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2020年8月31日

気候変動適応研究プログラムの概要

特集 不確実な未来への備えを科学する「気候変動適応」研究プログラム
【研究プログラムの紹介:「気候変動適応研究プログラム」から】

肱岡 靖明

 気候変動適応研究プログラムでは、様々な分野を対象として、①過去から現在に至る観測データを入手して分析することで、気候変動による影響を検出して気候変動の寄与度を推定すること、②気候変動影響予測手法を開発もしくは高度化して、気候・社会経済シナリオに基づく影響予測を実施すること、③適応策の戦略的推進のための施策の提案等、を目的とした気候変動の適応推進に係る業務を科学的に支援するための調査研究を実施します。

 気候変動適応研究プログラムは、PJ1~PJ3の3つの研究プロジェクト(図1)と23のサブプロジェクトによって構成されます(表1)。

気候変動適応研究プログラムの体制図
図1 気候変動適応研究プログラムの体制

表1 研究プログラム及び研究事業の実施体制一覧
プロジェクト名 サブプロジェクト名
PJ1:気候変動影響の定量評価と影響機構解明に関する研究  気候変動および大気汚染がアジアの水稲生産および健康へ及ぼす複合影響の解明
 マングローブ生態系機能と気候変動—生態系機能評価と環境応答機構—
 気候変動影響の検出を目的とした陸域生態系の観測・監視
 湖沼生態系における気候変動影響の観測と影響プロセスの解明
 サンゴ・藻場群集における気候変動応答とメカニズムの解明
 沿岸域・閉鎖性海域の浮遊・底生生態系への気候変動影響の評価
 暑熱・健康及びエネルギー分野における気候変動に関する観測情報の分析研究
 気候変動適応のための流域環境観測・監視手法の研究
PJ2:気候変動影響評価手法の高度化に関する研究  影響評価研究に資するための気候・大気質・社会経済シナリオの開発と整備
 全球規模の分野別気候変動影響評価モデルの開発と応用
 アジアの水稲生産および健康に及ぼす気候変動および大気汚染の複合影響の適応策評価
 マングローブ生態系機能と気候変動—将来予測と適応ハザード評価—
 草原域における気候変動による影響監視および適応評価
 陸域生態系における生物多様性・生態系機能・生態系サービスレベルの気候変動影響予測
 湖沼環境における気候変動影響予測
 気候変動に伴うサンゴ・藻場群集の分布変化予測の高度化
 沿岸域・閉鎖性海域の水環境・生態系を対象とした気候変動影響予測と適応策
 暑熱・健康およびエネルギー分野における気候変動影響評価
 生物種の気候変動に伴う分布変化予測及び影響評価手法の高度化
 流域生態系管理による気候変動適応効果の評価
PJ3:科学的予測に基づく適応戦略の策定および適応実践に関する研究  気候変動影響および適応策の分野間及び国際的な影響の解析
 自然生態系分野を考慮した気候変動適応策の実装に関する研究
 地域における気候変動適応推進における課題の解析

【PJ1】気候変動影響の定量評価と影響機構解明に関する研究

 PJ1では、過去から現在までにどの程度気候変動影響が生じたかを解明します。具体的には、アジア太平洋地域および国内を対象に、過去から現在において気候変動による影響が生じているかどうかについての分析と、気候変動による影響が生じるメカニズムの解明に関する研究を行います。

 アジア太平洋地域を対象としたサブプロジェクトでは、水稲を対象として、将来起こりうる環境ストレス負荷実験を行うことで、気候変動や大気汚染による影響や環境適応機構に関するメカニズムを明らかにします。また、気候変動や大気汚染、森林火災等によるオキシダントやPM等の排出量変化と暑熱等との複合的要因により生じる健康影響の関係性について分析します。さらに、マングローブ生態系の分布情報を整備して、気候変化とその分布の関係性を明らかにするとともに、実験や野外調査によるマングローブ植物の気温応答メカニズムの解明を行います。

 日本全国を対象としたサブプロジェクトでは、主要な陸域生態系(森林・草原・高山等)、湖沼生態系、藻場やサンゴ群集、水界生態系(生息環境および生物群集)、暑熱による健康、エネルギーを対象として、長期観測データの活用や、室内実験、現場調査を実施することで、気候変動によってどこでどの程度影響が生じてきたのか、気候変動とその影響の関係性を解明します。

 流域を対象としたサブプロジェクトでは、阿武隈川中流域および利根川下流域を対象に、過去から現在にかけての自然環境と災害リスクの変化を把握して、そのメカニズムを解明し、気候変動の影響の程度を明らかにします。

【PJ2】気候変動影響評価手法の高度化に関する研究

 PJ2では、将来の気候変動影響を予測するための手法開発に取り組みます。具体的には、全球からアジア、全国を対象として時間・空間的に詳細かつ信頼性の高い気候変動影響予測を実施するために予測手法の高度化を行います。

 気候シナリオ開発及び全球影響評価モデルによる影響評価を行うサブプロジェクトでは、最新の全球気候シナリオを活用し、観測データとの誤差を調整した全球及び日本域の気候シナリオの開発と整備、配信を行います。また、アジアと日本域を対象とした大気質シナリオを作成し、公開済みの社会経済シナリオと合わせて整備・配信します。さらに、国際プロジェクトに効率的かつ積極的に貢献するために、分野別にモデルの開発や維持管理、結果の解析などを行い、国際的な気候変動影響評価研究に貢献します。

 アジア太平洋地域を対象としたサブプロジェクトでは、水稲、人間への健康、マングローブ、草原域の牧草生産を対象に、気候シナリオを活用した影響予測を実施するとともに、適応策の効果を定量的に評価します。

 日本全国を対象としたサブプロジェクトでは、陸域生態系における群集レベルの生物多様性や生態系サービス、湖沼生態系、サンゴ・藻場群集、全国各地の沿岸域・閉鎖性海域(瀬戸内海、東京湾、伊勢・三河湾、七尾湾・富山湾、有明海・八代海等)、暑熱による健康、エネルギーを対象として、開発するモデルを用いて、気候シナリオを用いた影響予測を実施するとともに、必要な適応策をリスト化してそれらの効果を定量的に評価します。

 流域を対象としたサブプロジェクトでは、阿武隈川中流域および利根川下流域を主なフィールドとして、水源林の管理、都市域の雨水浸透促進、農地の治水活用といった策が、将来気候条件におけるリスク低下にもたらす効果について評価します。

【PJ3】科学的予測に基づく適応戦略の策定および適応実践に関する研究

 PJ3では、気候変動適応策の策定や実施を科学的に支援するための研究を行います。

 気候変動影響および適応策の分野間影響を解析するサブプロジェクトでは、適応研究プログラムが構築する影響予測・適応策評価モデルから得られる結果をもとに、各分野についての影響予測を任意の気候シナリオを選択して実行可能なモデルを開発します。また、「どの適応策をいつまでに始める必要があるか」という問いに答えうる適応経路解析手法を開発します。さらに、水資源等を介して相互影響がある気候変動影響や適応戦略の評価モデルを開発し、水資源等に及ぼす気候変動影響に対する各分野の適応策について分析・評価を行います。

 気候変動適応策の実装に関わる課題を分析するサブプロジェクトでは、自然生態系分野を中心に、①気候変動が生物多様性に与える悪影響の低減、②生態系を活用した気候変動適応、③自然生態系分野での既存の対策、自然生態系以外の分野の適応策、気候変動緩和策との競合や対立の解消及び相乗効果の創出、の3つの観点から気候変動適応策の推進を科学的に検討します。

 地域における気候変動適応推進による課題の解析を分析するサブプロジェクトでは、国内および海外で策定された地域気候変動適応計画等の内容分析を実施し、国内の適応計画文書の傾向と特性を明らかにします。また、適応政策の効果を因果推論的な手法を用いて評価し、適応政策と実践の乖離を抽出します。このとき、アンケート調査等を実施してその乖離が生じる要因を解析します。さらに、既往研究で開発した「インパクトチェーン」や「ワークショップ」などの手法を応用して気候リスクの定量化・可視化を行うことで対応する適応策を整理し、適応計画等の策定を支援します。

(ひじおか やすあき、気候変動適応センター 副センター長)

執筆者プロフィール:

筆者の肱岡 靖明の写真

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