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2018年12月27日

コンパクトなまちづくりで乗用車の二酸化炭素排出量はどれだけ減るだろうか?

Summary

 これまで、「出生・死亡や転居といった人口動態を考慮すると、何年後にどれくらいコンパクトなまちにすることが可能なのか」、そして「その時にどれくらい乗用車の二酸化炭素排出量が減るのか」はわかっていませんでした。そこで私たちは、国勢調査1kmメッシュ人口と市町村別の乗用車二酸化炭素排出量を使って、これらの定量化を試みました。

1kmメッシュ人口密度と乗用車二酸化炭素(CO2)排出量の関係

 コンパクトなまちにすることは乗用車のCO2排出削減に有効であるという認識はあるものの、実際に日本全国の各市町村で中長期的にコンパクト化を目指すことでどの程度CO2排出量の削減が期待できるのかは十分に推計されていませんでした。そこで私たちは、まちの構造を表す指標である人口分布に着目し、1980年から2005年の人口分布と乗用車CO2排出量の関係を分析しました。

 まず、1kmメッシュの人口密度によって、年間一人当たり乗用車CO2排出量が異なると仮定し、過去6時点(1980~2005年)について、「市町村別年間一人当たり乗用車CO2排出量」を被説明変数、国勢調査1kmメッシュ人口を用いた「メッシュ人口密度別人口シェア」を説明変数とする回帰式を作成しました。この推計で得られた結果を図7に示します。

 年次に関わらず、人口密度が高いメッシュの方が、年間一人当たり乗用車CO2排出量が少ない傾向がわかります。これは、人口密度が高いメッシュでは、徒歩・自転車や公共交通が利用しやすく、商店や病院など生活に必要な施設が近くにあり移動距離が短いため、乗用車の利用が少ないことを示しています。逆に、人口密度の低いメッシュでは、車以外の交通手段が利用しにくいうえ、生活に必要な施設までの距離が長く、乗用車に依存していることを示しています。

 年次別の変化を見ると、年次が進むにつれて、人口密度の低いメッシュの年間一人当たり乗用車CO2排出量が大きく増加し、人口密度間の差が拡大しています。これは、自動車の保有が容易になったことが主要因と考えられます。また2005年は、人口密度10,000人/km2以上のメッシュでの年間一人当たり乗用車CO2排出量が減少していますが、大都市圏での都心回帰や若者の自動車離れなどに代表されるように、利便性の高い場所に住み、乗用車をあまり利用しないライフスタイルが選好されてきていることが要因として考えられます。

年間一人当たり乗用車CO2排出量
図7 メッシュ人口密度別年間一人当たり乗用車CO2排出量
燃費の改善を含んだ一人当たり乗用車CO2排出量の推移です。1980年では、人口密度が高い10,000人/km2以上のメッシュの年間一人当たり乗用車CO2排出量が約0.4トンであることに対して、人口密度が低い1,000人/km2未満のメッシュは約0.6トンで、そこまで大きな差はありません。同様に、2005年では、10,000人/km2以上のメッシュの年間一人当たり乗用車CO2排出量が約0.2トン程度であることに対して、1,000人/km2未満のメッシュは約1.2トンとなっています。年次が進むにつれて、人口密度の低いメッシュの年間一人当たり乗用車CO2排出量が大きく増加し、高いメッシュとの差が拡大しています。これは、自動車の保有が容易になったことが主要因と考えられます。
また2005年では、大都市圏で都心回帰や若者の自動車離れなど自動車への依存が減ったため、人口密度が高い10,000人/km2以上のメッシュでの年間一人当たり乗用車CO2排出量が減少する傾向も見られます。

人口分布シナリオの構築

 まちをコンパクトにするといっても、まちを変えるには長い時間がかかります。また時間が経つにつれて、市町村の総人口も刻々と変わっていきます。そこで私たちは、国立社会保障・人口問題研究所の公表している市町村別人口を前提条件とした上で、過去の出生・死亡、転居といった人口の変動要因を考慮した市町村内の人口分布の起こりうる変化の幅を計算しました。そのうえで、将来起こりそうな人口分布のなかで一定割合以上偏在化した場合と均一化した場合を、それぞれ「偏在化シナリオ」「均一化シナリオ」として、2030年に起こりうる2つの人口分布シナリオを構築しました。

 具体的には、国勢調査1kmメッシュ人口を使って、全国市町村の2000→05年の人口分布ジニ係数(コラム2参照)の変化を計算しました。そして全国市町村を、三大都市圏内/外別、市/町村別に「偏在化」「変化なし」「均一化」の3つに分類し、各分類の市町村に含まれるメッシュ人口密度別の人口変化率を性別5歳階級別に求めました。この人口変化率を、基準年2005年の国勢調査1kmメッシュ人口に適用して、コーホート変化率法という方法で2010年の全国市町村の偏在化、均一化シナリオを作ります。同様にして5年ごとに計算をして2030年の「偏在化シナリオ」「均一化シナリオ」を作りました。

人口分布シナリオの評価

 今後、公共交通サービスが成り立たなくなる、商店や病院といった施設の減少によって移動距離が伸びる、といった理由で乗用車CO2排出量が増加する可能性が指摘されています。そこで、乗用車の走行距離当たりのCO2排出量が2005年と同じと仮定した場合に、人口分布シナリオによって年間一人当たり乗用車CO2排出量がどの程度変わるか全国の市町村で評価しました。

 一例として、神奈川県相模原市の人口分布シナリオと年間一人当たり乗用車CO2排出量を分析した結果を図8に示します。相模原市は東京大都市圏の郊外に位置する人口約70万人の都市で、人口分布の違いが乗用車CO2排出量に与える影響が大きい市町村の例になります。

 偏在化シナリオでは、2030年までに10,000人/km2以上のメッシュに住む人の割合が2005年より高まっています。一方の均一化シナリオでは、10,000人/km2以上のメッシュに住む人の割合が低くなり、虫食い状に人口密度の低い市街地が広がるスプロール現象が起こるイメージとなります。2030年の年間一人当たり乗用車CO2排出量は、偏在化シナリオの場合は2005年より減少するのに対し、均一化シナリオでは増加することがわかりました。市町村の総人口が同じでも、人口分布に応じて年間一人当たり乗用車CO2排出量は15%近い差が生じうることになります。全国の他の市町村でも、市町村の人口やベースとなる2005年の人口分布によって、年間一人当たり乗用車CO2排出量に多少の差があるものの、おおむね偏在化シナリオの方が均一化シナリオより10%程度抑えられる結果になりました。

 今後は、将来の車両の性能向上や、メッシュ人口密度に応じた公共交通のサービスレベル、徒歩・自転車の選好の変化についても考慮した分析を視野に入れています。また、今回は乗用車CO2排出量を紹介しましたが、人口分布はこの他にもエネルギー需要・廃棄物発生の分布、健康影響、生態系への影響など様々な環境問題にも影響します。他分野の研究者と連携して、どのような人口分布が望ましいか総合的に評価する研究を進めています。

人口分布シナリオと乗用車CO2排出量
図8 2030年の人口分布シナリオと年間一人当たり乗用車CO2排出量:神奈川県相模原市
神奈川県相模原市の人口分布シナリオと年間一人当たり乗用車CO2排出量を分析した結果です。2005年時点では、東部のJR横浜線と小田急線の駅周辺を中心に人口密度の高い10,000人/km2のメッシュが多く見られ、西部は人口密度の低い1,000人/km2未満のメッシュの中に1,000人/km2以上の小さい拠点が点在していることがわかります。
2030年の偏在化と均一化シナリオにおいてもこの傾向は変わらず、一見地図上では大きな変化には見えないかもしれません。しかし、左横の円グラフを見ると、偏在化シナリオでは10,000人/km2以上のメッシュに住む人の割合が2005年より高まり、均一化シナリオでは、10,000人/km2以上のメッシュに住む人の割合が低くなっています。これにより、乗用車CO2排出量は15%もの違いが出ます。『コンパクトシティ』というと、「人々は無理やり転居させられるのでは?」といった誤解がよくあるのですが、過去の傾向を考慮すると、長期的に考えて、この程度であれば無理なく実現が可能であると言えるでしょう。

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