化が行われることが明らかとなった。これらの成果に基づいて嫌気・好気処理方式の高度小規模合併処理浄化槽20基を個別家庭に設置して処理性能を調査したところ,処理水を循環することにより,(1)硝化に伴う好気槽の酸性化を嫌気生物膜反応槽の脱窒に伴うアルカリ度の補給によって中性に維持することが可能となり,(2)生物学的硝化脱窒が円滑に進行し,(3)処理水のBODとT-Nがともに10mg/l以下の高度な水質が得られ,しかも(4)中性化に伴う有用微生物の凝集化により透明な水質の得られること,など従来の処理方式に比べて優れた処理性能を持つことが実証できた。

(2)高濃度の小規模事業場系の有機物含有排水の高度処理法として,カラム状の反応槽の下部から嫌気性条件で上向きに排水を流した場合,微生物はマリモのように自分自身で活性の高い造粒体を形成するが,この有用微生物が粒状に高濃度に形成され集積した嫌気自己造粒反応槽とセラミックスの充填された好気生物膜反応槽との組み合わせでかつ循環を行うようにした循環式嫌気・好気自己造粒生物膜固定化法に着目し,脱窒細菌数と脱窒活性について嫌気・好気活性汚泥法と比較したところ,(1)グラニュール化により有用微生物としての脱窒細菌数が約20倍になること,(2)脱窒活性は約40倍になること,が判明し,反応槽のコンパクト化と処理の効率化を図れることが明らかとなった。さらに,小規模事業場系排水中に含有される有機塩素化合物等の難分解性物質の処理法として有用微生物としての難分解性物質分解菌,活性炭等を組み合わせた包括固定化法に着目して難分解性物質の分解能について検討を加えたところ,低濃度の難分解性物質が活性炭に吸着され,分解菌によって生分解が行われることが明らかとなり,有用微生物を包括固定化しかつ活性炭と組み合わせるハイブリッド法の有効性を明らかにすることができた。

(3)小規模排水の処理の高度化および維持管理の容易化を図るために自動制御を組み込んで有機物と窒素の除去能の安定化・効率化について検討を行った。その結果,嫌気(非ばっ気)時間と好気(ばっ気)時間をDOで制御することにより有機物負荷及び窒素負荷が変動してもばっ気時間が自動制御されること,さらに有用微生物としての硝化細菌,脱窒細菌のバイオマスと活性が高く保持されることから,硝化と脱窒が極めて効果的に行われ,高度の窒素除去を行えることを明らかにすることができた。以上の知見より,小規模排水処理の高度・効率化とその維持管理の容易化を図るためには,嫌気・好気循環,自動化,処理プロセスのハイブリッド化が重要であることが明らかとなった。本サブテーマでは主に有機物と窒素除去に重点をおいて研究を行い,ほぼ所期の目的は達成できたことから,今後はリン除去も含めた実用システムとしての処理の高度化に関する開発研究が必要であると考えられる。

 サブテーマ3「小規模排水処理プロセスの技術およびシステム評価に関する研究」では,有用微生物の中で処理の高度化に大きな役割を演じている微小動物に着目し,大量定着化と処理水の生態系への影響をパラメータとして,微小動物を活用した水処理技術の評価を行った。その結果,有用微生物として輪虫類Philodina erythrophthalmaを大量定着化するためには洗米排水中に存在する増殖因子の必要なことが判明した。また,小規模排水を高度処理した場合としない場合の処理水をマイクロコズムに添加して構成生物に及ぼす影響を観察したところ,窒素等の栄養塩類濃度や難分解性物質の除去の程度により影響は異なったが,より安定した生態系を維持する上では高度処理の必要なことなどを明らかにすることができた。

 今後,公共用水域の水質改善を図り快適な水辺環境を創造していくためには,高度な水質改善技術の開発と評価に関する研究がますます重要になってくると考えられる。特に,効率的な高度排水処理法の確立とシステム化は,今後,海域において課されることになる窒素・リンの環境基準,上乗せを含めた排水基準,第4次総量規制,生活排水処理施設等の面整備にかかわる対応につながることからも必須の課題であり,地方公害研究所等と連携をとった研究開発を行っていくことが重要と考えられる。

(いなもり ゆうへい,地域環境研究グループ水改善手法研究チーム総合研究官)