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2022年12月23日

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植物にオゾン耐性を付与するタンパク質
~フィトシアニンによる新規ストレス防御機構の発見~

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2022年12月23日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所
生物多様性領域
環境ストレス機構研究室
 高度技能専門員 佐治章子
 シニア研究員  佐治光
環境ゲノム研究推進室
 室長      中嶋信美
副領域長     青野光子
 

   オゾンには人や植物に対する毒性があり、大気中濃度の高い都市やその周辺において作物や樹木に様々な被害をもたらしています。
   国立環境研究所 生物多様性領域 環境ストレス機構研究室の佐治章子らは、モデル植物シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的研究により植物のオゾン耐性に関わる遺伝子を探索しました。その結果、これまでほとんど機能が知られていなかったフィトシアニンと呼ばれるタンパク質群が植物のオゾン耐性を高める機能を持つことが明らかになりました。これは、オゾンが気孔を通して植物に取り込まれた後の新規オゾン耐性機構の発見であり、オゾンに強い作物や樹木を作成できる技術の開発が期待されます。
   本研究の成果は、2022年12月22日付でSpringer-Natureから刊行される学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
 

1.研究の背景と目的

 光化学オキシダントの主成分であるオゾンには人や植物に対する毒性があり、大気中濃度の高い都市やその周辺において作物や樹木に様々な被害をもたらしています。特に今後経済発展が見込まれるアジア地域などにおいてその濃度上昇が予想されることから、植物のオゾンに対する反応やそのメカニズムを解明し、オゾンに強い品種を育成するなどの対策が必要です。しかし植物のオゾン応答やそのメカニズムに関してこれまでに得られている情報は少なく、オゾンに耐性のある品種を育成するための有効な方法はまだありません。
 本研究では、分子遺伝学のモデル植物であるシロイヌナズナを用いて植物のオゾン耐性に関わる遺伝子やタンパク質を探索し、それらが働くメカニズムの解明を目指しました。

3.研究手法

 ある特定の遺伝子から作られるタンパク質の量を強制的に増加させたシロイヌナズナ系統群※1の種子から幼植物を育て、そのなかから生物環境調節実験施設内でオゾン暴露処理を行っても障害が生じにくい系統を探しました(図1)。そのようにして得られたオゾンに強い系統の一つについて、原因となった遺伝子やそれに対応するタンパク質を同定するとともに、それらの働きやオゾン耐性を付与した理由について、様々な実験や各種データベース等からの情報収集により調べました。

シロイヌナズナのオゾン耐性系統の単離の図
図1 シロイヌナズナのオゾン耐性系統の単離

4.研究結果と考察

 単離したオゾン耐性のシロイヌナズナやその原因となった遺伝子、タンパク質について調べた結果、以下のことがわかりました。 1)オゾン耐性付与の原因となった遺伝子はフィトシアニンというグループに属するAtUC5というタンパク質に対応するものであることがわかりました。 2)多くの植物種において、オゾン処理により葉の細胞が死滅したり、気孔が閉じたりすることが知られていますが、AtUC5をたくさん作らせたシロイヌナズナではこれらの反応がともに起こらなくなっていました。 3)AtUC5は細胞外に分泌され、細胞と細胞の間(アポプラスト)で働いていることがわかりました。 4)AtUC5は、ストレス耐性に関わると予想されるアミンオキシダーゼ※2やリアタンパク様タンパク質※3と相互作用する可能性があることがわかり、本研究で得られた結果とこれまでに知られている情報に基づいてAtUC5の作用メカニズムについての仮説を提案しました(図2)。 5)フィトシアニングループに属するAtUC5以外のタンパク質にも植物にオゾン耐性を付与する能力があることがわかりました。

植物のオゾン応答におけるAtUC5の作用についての仮説の図
図2 植物のオゾン応答におけるAtUC5の作用についての仮説

以上のことから、AtUC5は、アミンオキシダーゼやリアタンパク様タンパク質との相互作用を通して、オゾンにより生成される活性酸素の量を減らすことで障害を防御する可能性が示されました。

5.今後の展望

 本研究により、これまで知られていなかったフィトシアニンが植物にオゾン耐性を付与することが明らかになりました。その詳細な作用機構(メカニズム)は未解明の部分もありますが、得られた結果から、このタンパク質が細胞と細胞の間にあるアポプラストと呼ばれる部位で活性酸素の減少に関わっていることが示唆されました。活性酸素はオゾン以外の様々なストレス反応にも関わっていることが知られており、フィトシアニンは多くのストレスに関わっている可能性があります。また、このタンパク質をたくさん作らせたシロイヌナズナがオゾンに強くなることから、他の植物でも同様であれば、オゾンに耐性を持つ作物や樹木の作成への利用が期待されます。

6.注釈

※1:シロイヌナズナ系統群
全長cDNA高発現遺伝子系統。理化学研究所、バイオリソース研究センター(https://web.brc.riken.jp/ja/)より入手。
※2:アミンオキシダーゼ
ポリアミンを基質として活性酸素を生成する酵素で、ストレス条件下での細胞死の誘導に関与するという報告がある。
※3:リアタンパク様タンパク質
乾燥やその他の様々なストレス条件下で蓄積し、植物にストレス耐性をもたらす「リアタンパク」と似た構造のタンパク質。リアタンパクには活性酸素を消去する働きがあるという報告がある。

7.研究助成

 本研究は、科研費(18K11673)、(国)筑波大学つくば機能植物イノベーション研究センター・遺伝子実験センター「形質転換植物デザイン研究拠点」共同利用・共同研究等の支援を受けて実施されました。

8.発表論文

【タイトル】Phytocyanin-encoding genes confer enhanced ozone tolerance in Arabidopsis thaliana

【著者】Shoko Saji1, Hikaru Saji1 , Kimiyo Sage-Ono2, Michiyuki Ono2, Nobuyoshi Nakajima1, Mitsuko Aono1
1:(国)国立環境研究所
2:(国)筑波大学

【雑誌】Scientific Reports

【DOI】10.1038/s41598-022-25706-0

9.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域
環境ストレス機構研究室 シニア研究員 佐治光
副領域長 青野光子

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)