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涸沼川における栄養塩流出負荷特性

研究ノート

井上 隆信

 湖沼や内湾等の富栄養化で問題となる栄養塩は、大部分が河川を通じて閉鎖性水域に流入しているので、その負荷特性を定量的に把握しておくことは富栄養化防止対策を講ずるうえで重要となる。そこで、河川から閉鎖性水域への流出負荷特性や河床付着生物膜の働きによる河川流下過程での水質変化等を明らかにすることを目的として、現地調査を中心とする研究を進めている。調査は、茨城県中央部を流れている、流域に山地や農耕地が多く都市排水の流入の少ない涸沼川を対象として、週に一度の定期調査,季節ごとの2週間程度の毎日調査,及び降雨時調査等を行っている。

 ここでは、1988年と1989年の週に一度の調査結果を基に年降水量と年流量並びに年流出負荷量との関係や流出物質の溶存態と懸濁態の比率について紹介する。図には1988年を1として、1989年の比率及び溶存態と懸濁態の比率について示した。1989年は降水量が多く前年の1.2倍となり、これに伴って年流量も1.2倍となった。降雨時流出では、濁水となり懸濁態成分の濃度が高くなるため、懸濁態の負荷量は、流量の増加以上に増加することとなる。このため、1989年と1988年を比べると、溶存態の比率の高い窒素は1.1倍であったのに対して、懸濁態の比率の高い炭素とリンは1.5倍にもなった。また、炭素,窒素及びリンとも、全量に対する懸濁態の比率は1989年が1988年より高くなった。

 涸沼川では、リンは90%程度が懸濁態として流出している。市街地河川では溶存態の比率が高くなり、例えば涸沼川の近くの山王川では懸濁態の比率は39%であった。しかし、窒素と比べるとリンは懸濁態の比率が高くなっている。今後は、この懸濁態リンの存在形態や閉鎖性水域に流入後の挙動の解明等、懸濁態に着目した研究を行って行きたいと考えている。

グラフ 涸沼川における年降水量・年流量・年負荷量

(いのうえ たかのぶ、水土壌圏環境部水環境工学研究室)