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東京湾に発生する青潮について

経常研究の紹介

原島 省

 近年,東京湾奥部で発生する青潮が問題になっている。一般的に,夏期の内湾域では,水温,塩分による密度安定成層のため,海水の上下交換が悪い。このような状態のもとで,沈積した有機物の分解により,下層の酸素が消費されてしまい,還元的環境のために硫化水素が形成される。さらに,秋に北〜北東の風が吹くと,上層の海水が沖にむかって運ばれ,下層の水が湾奥上層に湧昇してくる。この湧昇水はアサリの漁場に被害を及ぼしたり,都市域に硫化水素の悪臭をもたらしたりする。下層水が空気にふれると,硫化水素が酸化され,粒子状イオウや多硫化物イオンが形成され,海水固有の色と重なりあって淡青色に見える。青潮といわれるゆえんである。

 また,次のような青潮を生み出す基本的な海洋環境問題が指摘される。閉鎖性海域には,有機汚濁質および溶存態栄養塩という形の負荷が加わっている。前者のみならず後者も海域内部生産によって有機態となり汚濁に寄与する。これらの負荷がある限界値以下であれば,外洋に流出するか,食物連鎖にとりこまれるが,それを越えると海底に沈積し,青潮発生の基盤となるのである。この限界値は,生物・化学・物理・海洋構造的な要素に依存しているし,現今の負荷量のみならず,過去から沈積している有機汚濁質の寄与もあるから,その算定はかなりむずかしい問題である。

 環境庁水質保全局は,昭和62年度より「青潮発生機構の解明等に関する調査」を行っている。当研究所においては,63年度から,科学技術庁海洋開発調査研究促進費,所内経常研究費,奨励研究費により青潮がどのような条件で起きているかを明らかにすることと,青潮をモニターする有効な方法を開発することを目標として研究が始められた。63年9月には,水質土壌環境部の大坪国順主任研究員を中心にして青潮発生の待機体制をとり,何人かの研究者が協力して,船橋港内外で,ヘリコプターによる遠隔光学的測定および水質調査,海面光学測定を行った。さらに,数値シミュレーションによる青潮発生のモデル化を試みている。この結果,風応力による鉛直循環が上記の青潮発生の状況と符合することが確かめられているが,成層の強弱により,中層付近の海水が湧昇してくるか,底層付近の海水が湧昇してくるかの差異があること,および溶存酸素やイオウ化合物等の非保存性物質の形態変化をどのようにモデル化するか等の問題が残っている。

(はらしま あきら,水質土壌環境部海洋環境研究室)

1988年9月8日,船橋港上空で撮影,画面右からの毎秒約5mの風によって下層水が湧昇し,淡青〜青緑色を呈している。