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所長 市川 惇信

いちかわ  あつのぶ の写真

 わが国の研究者は一般に変化に臆病である。テーマ・専門領域の変更,勤務機関の異動,さらには同一機関の中での異動,を恐がる。途上国への派遣などはもってのほかで,研究者生命にかかわる,と逃げ回る人が多い。明治維新後の御雇外国人教師が,わが国で,あるいは本国に戻ってから,大きな業績を挙げ,しかるべき地位についた人が多いことと対照的である。

 諸原因を帰納して得られた仮説が標題である。「天の目」を意識すれば,「目」はいつも同じであり,どこにいて何をやっていても安心である。本質的問題を求めてテーマは変えられるし,仕事場所も異動できる。「人の目」を意識すれば,身の回りの,あるいは専門を同じくする人が変われば「目」も変わるので,これまでの実績はご破算になる。テーマも仕事場所も変えられない。科学の基本原理である無矛盾性,因果性,および斉一性,はもともと「天の目」の所産である。とすれば,わが国でも科学者ぐらいは「天の目」の下で行動してよいのではなかろうか。そうでない限り,独創的なブレークスルーはいつまでたっても生まれない。独創的なブレークスルーが出せれば,少々「最先端」から取り残されても,自前の最先端を作り出せる。「遅れ」を気にする心からは独創的なものは出てこない。また,悠々と研究できない。

 といっても,精神訓話だけでは問題は解決しない。「天の目」に代わるものを作り出さなければならない。「天の目」の特徴は永続性と普遍性にある。永続性のためには,忘れない仕組みが必要である。普遍性のためには一つの目ができるだけ広く見ることが必要である。簡単な方法は,機関の長に人事を統合し,機関の長が長く勤めることである。理化学研究所,国立民族学博物館,岡崎国立共同研究機構,国際日本文化研究センターなどが高い業績を挙げたのは,このような事情によるものであろう。設置後かなりの期間を経た本研究所でどう作り込むかを考えねばならない。

(いちかわ あつのぶ)