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2020年7月27日

発表機関のロゴマーク
エコチル調査に高い期待が寄せられています:
高インパクト医学雑誌「The Lancet Diabetes and Endocrinology」で紹介されました

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

令和2年7月27日(月)
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
 次長 中山 祥嗣
 

   国立環境研究所エコチル調査コアセンター次長の中山が共著として参加したレビュー論文「内分泌かく乱物質:人の健康影響」が、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つであるランセットの専門誌「The Lancet Diabetes and Endocrinology(2019インパクトファクター:25.34)」に掲載されました。
   その中で、内分泌かく乱物質の人の健康への影響について、過去30年間の研究をレビューしたもので、特に近年の研究により有機フッ素化合物やビスフェノール類、フタル酸エステル類、有機リン系農薬、臭素系難燃剤曝露について、より確かな証拠を提示しました。同時に、これらへの複合的曝露の影響を調べるために必要な大規模出生コホート調査として、子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)が紹介されました。
   ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
 

1.発表のポイント

・内分泌かく乱物質の人の健康への影響について、過去30年の研究発表をレビューし、近年の研究により、有機フッ素化合物(PFAS)、ビスフェノールA、有機リン系農薬及び臭素系難燃剤曝露の健康影響について、より強い証拠が提示されていることがわかりました。
・これらの物質への同時曝露の影響はまだ十分に研究されておらず、大規模コホート調査であるエコチル調査の重要性が指摘されました。

2.背景

1962年にレイチェル・カーソンが「沈黙の春」を発表し、DDTの人及び生態系への影響を告発してから現在までの半世紀の間に実施された、内分泌かく乱物質についてのさまざまな研究から、「取る量によって毒かどうかが決まる(パラセルスス)」と「合成化学物質は、ごくまれにしか内分泌や恒常性に影響せず、したがって、病気や機能不全を起こすことはない」という仮定は正しくないことが証明されました。

国際内分泌学会をはじめ、国際産婦人科連盟、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)、米国小児科学会等は、内分泌かく乱物質の人の健康への重篤な影響について警告を発しています。

本論文の研究は、2015年の国際内分泌学会の専門家会議(15の内分泌かく乱物質による影響を同定)をアップデートし、最新の研究からの証拠を収集する目的で実施しました。

3.内容

1990年1月から2019年9月までに発表された内分泌かく乱物質と人の健康に関する研究論文を検索し、レビューを行い、証拠の確からしさについて検討を行いました。

その結果、特に確かな証拠が蓄積していると判明したものは、有機フッ素化合物(PFAS)と子ども・大人の肥満、耐糖能異常、妊娠糖尿病、低出生体重、低精子品質、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜症及び乳がんとの関連でした。また、胎児期のビスフェノールA、有機リン系農薬及び臭素系難燃剤曝露と認知障害及びADHDとの関連は、証拠が蓄積していることがわかりました。この研究は証拠の確からしさを系統的に評価する手法をとっていないため、これらの物質についての証拠を定量的に評価しているわけではありません。しかしながら、この研究でレビューした論文について、定量的な評価を行うことで、証拠の確からしさを数値化する研究につなげたいと考えています。

この研究でレビューした論文では、一つずつの化学物質の影響を調べているものがほとんどでした。しかしながら、現実の世界では、さまざまな内分泌かく乱物質にさまざまな割合で曝露しており、複数の化学物質への同時曝露の影響について調べることが必要です。そのためには、大規模な調査が必要であり、EUのLifeCyleプロジェクトやATHLETEコンソーシアム、米国のECHOプログラムに加えて、日本が実施する「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」が、複合曝露の健康影響を調べるために重要な役割を果たすとして、取り上げられました。

4.補足

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、参加する子どもが13歳になるまで追跡調査し、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることとしています。

エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。調査期間は5年間のデータ解析期間を含み、令和14(2032)年度までを予定しています。

5.用語解説

1)有機フッ素化合物
   有機フッ素化合物(PFASs)は、炭素—フッ素結合を含む有機化合物の総称で、撥水・撥油性、熱・化学的安定性等の物性を示すことから、撥水撥油剤、界面活性剤、半導体用反射防止剤、水成膜泡消火剤、調理用器具のコーティング剤等の幅広い用途で使用されてきました。とくに炭素数が8のパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とパーフルオロオクタン酸(PFOA)は環境中で分解されにくく、残留性や生物蓄積性を示すことから、環境・生態系の汚染や人への影響などが懸念されています。

2)ビスフェノール類
   ビスフェノールAは、主にポリカーボネートやエポキシ樹脂などのプラスチックの原料、ポリ塩化ビニルやフェノール樹脂の安定剤などとして使用される化学物質で、各種プラスチック容器や缶詰めの内面塗装に用いられています。食品容器や缶詰めの内面塗装から容器内の飲食物へ移行することがあり、環境ホルモン様の作用が疑われていることから、欧米では乳幼児が使用する容器への使用が制限されている国もありますが、人の曝露や影響については分かっていないことが多い物質です。

3)フタル酸エステル類
   フタル酸エステルとはフタル酸とアルコールがエステル結合した化合物の総称で、塩化ビニルなどプラスチック製品の可塑剤として幅広く使用されています。欧米では一部の物質について乳幼児が使用するおもちゃ等への使用が規制されており、国内では食品衛生法で規制されています。内分泌かく乱作用、生殖毒性、発達毒性、組織障害などが報告されており、環境中や食品中から広く検出されることから、人へのばく露と影響が懸念されています。

4)有機リン系農薬
   有機リン系農薬とは、化学構造中にリン(P)を含む農薬の総称で、最も普及している農薬類のひとつとして40種以上が様々な農作物に使用されています。神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を阻害するため、急性毒性としては神経系が過度の刺激状態となって発汗や呼吸障害などの中毒症状を引き起こすことが知られていますが、日常的な低濃度のばく露や子どもへの影響については詳しく分かっていません。

6.発表論文

【題名(英語):Endocrine-disrupting chemicals: implications for human health
著者名(英語):Linda G Kahn1, Claire Philippat2, Shoji F Nakayama3, Rémy Slama2, Leonardo Trasande1
1リンダ・カーン、レオナルド・トラサンデ:ニューヨーク大学(米国)
2中山祥嗣:国立環境研究所
3クレア・フィリパット、レミー・スラマ:グルノーブル大学(フランス)
掲載誌:The Lancet Diabetes and Endocrinology
DOI: 10.1016/S2213-8587(20)30129-7

7.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター次長 中山祥嗣