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2012年11月15日

日本における鳥インフルエンザウイルスの侵入リスクマップの作成について

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付)

平成24年11月15日(木)
独立行政法人 国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター
 特別研究員  森口 紗千子
 研究員    大沼 学
 主席研究員  五箇 公一

 この度独立行政法人国立環境研究所では、海外から鳥インフルエンザウイルスが侵入するリスクの高い国内地域を予測するマップを作成しました。本マップでは、マガモなど植物食のカモ類の個体数が多いほど侵入リスクが高くなるという結果が得られました。  

 今後は本マップに基づき、侵入リスクの高い地域においては優先的に防疫対策を強化することで、養鶏場等における被害防止につながることが期待されます。

内容

 インフルエンザウイルスの中でも、特に鳥類に感染するウイルスを「鳥インフルエンザウイルス」と言います。鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥によって運搬されていると考えられ、特にカモ類の保有率が高いとされます(参考文献1)。 鳥インフルエンザウイルスは、通常、家禽類に対する病原性は低いのですが、中には高い病原性を示すタイプのものがあります。これを「高病原性鳥インフルエンザウイルス」と言います。高病原性鳥インフルエンザウイルスは、家禽類に対しても大きな被害をもたらすことから、世界的にも家畜生産上の大きな問題とされています。

 我が国でも、この鳥インフルエンザウイルスによる家禽類の被害が深刻な問題となっており、さらに希少鳥類に感染することによって、その絶滅リスクが高まることが懸念されています(参考文献2)。今後、鳥インフルエンザウイルスの侵入・拡大に対するモニタリングを強化し、被害を未然に防ぐリスク管理体制を構築することが急がれます。

 そこで我々は鳥インフルエンザウイルス侵入のリスク管理の一環として、どの地域に鳥インフルエンザウイルスが侵入するリスクが高いのかを予測する方法として、本ウイルスが渡り鳥によって運ばれることに着目し、野鳥の鳥インフルエンザウイルス発生地点を、標高や土地利用などの環境条件や宿主となるカモ類の個体数データに基づいて推定する分布予測モデル(リスクマップ)を作成しました。本研究により、ウイルスの自然宿主とされるマガモなどの植物食のカモ類の個体数が多い地域ほど侵入リスクが高くなるという結果が得られました。また、今回得られた予測結果を過去5年間の鳥インフルエンザウイルス陽性地点データと比較した結果、侵入予測エリアは実際に陽性反応が検出された地域を確実にカバーしており、予測の信頼性が高い事も分かりました。このリスクマップに基づき、鳥インフルエンザウイルスの侵入リスクが高い地域のモニタリングを強化することにより、国内へのウイルス侵入の早期発見に結びつくと期待されます。本研究をまとめた論文は、国際学術誌「Diversity and Distributions」に掲載される予定です(オンラインにて先行公開済:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ddi.12006/abstract 、雑誌掲載日は2013年1月です)。

 また、これまでのところ、どのような経路で渡り鳥等の野鳥から家禽類へウイルスが感染するのか分かっていませんが、何らかの媒介生物(小型の野鳥、ネズミ類等)がウイルスの拡散に関与していると推測され、今回の結果でリスクが高いと予測された付近の養鶏場は屋外からの媒介生物の侵入防止策を含む防疫対策を徹底する必要があると考えられます。養鶏場における鳥インフルエンザウイルス感染リスクの評価のためには、さらに詳細な調査を進める必要があります。

※今回の結果は、あくまでも「渡り鳥を含む野鳥」から鳥インフルエンザウイルスが検出される可能性が高い地域を示したものであり、「養鶏場の家禽類」から鳥インフルエンザウイルスが検出されるリスクが高い地域を示したものではないことをお断りしておきます。

発表論文

Moriguchi, S., Onuma, M., Goka, K. (2013), Potential risk map for avian influenza A virus invading Japan. Diversity and Distributions, 19: 78–85. (2013年1月号)
DOI: 10.1111/ddi.12006

※ 2012年12月20日更新

参考文献

  1. 動物の感染症、2002、P249、 近代出版
  2. Liu J. et al. (2005) Highly Pathogenic H5N1 Influenza Virus Infection in Migratory Birds, Science

問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所  生物・生態系環境研究センター
広報担当 cebes.web@nies.go.jp
(できるだけE-mailにてお問い合わせいただきますようお願いいたします)

【図】鳥インフルエンザウイルスの侵入リスクを示したマップ
【図】鳥インフルエンザウイルスの侵入リスクを示したマップ
S. Moriguchi, M. Onuma and K. Goka, Potential risk map for avian influenza A virus invading Japan, Diversity and Distributions, in press, DOI: 10.1111/ddi.12006 図2を改変

 リスク指数とは、鳥インフルエンザウイルスが侵入する可能性を0~1で表した指数である。1に近づくほどウイルスが侵入しやすい環境条件がそろっており侵入リスクが高いことを示す。

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また、出典については以下の通り明記していただきますようお願いいたします。
森口ら(2012)Diversity and Distributionsより改変

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