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西シベリア雪氷圏におけるタワー観測ネットワークを用いた温室効果ガス収支の長期変動解析(令和 3年度)
Analysis of long-term variation in green house gases using a tower network in West Siberia

研究課題コード
1721BB002
開始/終了年度
2017~2021年
キーワード(日本語)
二酸化炭素,メタン,西シベリア,タワーネットワーク,日ソ環境保護協力協定,日露科学技術協力協定
キーワード(英語)
carbon dioxide,methane,West Siberia,tower network,Japan-Russia Environmental Conservation Cooperation Agreement,Japan-Russia Science and Technology Cooperation Agreement

研究概要

本研究は、日ソ環境保護協力協定の枠組み内の課題「湿地からのメタン放出のモデル化に関する共同研究」及び、日露科学技術協力協定の枠組み内の課題「シベリア生態系の影響を受けた温室効果気体の観測」と「シベリアにおけるランド・エコシステムの温室効果ガス収支」に基づくロシアとの長期にわたる国際共同研究である。
周北極域となるロシア共和国のシベリア域は、気候変動の影響を顕著にうける可能性の高い雪氷圏であり、そこには温室効果ガスの循環ならびにその将来予測にとって重要な放出源・吸収源が分布している。CO2吸収・放出に関しては世界最大規模のタイガ、CH4放出に関してはこれも世界最大規模の湿地が存在し、気候変動に対するシベリア域の陸域生態系の応答が全球の大気中温室効果ガス濃度に多大な影響をおよぼすことが予想される。従来研究でCO2濃度に関しては、西シベリア域において2009年と2010年の夏季の濃度差が例年より大きく、これは気温の異常に応答したタイガ植生の光合成量の変化によるとの推察も報告された。またCH4濃度は2007年から全球規模での再増加が報告されているが、西シベリアの湿地帯からのCH4放出量の変化がその増加に寄与する可能性も報告され、長期変動をモニタリングすることが強く求められている。しかし世界の温室効果ガス観測網の中で、広大なシベリアは観測の空白域であった。
そこで国立環境研究所は世界に先駆けて、1991年からシベリアでの温室効果気体の発生・吸収に関する航空機による大気観測を、日露国際協力の一環として開始した。ロシア国内で観測を行うために、以下の研究所と共同研究を行ってきた;ロシア科学アカデミーの微生物研究所・大気光学研究所・永久凍土研究所、ロシア気象委員会中央高層大気観測所。
本タワー観測ネットワークは、トップダウンアプローチによる亜大陸規模のCO2収支推定の手法を確立することを目指して、平成14年度に始まった地球環境研究総合推進費「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合的炭素収支研究」で、構築を開始した。その後CH4濃度の測定も加え、平成19年度から開始した地球環境保全試験研究費「タワー観測ネットワークを利用したシベリアにおけるCO2とCH4収支の推定」で徐々に9ヶ所まで展開し、JR-STATION (Japan-Russia Siberian Tall Tower Inland Observation Network)として多点同時観測を行えるようになった。平成24年度からは地球環境保全試験研究費「シベリアのタワー観測ネットワークによる温室効果ガス(CO2、CH4)の長期変動解析」でJR-STATIONを稼働し、現地の事情で一部のサイトを撤収したが、観測を継続した。
本タワー観測ネットワークによって、観測の空白域であったシベリア域における温室効果ガスの連続データが蓄積されてきた。これらのデータは、シベリア域に焦点を当てながら全球のCO2やCH4のフラックス推定に使用されてきた。またGOSATデータを用いて得られたCO2フラックス推定値の検証や、モデルの検証データとしても幅広く用いられてきた。現在でも主にフラックス推定の目的で多くの研究に利用されている。これは本研究で得られるデータが希少であり、代替できない貴重なものであることを表している。ある時期に限られた集中観測のデータではなく、通年観測で経年的な変化を追うことのできる時間スケールでの観測であることも、データ利用者にとって利便性が高いと考えられる。
30年近くにわたるロシアの研究機関との共同研究の実績から、シベリアでの温室効果ガスを継続的にモニタリングできるのは、現在でも国立環境研究所のみである。これは欧米諸国の他機関でも実施が非常に難しく、温室効果ガス研究の国際的なコミュニティからも本観測の継続が強く期待されている。
シベリア域における温室効果ガスの観測網は、国立環境研究所とロシア科学アカデミーの大気光学研究所及び微生物研究所が共同で運用してきたJR-STATIONがほぼ唯一である。本研究ではこのJR-STATIONを用いて温室効果ガス(CO2、CH4)濃度の観測を継続することが第一の目的である。さらに観測濃度の時空間変動と衛星など他の観測データを組み合わせて、インバース解析(結果である濃度分布の観測値から、原因であるフラックス分布を推定する方法)を用いてシベリア域の多様な地表面(タイガ、ステップ域、湿地帯)からのフラックス分布を推定しその不確実性を小さくするとともに濃度増加との因果関係やそれぞれの放出源・吸収源の寄与を明らかにすることが第二の目的である。得られたデータは国立環境研究所独自のデータベースにより、迅速なデータ公開を行うことによって国内外の研究者への利用を促進する。

研究の性格

  • 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

初年度からJR-STATIONを利用してCO2およびCH4濃度の連続観測を継続して行う。シベリアタイガでは森林火災の発生することがあるが、それが観測サイトの近くである場合はCOのシグナルが強く出ることが予想される。CO、CO2、CH4の濃度変動を総合的に解釈することにより、その森林火災の特徴を捉え、インバースモデルによるCO2、CH4放出量推定の向上を行う。
数年にわたる観測で、長期的なCO2濃度とCH4濃度の時系列データを得てから、それをインバースモデルに入力してCO2吸収・放出量およびCH4放出量の分布推定を行う。全球の長期的フラックス変動推定を考慮しつつ、西シベリアの地域的CO2・CH4フラックス変動の特徴を捉える。観測データとしては、JR-STATIONによる高頻度観測の結果に加えて、国立環境研究所地球環境研究センターのモニタリング事業で継続しているシベリア上空の3ヶ所での航空機を使った定期サンプリングによるCO2とCH4観測値を使用する。シベリアの多様な地表面(タイガ・ステップ・湿地帯)におけるCO2放出・吸収量およびCH4放出量の年々変動を明らかにすると共にその気候変動との関係を探る。
タワー観測で得られた温室効果ガスの観測値は全球の観測網の空白域を埋める貴重なデータであるので、検証が済み、一定の解析を終えたデータは速やかにデータベースに格納し、外部に発信することで、データ利用の促進を図る。

今年度の研究概要

JR-STATIONを利用してCO2およびCH4濃度の連続観測を継続して行う。CO2測定に関しては非分散型赤外分光計、CH4測定に関してはSnO2半導体CH4センサーを用いて測定を行う。また3箇所の観測サイト(KRS, DEM, NOY)においてはCRDSによってCO2およびCH4濃度の連続測定を行う。

外部との連携

ロシア科学アカデミー大気光学研究所

課題代表者

笹川 基樹

  • 地球システム領域
    大気・海洋モニタリング推進室
  • 主幹研究員
  • 理学博士
  • 理学 ,化学
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担当者