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環境生物保存棟

研究施設業務等の紹介

笠井 文絵

 環境生物保存棟(写真1)は既存の微生物系統保存棟の北側に隣接し,玄関と2階の一部で既存棟とつながった形で建設されました。両方の棟を合わせて「環境生物保存棟」となりました。これまでの微生物に加えて,絶滅危惧種など環境保全に関連したもっと大きな生物の細胞や遺伝子を保存しようという構想を表しています。また,これらの生物も含めて多様な自然環境は,われわれ人類にとって貴重な生物資源でもあるため,英語では「Biological Resource Collection」としました。新築部分は3階建,延べ面積約1400m2と小さな建物で,棟内の各実験室もコンパクトに作られています。その中で,屋外に設置された5トンの液体窒素タンクに直結した245lの液体窒素槽16基からなる液化窒素凍結保存システムが大きな売り物です。このほか,環境生物保存棟には,今まで微生物系統保存棟で行われていた環境微生物系統保存事業の拡充に必要な諸設備を整えるためのスペースが設けられました。

外観写真
写真1 環境生物保存棟

 既存棟と共通の玄関を入ると左手に展示スペースが設けられています。ここでは環境生物保存棟に保存されている多様な微細藻類やそれらがかかわる環境問題について,パネル,ビデオ,模型などを利用して説明し,見学にみえた人達に微小な世界と環境とのかかわりを理解していただこうと考えています。

 絶滅危惧種に関するパネルなども徐々に(急速に?)ふえていくでしょう。また,比較的大型の藻類,絶滅危惧種も含まれる車軸藻類や淡水産紅藻類などの“生”の培養株を展示し,見学者の方々に実感していただきたいと考えています。展示スペースを通り抜けると新館の廊下に出ます。1階には,野外試料実験室や電子顕微鏡関連の部屋が並びます。透過型と走査型の2種の電子顕微鏡が入るスペースが用意されていますが,今回の建設予算で電子顕微鏡は設置されませんでしたので,現在は大きな空き部屋になっています。微細構造や微細な外部形態の解析は,微細藻類などの微生物の分類学的研究には必須のテクニックであり,なるべく早期に購入できることを願っています。

 その奥には凍結保存や凍結乾燥保存を行う実験室が並びます。凍結乾燥処理室には,既存棟からプログラムフリーザーや凍結乾燥機などが引越し,凍結サンプルや凍結乾燥サンプルを作るための専用の実験室ができました。一番奥の凍結保存室には前述の液化窒素凍結保存システム(写真2)が設置されています。槽内の温度や液体窒素量を既存棟の管理室でモニターすることができます。絶滅危惧種や稀少種の細胞,遺伝子を凍結し,保護・増殖に役立てるために保存します。また,既に20年あまり行っている微細藻類の系統保存および分譲事業については「微生物系統保存施設(Microbial Culture Collection)」という名前で所外に広く知られています。この名称は環境生物保存棟の内部施設に位置付け,今後も使われていきます。微細藻類の保存施設としては日本最大で,中心的な施設といえます。将来,藻類全体の資源保存の中核的存在になることは間違いありません。そのとき,日本中から集められた培養株を保存するためには,省マンパワー,省スペースをはからなければなりません。凍結保存などの安定した長期保存法は今にも増して重要になります。そのためにも凍結保存法の改善は急務の課題です。

タンクの写真
写真2 液化窒素凍結保存システム

 2階には化学形態実験室とクリーンルーム,培養室などが並びます。ここでは,微生物の生理・生化学的特性の測定や分類学的研究,稀少種の培養,微細藻類の大量培養などが行われます。3階には野外試料保存室・培養室,遺伝子実験室や分解機能実験室などがあり,遺伝子解析や保存株の持つ様々な機能のチェックが行われる予定です。また,情報解析室にはSpecies 2000 Asia-Oceania(アジアオセアニア9カ国からなるネットワークで,この地域の生物多様性情報の発信を促進するため,分類体系とタイプ標本・株へのアクセスを支援するためのデータベース開発を協力して行っている)などのサーバーが設置され,多様性研究に関連した情報発信が行われます。微生物系統保存施設の保存株情報もより充実させ,国内ばかりでなく広く世界中で利用されるような体制を整えていきたいと考えています。

 5月末の竣工の後,7月23日には設立記念シンポジウムが大山記念ホールで開催されます。このシンポジウムは国際会議Algae 2002のサテライトシンポジウムとしても位置付けられており,世界のカルチャーコレクション(微生物培養株や培養細胞などを保存する施設)にかかわる研究者や有毒アオコなどの環境問題に取り組む研究者を招へいし,「カルチャーコレクションと環境研究」というテーマで講演が行われます。この機会に,まずはアジアオセアニア地域の中心的なカルチャーコレクションとして環境生物保存棟をアッピールしたいと思います。

(かさい ふみえ,生物圏環境研究領域系統・多様性研究室長)

執筆者プロフィール

週末は草取りに追われ,“趣味”から“ストレス”に変わりつつある。ここ10年は自転車生活。ただし,いろいろな方に車に乗せてもらい感謝しています。たばこ嫌い。